12話 襲撃
魔物。大気中に含まれる魔力――魔素というらしい――を取り込んで変質した生物の総称だ。魔素が集まってできる魔素溜まりから生まれる魔物もいるそうなので、厳密には変質したものだけが魔物というわけではないそうだが、研究者でもなければそこまで厳密に考えなくてもいいのだとか。
「で、その魔物がなんで急に攻めてきてるんだ?」
俺達は現在この町の北門に向かって走っている。北側に魔物の多く住む森があり、町をぐるっと囲むように小さめの外壁がある。門は東西南北に設置されているらしく、それぞれの門の近くには外を警戒するための監視塔がある。町中は門から十字にメインストリートが伸び、メインストリートから網目状に細い道が伸びている。中央には冒険者ギルドがあり、その周囲には冒険者の必要とする武器や防具、薬などを扱う店が集まっている。魔物の住む森にほど近いこの町ノスティは、度々今回のように魔物が町に現れるため、簡易ながらも外壁を設け冒険者達の力を借りることで襲撃に備えているそうだ。
「今回もその襲撃ってやつなのか?」
「わからない。このところ魔物の動きが活発だという噂は聞いていたが……」
走りながら話していると、外壁が見えてきた。その周囲には武器を持った人々が見え、何かを話しているようだ。オルタはその内の一人、槍を持った青年を捕まえ、状況を尋ねる。
「おい、魔物は今どうなっている」
「オルタの姐さん!? 帰ってたんですかい!」
何やらオルタの存在に驚いているようだが、今はそれどころではない。
「いいから、状況を教えろ」
「へい、どうもこのところ騒がしかったオーク共みたいでさぁ」
オークはファンタジー物の物語によく出てくるであろう豚頭を持った魔物だ。知能はさほど高くないが、小柄なものでも2メートル近い巨体を持ち、その体格に物を言わせた物理攻撃で対象を蹂躙する。
今回はそのオークがかなりの数――200匹程だが、通常群れていても多くて10匹程度だ――集まっており、統率している者がいるのではないか、という噂らしい。
「とすると……オークキングがいる可能性がある」
オークキングは名の通りオークの上位種で、オークより大きな体格を持ち、オークにしてはかなり高い知能を持つと言われる。オーク単体ではさして問題にならないくらいの脅威度だが、オークキングがいると話が別だ。オークキングはその知能でもってオーク達を統率し、軍隊としてオーク達を動かすのだ。過去に、オークキング率いる軍隊に中規模の町が壊滅させられたという事実が残っており、その脅威を人々に知らしめている。
「しかも、力のある冒険者達が今は別の依頼で皆出払っちまってて……」
間の悪いことに、オークキングの率いる軍隊と相対できるような冒険者は別の大きな依頼によって出払っており、力のあるものはほとんど残っていないという。
「くっ、……私がやるしかないか」
オルタは歯噛みしながらそう呟く。ただでさえ厄介な相手であるというのに、召喚、転移と大きな魔法を使い、魔力量が心もとないのだ。
「魔物が迫ってきているのは森のある北側だけだな?」
「へい、監視塔からは北以外に魔物の気配はないとのことでさぁ」
「ならば私だけでもなんとかなるか……?」
オルタの残魔力量は、多少回復しているとはいえ2割程だ。全力で魔法を放つには確実に足りない。それに、もし魔力が全回復していたとしてもオーク達を殲滅できるかどうかは微妙なところだった。
「魔術師が少数いますんで、今はそいつらが遠距離から狙い撃ってやすが数が数でして。門まで到達するのにもうそんなに時間はないようで……」
一刻も早くオークを止めねば、町に被害が出る。この場の誰もが考えていることだった。
正直に言えば、今のオルタが行っても食い止めることはできないだろう。しかし、自分以外にやれる人間がいないのに逃げるなどということは、オルタにはできなかった。
「私がやる。道を開けろ!」
オルタはそう叫ぶと、外壁の上に続く階段を登っていくのだった。
「……俺達にできること、何かあんのかな」
その姿を八千代たちはただ眺めていることしかできない。
この世界に飛ばされてきたと思ったら、最初の町でいきなり魔物の襲撃である。不運は相殺されているんじゃなかったんだろうか。
「あのー……」
考えていると話しかけられた。先ほどの槍を持った青年である。
「姐さんと一緒に来たってことは、あんたらも腕が立つんでしょう?」
と、彼はとんだ勘違いをしているようだ。ここは訂正しなければ、何を任されるかわからない。身に余る役割を任されたところで、期待されるようなことは何もできないのだ。正直に話すべきである。
「あー、それなんだが……」
「ヤチヨは強い。任せておくといい」
八千代が正直に話そうとすると、何を思ったかヴェルゼが口を挟む。
「お、おい! 俺は強くなんて――」
ないぞ、と言おうとして、ヴェルゼが遮る。
「私に考えがある。オルタについて行って」
そう言ってオルタの登っていった階段を指さす。俺なんかが行ったところで何が変わるとも思えないのだが、ヴェルゼは何を考えているのだろう。
考え直すように言おうかどうか、一瞬だけ迷う八千代。
しかしこちらを見つめるヴェルゼの群青色をした双眸は、嘘はついていないから安心しろと言っているように見えた。
「……本当、だな?」
恐る恐る八千代が確かめるように言うと、彼女はこくり、といつものように首肯する。はぁ、とため息をつく八千代。なんだかんだ言って、ヴェルゼの言うことは拒否できないのだった。
「じゃ、ちょっくらいってくるから、兄ちゃんはその辺で見てな」
そう言って駆け出す八千代。傍らにはヴェルゼが付いている。
「おおっ! ありがとうございやす! ご武運を!」
槍の青年は八千代の背中に人ごとのような声をかけるのだった。
「……ちくしょう、自分はしばらく仕事がないからって人ごとかよ」
そう独りごちた後、走りながらヴェルゼに問う。
「で、考えってなんだよ」
「今のヤチヨの魔力総量は、恐らく地上で1、2位を争うレベル」
事も無げに言うヴェルゼ。対して、八千代は理解が追い付いていない。当然である。
「……は?」
「ヤチヨの魔力の反動で上がった魔力量は莫大。国ひとつ位なら魔法じゃなく魔力を垂れ流すだけで落とせる」
「いやいやいや、意味がわからないって」
俺の今持ってる魔力量が地上で1位か2位?今まで全く魔法なんてものに触れる機会はなかったのに?
あまりに突拍子もない言い分に、混乱する八千代。
「私の言っていることは本当。信じて」
また見つめられる。この瞳は反則だ。何を言われても信じてしまいそうになる。
「……それが本当だったとして、俺は魔法なんて使えないぞ」
「大丈夫、オルタのを真似するだけ。私も補助をする」
どうやらヴェルゼは魔法が使えるらしかった。
そんな会話をしていると、外壁を登り切る。すぐ先にオルタと数人の魔術師が居て、オルタは追いかけてきた俺たちを見て目を見開いていたが、すぐに気を取り直したようで大声で怒鳴る。
「どうして付いてきた!」
「なんか、ヴェルゼに考えがあるって」
「……」
こくり、と首肯。こんな時でも口数は減るらしかった。
「言ってみな!」
「あー、なんかオルタの打った魔法を真似て、ヴェルゼの補助を受けて俺が同じ魔法を打つとかなんとか」
「……」
再度の首肯。オルタはあまりの突拍子のなさに呆れている。
「いや、無理だろう」
「だよなぁ」
二人でそれは無理だと結論を出す。
と、その瞬間である。
ヒュンッという音がしたかと思うと、遥か後方に落ちていく矢が見えた。
「弓矢だ!」
「慌てるな! まだ射程外だ!」
急なオークからの攻撃に、近くの魔術師たちがざわめく。
見ると、遠方で弓を引いているオークが確認できた。幸いまだ射程ギリギリか、それに少し足りないくらいの距離でうまく狙いが定まっていないらしい。魔術師たちが魔法で応戦するが、あまり数が減っているようには見えない。
「グズグズしている暇はないね……」
目を瞑りながら言うオルタ。覚悟を決めたようだ。
「どうせなるようにしかならないんだ、できるもんならやってみせるんだね!」
「……上等だ!」
何の根拠もないが自信満々に答える八千代。いや、根拠ならあるのだ。
チラリと隣を見る。
ヴェルゼができると言っている。出会って間もない少女だが、なぜか彼女の言うことは間違っていない気がする。そんな彼女が信じてくれと言っているのだ。契約者として、信じてあげたいと思う。
「俺は魔法なんて基礎も何も知らない。サポートは頼んだぞ、ヴェルゼ」
こくり、と首肯するヴェルゼ。戦いを目の前にした不思議な高揚感の中、八千代はヴェルゼとならなんだってできるような気がしていた。
書き上がってはすぐ投稿しているので、前後の話で破綻している箇所もあるかもしれません……。やはり多少は書き溜めるべきなのでしょうか。
あ、累計1000PVを超えたようです。閲覧いただきありがとうございます。
と言いますか昨日だけで一昨日の3倍近いPVが……。タグを少し編集したのでその力でしょうか。
ともあれ、拙い文章にお付き合いいただき感謝です。今後ともよろしくお願いします。




