16話 オルタの過去
5/12 言い回しの微修正
唐突なオルタ回。
一応15話までで一区切りのつもりでしたが、区切れていない感。
あれから2ヶ月が経とうとしていた。
俺は日本にいた時が嘘のようにこの世界の共通言語を習得し、現在では難しい言い回しでなければほとんど生活に支障がないと言っていいほどになっていた。
この世界での識字率というのはさほど高いわけではないらしい。まぁ簡単な言葉くらいならほぼ誰でも読み書きくらいはできるそうで、全く読めない書けないと言う人はそういないそうだ。
しかし魔術師にとって文字は大切な物で、魔法を習得するためには文字を読めないと不可能だと言われるくらい大事らしい。なんでも、魔法はイメージする力がないとうまく扱えないらしく、覚えたい魔法を見ることが出来る環境ならいいが、それができない場合は聞いてイメージするか、書物から知識を得るかくらいしかないらしい。口頭で説明するというのが案外難しいもので、人によって伝え方が様々だったり、そもそもその魔法に対する本人のイメージが違っているなどのことから、その魔法の本質が変化してしまいやすいのだそうだ。
簡単に言えば、伝言ゲーム式に伝えていくよりも紙に書いて皆に複製させたほうがしっかり伝わるということだ。
俺も魔法を使う者の端くれ……になろうとしている者だ。文字を覚えて損はないという観点から、オルタが集中して教えてくれた。
肝心の魔法についてだが、2ヶ月が経った今でも難航していることに変わりはない。座学は大体終わり、その内容も諳んじられるほどにはなっているのだが、魔力の操作がどうにもうまくいかないのだ。
基本的に今行っている練習は自分の中にある魔力を感じ取り、そこから少量を取り出して掌の上に留めるという練習だ。全ての魔法の基礎となる部分で、これができるようにならなければお話にならないらしい。
一度魔法を撃ったことがあるのだから、そのくらいは容易いのではないかって?甘いな。あの時は魔力を引き出すところからヴェルゼがやってくれたし、その後の操作もヴェルゼの介入が多分にあったんだ。凝縮しようとしてヴェルゼが驚いていたのもその関係だな。お陰で魔力が暴走することになったというわけだ。
それで、魔法習得のためにこれからどうするかって言うと……。
「よし、ここなら気兼ねなく練習できそうだね」
俺達は今、オルタの転移魔法を使って森を抜けたすぐ先――魔大陸の最南端に来ていた。
「魔大陸なんて言うからどんなところかと思ったら、岩以外に何にもない所だな」
荒れた地面に、大小様々の岩。それ以外には何もないと言っていいほどに何もないところだった。俺達の回りは少しひらけているが、少し遠くを見れば大岩が折り重なるようにして転がっていた。経年によるものだろう、岩の多くは3分の1ほどを地面に埋めているのがほとんどだ。ところどころ削られたように不自然な形のものも見受けられる。
「そりゃあ、そういうところを選んだからね」
そう言ってオルタはこの場所について話し始めた。
ここはかつて、とある一族と多種族複合軍とが戦争をしていた跡地らしい。この世界には人間以外にも様々な種族の者がおり、エルフやドワーフなどファンタジーに欠かせない種族や、獣人族、竜人族、魔人族などなど、時には協力し時には敵対しながら生活しているのだそうだ。
戦争は吸血鬼一族に対して人・獣人・エルフを中心とした複合軍で行われていた。吸血鬼一族は名の通り血を吸って生命力と変換している種族で、数こそ多くなくたった一つの氏族しか存在しなかったが、多大な力と長命を持っていた。その分代償として消費する血液量もかなりのものだったそうで、一族の繁栄と維持のため、その強大な力を使って多種族を征服、奴隷化しようと企んだらしい。
その標的になったのが、全種族の中でも数の多い人族、獣人族だったそうだ。人族は魔法こそ使えるものの多種族にすれば見劣りする程度のレベルであり、数こそ多いが個としての力はそう強くない。獣人族は多くの種族よりも身体能力で優れるが、魔法はからっきしである。
かくして標的にされた人族と獣人族は結託、同盟を組んで対抗した。また、平和と秩序を重んじるエルフが吸血鬼一族を快く思わず、同盟軍に力を貸したことで戦況は複合軍に傾いたという。それを見ていたいくつかの種族が、勝ちそうな方に恩を売っておこうということで複合軍を支援し、それが決定打となって吸血鬼一族は戦争に敗北。元より少なかった一族を更に減らすこととなったらしい。
吸血鬼一族の災難はそれだけにとどまらない。今まで血を提供してくれていた、所謂協力関係にあった者達との関係が悪化したのだ。協力者達のほとんどは人族だったのだから無理もない。生命の源である血の供給を絶たれたことで一族の衰退を加速させたのだった。
それが5年くらい前の話だし、今頃吸血鬼という種族は絶滅しているのではないか、とオルタは語る。血がなければ半年生きるのも難しいそうで、供給が絶たれたのでは未来はないだろうとの考えだ。
「そういう訳で、ここはその爪痕とも言える場所さ」
「吸血鬼の自業自得か……。繁栄させようとして絶滅するなんて、皮肉なもんだな」
「完全な一枚岩ではなかったそうだけどね。まぁ過去の話だよ」
そう言ってオルタは遠い目をする。
「やけに詳しいみたいだったけど、やっぱり?」
オルタもその戦争に参加していたのではないか?と思ってあまり考えず質問したが、あまり無理に聞くようなことでもなかったな、と尋ねてから失敗したと思う。
「ああ。そうだよ」
あまり気にした風もなく答えるオルタにホッとする。オルタは過去のことについてあまり話したがらないから、てっきり話したくない何かがあるのでは……と思っていたのだ。
「吸血鬼一族が暮らしていたのが魔大陸だったからね。ノスティは最前線だったのさ」
ノスティのギルドにコネがあるというのもこの関係だそうだ。死霊術を使い、諜報と味方との連携を高い水準で同時にこなしていたらしい。
「その時に師匠を亡くしてね。……あたしが、もっと強ければ」
オルタの師匠は火魔法の達人で、戦争の際には勝利に多大に貢献したのだとか。死霊術も嗜む程度に扱え、オルタはその人に憧れて魔法を練習したそうだ。
戦争も終盤になった頃、オルタの存在が複合軍にとって大きなものであることに気づいた吸血鬼一族が、オルタの暗殺を企てたらしい。そんなことをしても吸血鬼一族の敗戦は免れなかったが、追い詰められた者は何にでも縋ろうとする。闇夜に強い吸血鬼は暗殺というものに向いていたし、それはすぐに実行された。
結局、その企みは失敗に終わった。孤児であったオルタを引き取り、親代わりとしてそれまで育ててくれた恩人の命と引き換えという、あまりに大きな代償を払って。
「湿っぽくなっちまったね」
軽く言うオルタ。笑ってはいるが、その目の端は微かに濡れているように見えた。
「悪い……。思い出したくないことを話させちまったな」
「いいんだ……もう、乗り越えた、っことだ……」
今まで誰かに話すこともなかったのだろう。言葉ではそう言いつつも、嗚咽を混じらせている。痩せ細った体を掻き抱くようにしている様は、今にも消えてしまうのではないかと思わせた。
おもむろに、八千代はオルタを抱き寄せる。自分の行動に自分で驚くが、そうせずにはいられなかった。
本当に胸の中にいるのか不安になるような体つきのオルタの背を、何も言わずにそっと撫でる。一瞬びくっと硬直したが、すぐに八千代の体温に安心したように体を預けてくる。
暫くの間、荒れ果てた戦争の跡地には嗚咽を漏らす声だけが流れていた。
ヴェルゼ(私で鍛えた撫でテク……)
ちゃんと空気が読めて偉いと思います。




