31話 属性剣
2016/2/16 誤字修正
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結果的に、ヴェルゼとの契約を切らなくて正解だったと言えるだろう。いや、そもそも契約を切るという選択肢自体が俺の中には存在しなかったわけではあるのだが。
仮に契約が切れてもヴェルゼがなんともなかったとしても、今回は契約を切っていなくて正解だった。
なぜかと言えば、それは生屍化したオークキングが魔法耐性を持ってしまっていたことに起因する。
◇
「……だめだ、やっぱり初級の光魔法じゃ牽制にもなりゃしない」
初級光魔法――光点の魔法を放ちつつ独りごちる。手元より放たれた光の弾は、オークキングに当たると同時に霧散してしまい、その肉の体にはほとんどダメージを与えられていないように見受けられた。
「だが、ちょっとおかしくないか? いくら俺の光魔法が弱いからって、ここまで効かないもんなのか?」
光魔法の出力が安定していないとはいえ、それでも多めの魔力は裂いているし最低限の威力は確保できているはずだった。
なのに、オークキングには傷一つついていないのである。
「この様子だと、神官の魔法でも微妙な線かもしれないね……。なんでこんなに効きにくいんだろうね」
言いながら、オルタはハッとした表情を浮かべ、一つの仮説を立てた。
「もしかすると、ヤチヨの放った魔法によって魔法耐性が上がったのかもしれない……」
どういうことかと言えば、俺の魔法耐性が高いことと同じ理屈だという。俺の場合ヴェルゼとの契約時に莫大な魔力を必要としたため、足りない分の魔力が反動となって俺に襲いかかった。魔力の反動は魔法を受けるようなものだから、体に経験として刻み込まれ、魔法の耐性が上がったのだ。
似たようなことがオークキングにも発生したとオルタは考えているようだ。俺が放った爆嵐の火力が余りにも過剰であったことから、オークキングの経験として大きな魔法耐性を与えることになってしまったのではないか、と。
普通ならば致死の魔法を食らって魔法耐性があがるなんてことはないのだが――死んでしまうのだから当然だろう――、生屍として復活しているために魔法を受けた経験が残っている可能性が高いそうだ。
今までに発生が報告されている生屍たちもあれほどまでの魔法によって死に至った例はなく、経験による大きな耐性を持つほどの生屍は現れていなかったため、実質新たな発見と言えるのだが現状全く嬉しくない発見である。
「となると、あいつはなんだ。光魔法でしか倒せないのに、魔法に対して強い耐性を持ってるってことか」
今も腐肉を撒き散らしながら俺たちに攻撃を加えてきているオークキングを睥睨しつつ、仮説から得られた情報を元に現状を一言で表す。
「そうなるねえ。これはほんとにどうしたもんかね」
オークキングが横凪に振るってくる腕をバックステップで交わしつつ、オルタが言う。オルタにも解決方法が思い浮かばないようだ。
そんな中、戦闘に集中しつつも黙って話を聞いていたフィーアが何やら言いたげにしているのが視界の端に映った。
「フィーア? 何か思いついたのか?」
攻撃が当たらないことに苛立っているのか、繊細さに欠ける攻撃を繰り返すオークキングの攻撃を避けつつフィーアに問う。
「確信があるとは言えぬが……。要するに、光属性の物理で殴れば良いのじゃろう?」
光属性の物理。言いたいことはなんとなくわかるが、言われてパッと思いつくような物もない。
「例えば、光の魔石によって属性付加した武器なんかじゃの。まぁ、ここにはそんな物がない故に言うべきか迷っておったのじゃが」
どうやら、武器には魔石を使って属性を付加できるらしい。初めて聞く話なので、そんな物もあるのかと感心する。
「属性付加された武器か……。そう簡単には手に入らないし、そう都合良くあたしたちが持っているわけも……!」
オルタが思案しているといよいよ我慢できなくなったのか、オークキングは大きく吠えると同時に、腕に魔力を集中し始めた。魔法耐性だけでなく、魔力も成長してしまっているのだろう。かなりの濃度の魔力が腕に纏わり付いている。
「そうだ、その手があるじゃないか」
その様子を見ていたオルタが何か閃いたようだ。先ほどの発見といい、今のオルタは冴えている。
「普段剣なんて使わないから思い出すのに時間がかかったよ。属性剣なら耐性に削がれずにダメージを与えられるんじゃないかね」
ここで言う属性剣とは、先ほど挙がった魔石による属性付与された剣のことではない。一流の剣士が、それも魔法もある程度嗜んでいるような者が、自らの武器に魔法によって属性を付加するという技術のことだ。
簡単にできることではないが、その分威力は筆舌に尽くしがたいらしい。何でも、極めた者ならば飛龍ですら両断してしまうとか。
当然それをやれそうなのは、この中では俺だけであって、3人の視線が俺に集中する。
「いや、急にやれって言われても無理だぞ。まず物に魔力を通したことがないし、剣の腕は素人だ。成功するとは思えん」
いくら魔力量の多い俺でも、聞いただけでは高等技術を再現できようはずもない。そもそも、魔法による属性付与は物質に干渉するため上位魔法に分類される。一応魔法が使えるようになったとは言っても、上位魔法はまだ使えたことがない。
「剣も量産品のただの鉄の剣だしね……。望みは薄いかね」
ミスリルなどの魔法鉱石と呼ばれる物からできている武器や防具は、魔力の通りがいいらしく属性剣などを使用する際に重宝されるらしい。
逆に、それ以外の鉱石でできている物だと負荷が大きすぎて発動させられなかったり、武器としての形状を保っていられなくなったりするらしい。
「主様の魔力量なら、剣を刺してから属性を流し込めばなんとかなるのではないかの?」
「それなら、恐らく十分な火力を期待できるね」
フィーアが提案してくる。体の内側からであれば耐性もほぼ無意味であるため、効果的だろうとのことだ。
単純に言えば近づいて剣を突き立てるところまで自力でやって、その状態で全力で属性付与しろということだ。
簡単に言ってくれるが、何度も言うように俺の剣は素人であるため、うまくいく確証はない。
「……気乗りしないが、やるしかないのか」
半ば諦めつつ言う。俺がここでやらなければ、誰もオークキングを止められないのだ。放置すれば町は少なくとも半壊以上になるのではないだろうか。何せ、期待していた神官の魔法も効きにくいときている。
「……ヤチヨならできる。絶対に大丈夫」
ここぞと言わんばかりに俺の目を真っ直ぐに見つめて、力強くヴェルゼが囁く。
彼女が絶対と言ったのならば、絶対だ。これから俺がやることはうまく行くし、うまく行かなくとも俺がそれを許さない。
ヴェルゼに、俺が原因で嘘を言わせるわけにはいかないからな。
「じゃあ、軽く捻ってやるとするか」
そう嘯いて、俺は剣を構える。指輪の力で重さなどないに等しい剣が、なぜか今は重く感じる。緊張で手が小刻みに震えているのがわかる。
――大丈夫だ。もしも失敗したって、俺は死なないし、それ以前にヴェルゼが大丈夫だと言ってくれた。だから何も心配することはない。
そう自分に言い聞かせ、腕に魔力を纏わせたオークキングを正面に捉える。
次の瞬間、俺はオークキングに向かって疾走する。指輪の補助を受けた筋力は、生前とは比べものにならない速度で地を蹴る。
一息の間にオークキングに肉薄すると、腰だめに構えた剣をそのままの勢いで突き出す。今まで攻撃を避けるためだけの動きしかしていなかった俺がいきなり目にも留まらぬ速さで駆けだしたため、オークキングは反応できていない様子だった。
現在のオークキングを形成する腐った肉塊は突き出した剣に抵抗できるはずもなく、その腹部はズブリと剣を飲み込んでいく。
肉に刃が突き立てられる確かな手応えを感じつつ、あとは属性付与を全力で発動するだけだ。
――そう考えた瞬間、魔力を纏ったオークの右腕が俺の背中を捉えた。
「か、はっ……!」
「ヤチヨっ!」
剣を突き込むために体重を乗せた体制のところを、振り下ろすようにして殴られたらしい。折れてはいけないものの折れる不快な音と感触が、尋常ではない痛みの中に響く。遠くで誰かが俺の名前を叫んでいた。
半ば強制的に肺の中の空気を押し出され、余りの衝撃に呼吸もままならない。口からは紅い液体が溢れ出し、長らく感じていなかった死の恐怖を思い出す。
だが、ここで止まる訳にはいかない。俺が死なないのはいいとしても、恐らく今回の動きでオークキングは俺を警戒するようになるだろう。静と動をうまく切り替えられたからこそ今回はうまく剣を突き立てる所まで行ったが、この後はわからない。
それに、今のオークキングの動きで、手から剣の折れた感触が伝わっていた。
だから、ここで手を離すわけにも、意識を手放す訳にもいかない。失血で少しずつ目の前が暗くなっていくが、残された気力を振り絞って、握った剣に魔力を集中する。
生憎、肺がつぶれて声が出せない。……だから、今回は魔法名を告げるのではなく、強く念じることで発動させる。
俺の視界には、いつぞやを思い出すような閃光が握った柄を中心に弾けていた。体だけでなく、脳までもがチリチリと痛みを訴えてくるが、それを無視して魔力の凝縮を続ける。
俺の体力も限界が近づいてきたところで、溜めに溜めた魔力を種に魔法を発動する。
(属性付与・光……っ!)
そう強く心の中で叫べば、暗くなっていた視界を眩しいほどの純白の光が覆った。握っていたはずの剣の柄の感触はすでになく、俺の感覚が鈍っているのか、それとも剣が消滅してしまったのか。俺にはもう判断できるほどの力が残っていなかった。
ともあれ、これだけの現象である。属性付与の発動を確信した俺は、そのまま気を失うのだった。
最後に八千代が気を失ったのは即死でなく失血であるためです。
死んだら生き返りますが、逆に言えば死ぬまで復活できませんからね。
次回辺り濡れ場……は偉い人に怒られてしまいますので、怒られない程度のものを予定。
15話区切りくらいで間話を入れたいけど、もう少し先になりそうですね。




