29話 生ける屍
唐突だが、依頼にはいくつか種類がある。
一つ目は、冒険者ギルドを通した依頼。正確には公式依頼というのだが、依頼と言えば大体はこれを指している。
二つ目は依頼主から直接受ける依頼。これは個人依頼と呼ばれる。冒険者ギルドを通さない分、問題が起りやすいというデメリットがある。
これらの大きな違いと言えば、公式依頼では登録時に手数料がかかるという所だろう。ギルドが仲介することで依頼の手続きや内容を統一の規格に当てはめスムーズな運行を可能にしており、その分を手数料として依頼報酬のうち数%をギルドが徴収しているのだ。
つまるところ、個人依頼ならばギルドに手数料を取られない分、報酬が多くなる傾向にあるが問題も起りやすいということである。
それら以外にも緊急依頼や特殊依頼などがあるが、この場では割愛する。
何が言いたかったのかというと、今回八千代たちがリリティカから受けた依頼は個人依頼と公式依頼の中間とも言えるような形である、ということだ。
リリティカから依頼内容について聞かされ、そのまま魔力草を取りに行くことになっている辺りは、個人依頼と言って差し支えない。しかし、リリティカがその後にギルドに依頼として出しておくと言っているため、最終的には公式依頼となるわけだ。
リリティカとしては急な依頼だが面倒ごとを避けるという意味と、八千代が冒険者になりたてと言うことで依頼時の手続きなどについて勉強させてあげようという意味とがある。
緊急時でも新米冒険者の経験を考慮する辺り、リリティカの人柄が見えてくるというものだろう。
長くなってしまったが、こういうわけで八千代たちは正式依頼として魔力草を森付近まで採りに行くこととなったのだった。
◇
「さて、一応準備はできてるよな」
「ああ、大丈夫だよ」
「特に何かが必要な訳でもないしのう」
「……」
俺が皆に尋ねれば、それぞれが反応を返す。最後の沈黙は言わなくてもわかるだろうが、ヴェルゼの首肯だ。未だに二人の時以外はほとんどしゃべらないな。
「じゃ、さくっと行って採ってくるか。どんな草かはオルタがわかるんだよな?」
「ああ。前に依頼で採りに行ったこともあるしね。それに魔力草は名の通り魔素を含んだ薬草だから、魔力感知のできる人なら割とわかりやすいと思う」
「なら安心だな。北門から出て真っ直ぐでいいだろ?」
「そうだね。森までの間に強い魔物が出てくることもないだろうし、出てきたとしても過剰戦力さね」
元Aランクに、Eランクだが尋常ではない魔力量の魔術師。さらには死神と吸血鬼だ。町周辺で倒れるようなパーティではないだろう。
話しながら、北門に到着する。一応門番のような警備員が立っていて、身分の証明できるものの提示を求めてくる。顔なじみにもなればさほど時間は取られないのだが、今回が初めてと言っていいような八千代たちは念入りに冒険者証をチェックされるのだった。
「はい、問題ありませんね。時間を取らせてしまってすみませんでした。採取依頼とのことですが、外は危険ですので十分にお気をつけて」
Eランクということを考えての発言だろう。丁寧な仕事ぶりである。
「ああ、ありがとう」
そう言って俺たちは町の外に出た。半年ぶりに見る北側の地面は、俺が焼いたことを感じさせないくらいの草原になっていた。
「半年もあれば草は生えてくるか。この分ならもっと近場で魔力草が採れるんじゃないか?」
「いや、さっきも言ったけど魔力草は空気中の魔素を取り込んだ草だからね。半年位じゃ若すぎるね」
とのことらしく、やはり森の方まで行かないとだめらしい。なるべく危険の無いようにしたかったが、そううまくは行かないようだ。
「一応警戒しながら進むよ。この辺りでも弱いとはいえ魔物が出るからね」
「了解。備えあればなんとやらだな」
この辺りの草原には耳が刃のようになったウサギのような魔物――ブレードラビット――や、それを餌としている蛇のような魔物――アシッドスネーク――などが主に生息しているらしい。
どちらもそれほど強くはないが、新米冒険者はこれらを狩るところから戦闘を覚えていくそうで、それに見合うくらいの脅威はあるらしい。
特にアシッドスネークは体内に強酸を持っており、それを飛ばしてくることもあるため油断はできないそうだ。浴びれば見る見る間に皮膚は溶け、すぐに洗い流すなどの処理をしなければ数分のうちに肉が溶けきって骨まで露出するほどらしい。また武器や防具に浴びても厄介で、皮なら溶けて駄目に、鉄でも腐食して駄目にしてしまうそうなので、アシッドスネークの対応は新米たちの課題となるらしい。
と、説明を受けていると――
「噂をすれば、だね。あれがアシッドスネークだよ」
20メートルほど先に、立った人と同じくらいの全長を持つ蛇がこちらを警戒しながら這っていた。太さは人の腕くらいだろうか。結構な大きさに、やや腰が引ける。
「酸攻撃の射程は5メートルくらいだ。つまりその外から攻撃できるなら大して脅威にはならないね」
この世界でも距離はメートルらしい。まぁ、1メートルが俺の知っている1メートルの長さじゃ無いかもしれないが。そんなことを思いつつ、初めての戦闘で魔法を放っていいか尋ねる。
「俺がやってもいいか?」
「いいよ。ヤチヨの魔法なら初級で十分だろうから、落ち着いてね」
許可をもらったので、いつも通りに魔法を放つ。火を中心に使っていく予定なので、火の初級魔法である火炎を放つ。
「……火炎っ」
俺の手から放たれた炎は1メートルほどに膨れあがる。そして揺らめきながらもそこそこの速度でアシッドスネークに到達した。その後は火球のように弾けたりせず、まとわりつくようにして燃焼を続けていくのである。威力的には中級である火球よりも劣るが、ここらの魔物に対する威力としては初級でも十分だったようで、火が消える頃にはのたうち回っていたアシッドスネークは息絶えていた。
「魔物も呼吸はしてるからね。火に包まれれば大体窒息するか焼けるかして倒せるってわけさ」
火に全身を包まれれば呼吸はままならないし、肺を火傷もするだろう。なんとなしに使っていくと決まった火魔法だが、結構有用なのかもしれない。
「アシッドスネークは持って行っても大した金額にならないし、放っておけばいいさ」
そう言ってオルタは進んで行く。アシッドスネークは肉が美味しいわけでも無く、むしろ酸の処理をしなければならないために手間がかかってあまり使われないらしい。対してブレードラビットは淡泊な味の肉に加え毛皮も重宝されるそうで、狩って帰ると小遣いくらいにはなるらしい。
その後も似たような戦闘が続いた。途中ブレードラビットと遭遇したため、俺が魔法で倒した。毛皮を焼いてしまうと価値が下がってしまうので、ストーンの魔法で拳大の石を打ち出し、頭蓋を砕いた。その死体はオルタの持つずた袋に入れられている。いつぞやの光景を思い出し、俺は苦笑いになった。
大して苦労もしない戦闘をしつつしばらく歩くと、草原に生い茂る草の高さがやや低い所に出る。どうやら、俺の放った魔法の中心部――つまり、オークキングの倒れた地点に着いたらしい。
そこで、オルタが立ち止まり何か呟く。
「……死霊が騒がしい……?」
どうやら、何か異変があったようだ。死霊術士はその術を使っていなくても、周囲の死霊と多少の意思疎通が可能だと聞いている。精霊みたいなものだ、とはオルタの言だ。
それがどうやら反応しているらしく、オルタの表情が険しくなっていく。
「もしかすると、拙いことになっているかもしれないよ……!」
苦虫を噛みつぶしたような表情でオルタが言う。拙いとは、どういうことだろうか。
「半年前の襲撃の後、オークキングの死体が見つかっていないらしいんだ。あの威力だったから、てっきり灰も残さず燃え尽きたんだと思っていたんだけど……」
そう言いつつ、辺りを見回すオルタ。すると、どこからか饐えたような、いい匂いとは言いづらい臭いが辺りに漂い始める。
「……やっぱり、あたしの感は当たってたみたいだねえ」
その言葉とは裏腹に、全く嬉しそうではない。当たって欲しくない感が当たってしまっているのだから当然だろう。
「生屍化だね」
そう言ってやや離れた場所の一点を見つめるオルタ。そこには、腐った肉を固めてつなげたような、醜い姿の豚頭の魔物――所々肉が腐り落ち、どろどろとした何かの液体を撒き散らしつつこちらに近づくオークキングの姿があった。
自分でも想定していなかったのですが、何やらオークキングが復活したようです。
9話で上級魔法と上位魔法の表記が混同しており、自分でも混乱したため統一・修正しました。
今後は以下のような分類でやっていく予定です。
○位魔法=下位と上位で、その分野の魔法全体の格です。火は下位、回復は上位のような。
○級魔法=その分野における魔法の難度です。火なら下級がファイア。中級がファイアボールのような。
混乱させてしまったかと思います。申し訳ありませんでした。
以後、気をつけて行きたいと思います。




