24話 朝の問題
フィーアが仲間になった次の日。今の時刻は日本換算で朝6時頃か。まだ誰も起きておらず、俺もオルタの家のベッドの上である。
結局昨日はフィーアとオルタに話を聞いていたら1日が終わっていたため、今日ギルドに行って細かな説明を受けることとなっている。
オルタについては、吸血鬼化によってフィーアの命がオルタの命とも言えることを聞いた時は肝が冷えた。それを知っていれば交渉など考えもせずにフィーアを助けていただろうに、オルタがそれを俺に対しての負担と捉えて知られるのを嫌がったため、あんなことになってしまった。
まぁ、結局オルタは助かるのだから過ぎたことはもういいだろう。
そのオルタだが、一度死にかけているために何やら思いついたことがあるらしい。というのも――
「あたしは王国……正しくはセントリア王国に追われていた身だ。しかし、王国も私の寿命が残り短いことを知っていてね。何が言いたいかって言うと、このままもうしばらく潜伏していればあたしは死んだという扱いになるだろうと予想しているんだ」
「そうすればもう追われなくなるのか?」
「恐らくは、ね。吸血鬼化によって眼の色が変わって、体型も変化したろう? だから、ぱっと見であたしに気づく奴はそういないと思うんだ。ノスティこそ知り合いは多いが、他の場所はそこまででもないしね」
「まぁ、今までと比べたら別人のようではあるか……」
「ああ。それに際して、あたしはオルタじゃなくオルタナと名乗ろうと思う」
「あんまり変わってない気がするけど、それで意味あるのか?」
「ラウリスに頼んで、冒険者証を書き換えて貰おうと思ってる。そうすればオルタかと言われてもオルタナですで通せるようになるさ」
「そんなものなのか……? まぁ、オルタがそう言うなら大丈夫なんだろうけど」
――ということがあったのだ。名前を呼ぶ際には今まで通りオルタでいいとか。あだ名で通るだろうって寸法らしい。
一応身分証明証である冒険者証の名前がオルタナになるのだから、筋は通っているのかもしれない。
ちなみに、吸血鬼の血族みたいな感じでオルタナ・ヴァレンハイトが正式な名前になるそうだ。ミドルネームが付くのは直系の吸血鬼だけで、吸血鬼化によって血族となった者にはつかないとはフィーアの言だ。
吸血鬼とノスティは因縁があるような気がするんだが、その辺はオルタがなんとかするらしい。フィーアは保守派だったみたいだし、まぁなんとかなるんだろう。
とまぁオルタの話は置いておいて、まずはこの現状を何とかしなければならないだろう。今まであえて無視していたが、彼女ら(・)は全く起きる気配がない。――正確には、ヴェルゼは寝ていないのだろうがな。
「おい、朝だぞ。そろそろ起きようと思うんだが」
俺の右側にはいつものように俺の右腕を胸にしっかりと抱いているヴェルゼがいる。最近何かにつけて主張してくる双丘の間に腕が埋もれていて、不用意に動かすとヴェルゼが悩ましい声を上げるのであまり動かすのは俺の精神衛生的に良くない。
いつもは少し声をかければ渋々開放してくれるのだが、今日はそうもいかないようだった。
というのも、左側でフィーアが俺を抱き枕にしているのが原因だろう。ご丁寧に足まで絡められている。スレンダー(・・・・・)な体型のため、ヴェルゼのように包まれるような柔らかさこそないが、女の子特有の甘い香りと首筋にかかる吐息は青少年には刺激が強いと言うものだ。
昨日寝る前に、フィーアは別室にしようかという話が出たのだが――
「当然、主様と一緒に寝るのじゃ!」
と言って半ば強引に布団に潜り込んできたのだ。ヴェルゼが黙っていないと思ったが、なぜか許容したようで、何も言わなかった。昨日二人で何やらこそこそ話をしていたが、それが原因だろうか。
何が言いたいかと言うと、俺はこの朝特有の現象をいかにして隠し通せばいいのか、ということだ。
恐らく、ヴェルゼは気づいている。それはいい。……いや、よくないが、ヴェルゼにはこの半年間で散々色々なことがバレているのだから、今更だという感がある。耳元で、
「我慢、しなくていいのに……」
と言われた日にはどうしてやろうかと思ったが、結局どうもしてしない。今も不機嫌そうに見えて若干口角が上がっている辺り、気づいていて楽しんでいるような気がする。
それより、今はフィーアだ。出会って1日目でこれというのは非常に不味い。なにせ人間というのは第一印象が大切だ。いや、昨日の時点で第一印象は決まっているかもしれないが、それでも出会って初期のイベントと言うものは大切なのだ。ここで悪いイメージがついてしまうと後に引き摺りかねない。
だから、どうにかしてこれを収めるか、もしくは――「ふむ、処理したほうがいいかのう?」――そう、処理しなければ……。え?
「主様はなかなか良いモノを持っておるようじゃの。早速妾の出番かの?」
「な、おま、起きてたのか……? というか、気づいて――」
「当然じゃろう。主様よりも早く起きて、その寝顔と体を眺めるのは当然じゃと思うのじゃが?」
全く当然ではないと思うが、隣でヴェルゼが頷いている。昨日はあれほど警戒していたというのに、なんだかすぐにこの二人は意気投合しそうだな、と思う。
「で、どうするかの? 起きる前にしっぽり楽しんでから起きるかの?」
わきわきと手を動かしながらそういうフィーア。女の子がそんな手の動きをするんじゃありません。
「しないって。もう起きるから、そろそろ離れてくれ」
「むぅ……主様のいけず」
なぜか残念そうなフィーアに、ヴェルゼが一言。
「ヤチヨと先にするのは私。そこは譲れない」
「ふむ、そうじゃったな」
「いや、ヴェルゼともしないからな。ほら、もう起きるぞ」
ツッコミを入れつつ、やや強引に起き上がる。俺に引っ張られるように二人も起き上がった。どちらも軽いためそこまで大変ではないのだが、悩ましい声を上げるのは勘弁して欲しい。
それを意識しないようにしつつ、言葉をかける。
「今日はギルドに細かい説明を聞きに行って、その足で初依頼を受けるって話だったろ。あんまり布団でゴロゴロしてると、オルタを待たせることになりかねないぞ」
オルタは別室で寝ているが、朝は結構早いらしく俺達が起きて居間に行けば、大体いつも朝食が出来上がっている。申し訳ないので、なるべく待たせないように心がけている。
「ふむ、情事の最中に部屋に入られても興ざめじゃしの。……いや、あ奴も誘って――あだっ!?」
「何をいっておるのじゃ。全く、オルタがそんな事に乗るはずないし、そもそも基本部屋に入ってこないっての」
フィーアの口調を真似しつつ、軽く頭をはたく。オルタは俺とヴェルゼに気を遣っているらしく、滅多に部屋には入ってこない。用がある時はノックをしてから、扉を開けずに声をかけてくるくらいだ。
オルタが聞いてたら怒るだろうな、と思いつつ、二人を引きずってベッドから下りるのだった。
その頃。
(あ、あたしがヤチヨとそそそ、そんな……! いやでも、ヤチヨが嫌かもだし、でもあたしが行けばきっと……ってそうじゃなくて!)
朝食が出来上がってしばらく経っても部屋から出てこない八千代達を呼びに行こうと、丁度部屋の前でノックしかけたオルタが偶然フィーアの言葉を聞き取ってしまい、あうあうしていることを知る者はいないのだった。
ヴェルゼもフィーアも可愛いですが、吸血鬼化してふっくらしたオルタも結構な可愛さです。
次回くらいから真面目に冒険者する……予定。




