18話 ギルド登録
いつもよりやや長め。
魔力を扱うコツを覚えた八千代は瞬く間に魔法の腕を上げ、現在は初級魔法くらいなら確実に発動させることができる程度になっていた。
八千代がこの世界に飛ばされてから、半年後のことであった。
普通、全くの初心者から始めて初級魔法が使えるようになるまでというと、早くとも3年はかかるというのがこの世界の常識である。
それを考えれば八千代の異常さがよくわかるというものだろう。オルタも残された時間がないというのによく教える気になったものである。
尤も、八千代が習得できた時点で彼女の判断は正しかったと言わざるを得ないのだが。
そのオルタだが、八千代がこの短期間で魔法を習得できたことに対しては大して驚かなかった。今まで驚かせすぎて耐性がついてしまったというのもあるが、最近では今までの元気さが薄れ、何かを考えていることが増えていた。
現在彼女らはノスティの隠れ家で、いつものようにテーブルを囲んでいる。
「で、話ってのはなんだ?」
神妙な顔つきで、話があると言われていたのだ。やや緊張しつつ八千代が問う。
「ああ。八千代も無事に魔法を習得できたことだし、ギルドへの登録を済ませようと思ってね」
「本当か!」
半年間、ほとんどをオルタの隠れ家で過ごし、外に出る時は大体が荒野だったのだ。町の中に行ったのなんてオークの軍隊を倒した時が最後ではないだろうか。八千代がはしゃいだように言う。
「嘘を言っても仕方ないだろう?」
とオルタ。登録はこの世界に元々いた人間としてすればいいらしい。八千代は迷い人で加護をもっているが、それを知られてしまうと八千代の自由が奪われる可能性がある。それを憂慮してオルタはギルドの長に掛け合って、八千代を一般人として扱うよう頼んだのだ。
そんなことを隠していたのがもし見つかれば、ギルドマスターは処分を受けることになるだろう。しかしそれでもオルタの頼みを聞いてくれると言っており、オルタへの信頼の厚さが伺える。
大体、黒髪はこの世界でも結構な数いるし、知っている者が曝露するということがなければまずバレない程度まで八千代の知識は付いている。まずバレる心配はないと言っていいだろう。
「じゃあ、支度ができたらすぐに行くからそのつもりでね」
まぁ用意するような物もないがね、と笑いつつオルタが言う。最近笑った顔を見ていない気がしており心配していた八千代だったが、杞憂だったかな? と思い直す。
「わかった。すぐにでも行けるぞ」
そう言って立ち上がる八千代。つられて横に座っていたヴェルゼも立ち上がる。
「なら、さっさといこうかね」
「……その前に」
ヴェルゼが八千代を見つめて言う。
「ああ、そうだな」
もはや恒例となったアレである。オルタも慣れたもので、苦笑いしているのみだ。
「じゃ、気を取り直して出発っと」
そう言って3人は冒険者ギルドへと向かうのだった。
◇
「これでいいか?」
冒険者証の発行は書類の記入だけでいいらしい。書き上がった書類をギルドの受付に渡し、確認を取る。
「はい、記入漏れはありませんね。これで冒険者証が発行されます」
特に問題はなかったようだ。身分証としても使える冒険者証を、やっと入手できることに小さく感動を覚える。
「あとは、ランク決定のための戦闘力測定なのですが……」
チラり、と受付のお姉さんが俺を見てくる。今は見た目15歳だから、大したことはできないと思われてそうだな。実際、大したことはできないんだが。
「それについては、私が見ようと思います」
「ラ、ラウリス様!?」
急に現れたラウリスという男。なんでもこの町のギルドマスターらしい。見た目長身の優男だが実力は折り紙つきで、若干25歳にしてギルドマスターを任されているエリートらしい。
オルタに会釈をしながらこちらに歩み寄ってくる。いかにもな眼鏡をしていて、なんだか胡散臭い印象を受ける。
「君がソーマ君だね」
間違ってはいないが、合ってもいないようなニュアンスでラウリスが話しかけてくる。相馬と呼ばれるのも久々だな。
「ああ。あんたがギルドマスターか」
「オルタ君に聞いたのかな。若い人間で驚いたかい? これでも、そこそこの力は持っているつもりさ」
冗談めかして言うラウリス。その目はこちらを品定めしているかのように揺れている。
「実力に若さは関係ないだろ。ところで、戦闘力測定ってのをしてくれるって言ったけど」
「ああうん、たまには職員にも働いているところを見せないとね」
普段は裏方ばかりで働いてるところなんて見せてないからねー、と笑う。職員が慌ててフォローしている辺り、真面目に働いているのだろう。
「ついてきなさい。この先の訓練場で君の力を見させてもらうよ」
楽しみそうに言いながらラウリスが歩き出す。八千代はそれについていきながら、オルタに小声で話しかける。
「なんか、食えなそうな男だな」
「そうでもないさ。何を考えているかはわかりにくいが、基本的に善人だ。あんたのことを黙っておくように頼んだ時も、快く受け入れてくれたぞ?」
それはオルタの威圧感が……と言いかけてやめる八千代。無為に藪を突くこともないだろう。
などと言う話をしていると、ギルド内の細い通路を抜けて広い場所に出た。サッカーコート2面分くらいの大きさはあるだろうか。照明のついた天井が見えるというところから、屋内である。
「……ん?おかしいな。ギルドの外観からしてこんな建物が入るスペースはなかったはずだぞ」
「お、よく気がついたね。通路の先が転移門になっていてね。ここはギルドとは別の場所にある建物だよ」
なんでも、ノスティで大規模な何かがあった場合はここに一旦避難することができるようにしているのだとか。細い通路以外に扉が有り、そこからは外に出られるそうだ。
「訓練所として貸出もしているし、こうやって戦闘力測定をする時なんかにも使うんだ。今は出てもらってるけど、普段は結構人がいるんだよ」
こちらへの配慮だろう。あまり人に見られないほうがいいからな。
「じゃあ早速始めようか。模擬戦闘形式でもいいけど、君は魔術士と聞いているから魔法を見るだけでもいいかな」
近接戦闘系ならば模擬戦闘でその強さを判断するらしいが、魔術師は後衛が主で一方的な攻撃がウリだ。故にその魔法だけ見ればいいだろう、という判断らしい。
「わかった。どんなことをすればいい?」
「得意な魔法をあの的に当ててくれれば構わないよ。尤も、オークを全滅させたようなものを放たれると困るけどね」
やれと言っても無理だろうけど。と笑っているが、目が笑っていない。……どこまで知っているのだろう。オルタを見ると首を振っているので、教えてはいないようだ。
前方には土塊でできた人形のようなものが置いてある。あれが的だろう。
「わかった。大したものは使えないが、やってみる」
言いながら普段通りに(・・・・・)魔力を取り出し、種を作る。魔法は火球にすることにした。初級魔法は全属性使えるくらいになっているが、火魔法は中級の火球でも安定して撃てる。なのでこれにすることに決めた。
サラッと言っているが、以前試した所八千代は下位魔法を6種、つまり全属性使えるヘキサであった。これは女神の言っていた限界突破とかそんな感じのが働いているのではないか、と八千代は考えている。使えると言っても光属性の魔法はほぼ使えないというレベルで、ヴェルゼとの契約が理由のようだ。
これが誰かに知られると大騒ぎになることが予想されたため、オルタと話し合って火魔法が得意なことにしておいた。滅多なことがなければ火以外は使わない予定だ。……今のところは。
「火球」
小さくつぶやき、火球を発動する。形成された魔法は狙い違わず的にぶつかり、ゴウッと音を立てて爆ぜる。
的を見てみると、爆発に削られたような跡があり、当たった面は黒く焦げ付いているようだった。
一連の流れを見て、ラウリスが言う。
「お見事。随分と魔法の扱いに慣れているような感じだったけど、オルタ君の教えのお陰かな?」
「ああ。しばらく教わっていたからな」
「そうかそうか。魔力の操作速度も悪くない……。使えるのは火だけじゃないんだろう?」
言われて、ギクリとする。しかし、迷い人であることもバレているのだし、この際こいつには話してしまってもいいかもしれない。
「一応、全属性使えるみたいだ。光はあまり上手く行かないけどな」
「いくつか使えるだろうとは思っていたけど、まさかヘキサとはね……。お伽話でも聞いているようだよ」
やれやれと頭を振っている。オルタを見れば、特に何か言いたそうな感じもないため話しても問題なかったようだ。その辺りは俺に任せようと思っていたのだろう。
「一応、見せてもらってもいいかい?」
言われて、初級魔法のアクア・ウィンド・ストーン・ライト・シャドウを順に使っていく。案の定ライトの出力が他に比べて弱く、安定していなかった。
「……冗談ならまだ良かったんだけどね。これは、隠しておいたほうがいいな」
意外なことにラウリスも隠しておいたほうがいいと言っている。……いや、隠すのに協力してくれるのだから意外でもないのか。どうも彼の醸し出す雰囲気に飲まれて、信用しきれていない感がある。
「意外そうな顔をしているね。いいことだよ。人は疑ってかかるくらいじゃないとね」
こういうことを言う時は真面目な顔をするのだから、困ったものである。俺に対しての悪意に敏感なヴェルゼが反応していないところを見ると、信用してもいい人間だろうとは思うんだが、どうにも苦手だ。
そのヴェルゼだが、こちらを見つめて何やら言いたそうだ。……出発するときにやや長めにしたのだが、そろそろ1時間が経つ頃だな。
ラウリスに断りを入れ、軽く口づけをする。こうしないと彼女が不機嫌になるんだ、と説明すると、
「仲がいいんだねぇ」
と、笑っていた。一応間違ったことは言っていないと思うんだが。
結局、俺が使えるのは火だけということにして、冒険者ランクは下から2番目のEから始まることとなった。採取系の依頼が主になるだろうが、詳しいことはまたあとで説明してもらえるそうだ。基礎的なところからいろいろ教えてくれるらしく、安心していいとのことだ。
俺は冒険という言葉に、未知にワクワクしていた。
次の日、オルタからある話を聞き衝撃を受けることになるのだが、この時はそんなことこれっぽっちも考えていなかった。
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実はブクマの増減でも一喜一憂していたり……。
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