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28話 流行病

「おい、大丈夫か?」


 倒れている女性を揺さぶりながら声をかける。女性の反応は芳しくなく、苦しげな呻き声を上げるばかりだ。


「意識があまりはっきりしていないな……。呼吸と脈は正常だが、汗がひどい。回復魔法を使える人を呼んだ方がいいかもしれないな」


 前世での知識を元に、ある程度状態を観察する。今回のような病や発作のようなものに対して回復魔法がどれほど効果があるかはわからないが、無いよりはマシだろうという判断だ。


「確か、薬屋が回復魔法を使えたはずだ。神殿の奴らも使えるが、薬屋の方が近いね。あたしが呼んでくるよ」


 そう言ってオルタが外へと駆け出す。こういうときにこの町について詳しい人がいてよかったと思う。


「とりあえず、熱もありそうだし冷やすか……。その前に、奥に運んだ方がいいな」


 病人を動かすのもどうなんだ、というのはあるだろうが、外傷性のものではなさそうだから多少動かしても害はないだろう。となれば、地面に寝かせておくよりは店の奥にある部屋の方がいいだろう。


「とりあえず、俺が運ぶからオルタがついたら奥に案内してくれ」


「わかったのじゃ」


 そう告げて、この店の従業員であろう女性を持ち上げる。なるべく動かさないように、上半身を支えたら膝の裏に腕を入れ、持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこのような形である。女性がそんなに重くないことに加え、俺には指輪の効果もあるために、難なく持ち上がった。

 ヴェルゼとフィーアが羨ましげに視線を送っているような気がするが、あえて無視する。


 店の奥は生活スペースになっており、畳まれていない布団が敷かれていた。おそらく、ここで寝ていたが何かの理由で店の方へ出たところで力尽きたのだろう。起き抜けのまま放置されている布団がそれを物語っていた。


「薬屋連れてきたよ!」


 俺が布団に寝かせ終わると、ちょうどオルタが薬屋を連れてきた声がする。近いだけあって、到着も早い。

 店の方へ出て行くと、走ってきたのだろう息を切らせている薬屋も女性である。薬というイメージから婆さんをイメージしていたが、全くそんなことはなかった。と言うか、オルタと同じくらいの年齢に見える。尖った耳から、これがエルフなのだろうか、と勝手に想像する。


「ミシュレイが倒れたというのは本当ですか?」


 ミシュレイというのは倒れていた女性のことだろう。薬屋のエルフ(仮)さんがやや慌てたように尋ねてくる。


「ああ、今奥の部屋に寝かせたところだ。熱がありそうで、意識が完全にはっきりとはしてない」


「すぐに診ましょう」


 そう言って奥に行くと、エルフさんは軽くミシュレイを触ったりした後回復魔法を唱える。


「――単体回復ヒール解毒術アンチドート


 前者は単純に回復魔法、後者は毒を体からある程度抜き出すという魔法だ。

 柔らかな暖かみある光がミシュレイを包むと、その光が体に吸収されていくように消えていく。光が完全に消える頃には、ミシュレイの息苦しそうだった表情は安らぎ、静かな寝息を立てていた。


「ふう。応急処置はしましたので、大事にはならなそうですね」


 そう言ってエルフさんが息をつく。助かったようで何よりだ。


「急に呼んでしまってすまなかった。お陰で助かったみたいでよかった。ありがとう」


 俺がお礼を言うのもおかしいような気がするが、来てくれたことに感謝はすべきだ。素直に礼を述べる。


「いいのですよ。私もミシュレイとは友人ですし、間に合わないようなことにならなくてよかったです」


 ほっ、と胸を撫で下ろしながらそういうエルフさん。……いい加減エルフさんと呼ぶのも面倒だな。


「急なことで自己紹介が遅れたな。俺は相馬八千代。冒険者になったばかりだ。これから世話になると思う」


「これはどうもご丁寧に。私はリリティカと申します。見ての通りエルフでして、薬屋などをさせて頂いております。気軽にリリィとお呼びください」


 やはりエルフだったようだ。物腰柔らかく、丁寧な口調が好感を誘う。物語のエルフは人間嫌いだったりするから、最初から好感度マイナスとかでなくてよかった。


「ああ。よろしくな、リリティ――」


「リリィです」


「リ、リリィさん」


「呼び捨てにして頂いて構わないのですが……。まぁ初対面ですし、よしとしましょう」


 リリティカさんと呼ぼうとしたら訂正されてしまった。人と話す際呼び捨てにすることが多い俺だが、なぜだかリリティカはさん付けしなければならない気がしてくる。口に出さなければ基本呼び捨てなんだけどな。丁寧な口調のせいだろうか。


「ちなみにリリィはこんな見た目だが、実年齢はなんと驚きの――」


 オルタがそこまで言ったところで、リリティカからとんでもない圧力を感じる。濃密なまでに感じられるそれは、恐らく極限まで圧縮された魔力だ。エルフは魔法の扱いに長けていると聞いていたが、この圧力は少しビビる。


「悪かったって。そう怒らないでおくれよ。私とリリィの仲だろ?」


「どなたか存じませんが……というのは冗談で、オルタですね。吸血鬼化したのですね」


 どうやら博識なようだ。オルタの吸血鬼化を見ただけで言い当てている。この人、実はすごい実力者なんじゃないだろうか。

 オルタと会話しつつ、放っていた魔力を納めていくリリティカ。年齢のことは触れないようにしようと思う。それよりも、ミシュレイの状態についてだ。原因は突き止めておいた方がいいのではないだろうか。


「ミシュレイ……さんは、もう大丈夫なのか?」


 一応初対面だし、呼び捨ては避けておく。俺の問いに対してリリティカが答える。


「そうですね……。恐らく、最近流行っている病かと思います。高熱が出て意識がはっきりとしないところから、最近患者の数が増えている病で間違いないかと。回復魔法である程度回復しますが、完治には薬での治療が必要ですね」


「完全に治った訳ではないんだな」


「はい。私のところに薬の在庫があればよかったのですが、流行病なので需要が大変なことになっておりまして、生憎ストックがございません。材料となる魔力草が全く足りていない状態なのです」


 多くの人がこの病にかかっているのだろう。それで供給が追いついていないらしい。魔力草というのは多くの薬のベースになるもので、この病に対する薬以外の供給も不足しがちで困っているそうだ。


「魔力草ってのはそんなに手に入らないものなのか?」


「いえ、北の森付近ならば沢山生えているはずです。しかし、森に近づけるような人は採取系の依頼を受けて下さる方は少なくて……」


 なるほど、それだけの力があるならば狩猟系の依頼を受けた方が儲かるし、採取系しか受けられないような人は森にはあまり近づけないということか。


「それなら、今まではどうやって賄っていたんだ?」


「はい、今までは森付近よりももう少し近いところに生えていたので、それを採取して下さる方がある程度いらっしゃったのですが……」


 今はその辺りに生えていないということだろうか。なぜそんなことになっているのだろう。


「ええと、半年ほど前のオークの襲来のことは知っていらっしゃいますよね」


 おずおず、と言った風に尋ねてくるリリティカ。なんだが雲行きが怪しくなってきたぞ。


「ああ。だが、大きな被害は出ていないと聞いたが」


「はい。人員的な被害はほぼ無いと言っていいのですが、あの時に大規模な火魔法が使われたそうで――」


 これはもしかすると、もしかするかもしれない。そう思いつつリリティカの話の続きを聞く。


「――その際に、付近に生えていた魔力草も根こそぎ灰になってしまったようで、採れなくなってしまったのです」


 やっぱりそうだった。煌々と焼けていた大地のあの光は土が焼けているだけじゃなくて草も燃えていたんだな。

 つまるところ、完全に俺のせいである。ごめんなさい。オルタがやったことにはなっているのだが、あまり公にはなっていないし、実際やったのは俺だ。


 しかし、それを正直に話す訳にもいかない。


「そ、そうか。それはなんと声を掛けていいやら……」


「オークの進行を止められたのですから、背に腹は代えられません。しかし、少しばかり困ったことになっているのも事実ですね」


 魔法を放った魔術師を咎めないところに、俺の良心が痛む。というか、こんなことを言われてしまったら俺の取るべき行動は一つしか無いだろう。


「あー、じゃあその魔力草とやら、俺たちで採ってこようか」


 原因は俺のようだし、当然の行動だろう。そもそもEランクじゃ採取系しか受けられないから、元よりそのつもりだったしな。


「いいのですか? オルタはAランクですし、ヤチヨさんたちだけでは危険なのでは……」


 冒険者になったばかり、というのが引っかかっているのだろう。当然の反応だ。


「あたしはいろいろあって今Eランクになっててね。ヤチヨはEランクらしからぬ力を持ってるし、他のメンバーも似たようなもんさ。だから大丈夫だよ」


 オルタが補足する。オルタのランクが下がったことについて訝しげな表情になるリリティカだったが、余計な詮索はすまいと半ば強引に納得したようだ。


「なら、お任せしてよろしいでしょうか? 一応依頼として申請しますので、少ないながら報酬もお出しします」


 正直俺のせいという引け目があるので報酬なしでもいいのだが、もらえるものはもらっておこう。


「ああ。助かる。どのくらい採ってくればいい?」


「そうですね。籠に一杯もあればしばらくは大丈夫だと思います」


「わかった。すぐ採ってくるから待っててくれ」



 こうして、初の依頼は魔力草の採取になるのだった。Eランクとしてはやや荷が重いらしいが、俺たちならばそう苦労はしないだろう。

 ――そう思っていた時期が、俺にもありました。

リリティカさんの年齢は3桁の予定。エルフは500年くらい生きる設定です。


ヴェルゼとイチャイチャするシーンが書けなくてしょんぼりしています。

書いてると話が進まないので。一応1時間ごとにはしていることになってます。

無口キャラは絡ませづらいですね。あとでたっぷり時間を取る予定です。

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