幕間 古城にて
八千代が勉強している頃、別の場所でのお話。
短め。
八千代達が現在滞在している町、ノスティから北へ行くと魔物の潜む森がある。そこから更に北へ行くとやがて森を抜け、魔族――魔物と人の間のような姿をしているが、きちんとした理性を持ち、一部種族は人間と共存関係にある――が多く住む地域がある。
◇
「ふぁ……今日もよく寝たのう」
言葉の主が今起きた、というかのように伸びをして辺りを見渡す。時刻は日本換算で18時頃。よく寝ていたというよりは、いつまで寝ているんだという言葉が正しい。
「お目覚めになられましたか、姫様」
老紳士や老執事という言葉が非常によく似合う、白髪をオールバックに固めている男が音もなく現れ、たった今起きたばかりのそれに丁寧な口調で言葉をかける。
姫様と呼ばれたそれは、眠たげに目を擦りながら答える。
「セバスか。状況はどうじゃ?」
名まで執事然としている男は、長年の苦労が伺えるような眉間の皺を更に深くしつつ首を振る。
「依然、手立ては見つかっておりませぬ。――もう、時間の問題かと」
「……そうか」
わかってはいたが、現実を突きつけられると辛い、という風に彼女は嘆息する。
「備蓄は残りどれほどじゃったかのう」
「今の協力者が継続的に提供してくれるとしても……持って半年、という所でしょうな」
「あれももう歳じゃろう。あまり無理をさせるものではない。――終いかの」
自嘲したように彼女が薄く笑う。それに対して老執事がやや怒ったように言う。
「諦めてはなりませぬぞ、姫様。僭越ながら言わせていただきますが、姫様ほどの力が――」
「――皆まで言うな。それはならぬ」
「しかし!」
どうしてわからないのかと、語気を荒らげる老紳士。それを手を振って宥める。
「それをやった結果がこの様じゃろうが。徒に滅びを早めることもあるまいて」
一瞬、悲痛そうな表情を浮かべた彼女を見て、老執事は冷静さを取り戻した。
「申し訳ございませぬ。過ぎた真似を……」
「よい。お主の気持ちもわかろうと言うもの。咎めたりせんよ」
今度は労るように、慈愛すら込めて、柔らかく微笑み言う。
「今しばらくは抗ってみせようと思うがの。何やら、ちと気になる気配もあるようじゃしの」
窓の向こう――実際には南の方角――を面白そうに彼女は見つめる。言っていることがわからないのだろう老執事は疑問符を浮かべている。
その様子に気づいてけたけたと、少女が笑う。
「何、きっともう少しの辛抱じゃて。お主には苦労をかけるのう」
「いえ、私めは姫様のために居りますれば……」
寂れた古城に咲く小さな会話。
この会話がもうすぐなくなるだろうことを、彼女たちは知っている。




