11話 二人の距離
なんとか落ち着きを取り戻すと、おもむろにオルタが口を開く。
「それぞれの話はこんなもんかね」
「ああ、また何か思い出すなりしたらその時でいいだろ」
何もこの時間に全てを話さなくてはならないわけじゃない。今のところ早急にしなければならないことってのもないし、もうちょっと落ち着いてからゆっくり話していけばいいだろう。
「俺まだこの世界に来て2時間ちょっとしか経ってないし、こっちのこと全然しらないからな。そういったことも含めてゆっくり教えてほしい」
「そうだね。まぁ、迷い人のあんたは行くあてもないんだろう?しばらくはここを拠点にして、常識やら魔法やらの知識をつけていくといい。私は接近戦はからっきしだが、魔法にはそこそこの自信があるからね」
どうやらオルタは俺に住む場所と知識を提供してくれるようだ。……ヴェルゼもいるし、俺達と言うべきか?何も知らずに放り出されるよりはずっとありがたい。
「とりあえず、いろいろあって腹が減ったろう。ちょっと食料を確保してくるから、適当に寛いでいてくれ。半刻もしないで帰ってくると思うよ」
各地にある家の内のひとつだから、食料の貯蔵もないのだろう。オルタはそう言って出かけようとする。
「そうだ。私がいないからと言ってあんまりハメを外すなよ?……臭いが籠るからね」
部屋から出て行く直前にそんなことを言う。さっき出会ったばかりの少女と何をすると思っているのだろうか……。
「何もしねぇよ!」
「……」
ははは、と愉快そうに笑ってオルタは出かけていった。少年をおちょくって面白いのだろうか。……面白いんだろうな。ヴェルゼが何やらこちらをじっと見つめていた気がするが、きっと気のせいだ。
オルタが出かけて、二人きりの時間が流れる。美少女と二人きりである。何か話さなければいけないような気がして、そわそわとしてしまう。
「そういえばヴェルゼは、これからどうするんだ?」
これからどうするんだ?と言っても俺と契約しているのだから選択肢は限られているだろう。我ながらおかしな質問をしていると思う。
「……ヤチヨと一緒にいる」
予想通りの返答だ。俺は更に続ける。
「オルタにいろいろ教わったあとは危険なことが多いと思うけど、それでもか?」
「当然。契約しているのだから、いつだって一緒にいる」
もしこれで別行動する、などと言われればそれはそれでびっくりだ。俺がこんなことを聞いたのには一応理由がある。
世界の破滅を食い止めるために不死性が必要なくらいだから、これから先に怪我や怪我で済まないような自体に巻き込まれることが予想される。それにこの美少女を巻き込みたくないのだ。まだどんな事が起きるか全くわかっていないわけだが、漫画や小説などからの偏った知識的にはいろんな危険があるように思う。
死神だし、召喚された者だし人間じゃないだろう。というツッコミはあるだろうが、見た目完全に人間だし、これだけかわいいんだ。傷つくところを見たくないというのは当然だろう。
それを説明すると、ヴェルゼは答える。
「ヤチヨが死んでも、私が魂と器を繋いでいる限りヤチヨは死なない。私は、ヤチヨが生きている限り魔力の供給を受けられる。魔力の供給があれば、私は消滅しない」
契約している間は俺が死ぬことはなく、俺が死ななければヤチヨも消えることがないとのことだ。死んでも死なないとは矛盾しているとは思うが、事実なのだからしょうがないな。
「ヴェルゼが受けた傷とかはどうなるんだ?」
これは大切なところだ。消滅しなくても傷はつきますなどと言われたら困ってしまう。こんなかわいい少女に傷をつけるなんてとんでもない!
……まぁ、その心配は杞憂だったのだが。
「何かしらの損傷を受けた時は即座にヤチヨの魔力が修復に充てられる」
「俺の魔力がない時は?」
「微量の生命力を魔力に変換する。変換効率はいいから心配いらない」
パワーをメテオに!ならぬHPを魔力に!と言ったところか。質量を持った魔力の塊のような扱いらしい。詳しいことはよくわからないが、ヴェルゼに傷が残らないと聞けただけ重畳だろう。これなら一緒に旅でもなんでもできそうだ。
「そうか。なら良かった」
そういえば、聞いていないことがまだあった。
「なんだかやたら俺への好感度が高い気がするけど、それは?」
言っていて自惚れているのではないかと思ってしまう。ナルシストみたいで嫌だな……。
「ひと目見て、貴方に仕えようと思った」
そうヴェルゼが即答する。仕えるとはどういうことだろうか。
「私は召喚された身。契約者に仕えるのが道理」
「えぇ……」
そういえば召喚した時にオルタが何やら言っていたような気がしなくもない。
実際、ヴェルゼに仕えられるというのも悪くはないと思う。しかし、彼女は俺が召喚したわけじゃないし、何より対等な立場で一緒にいたいと思う。俺が一方的に彼女をどうにかするというのは、どこか間違っていると思うんだ。
「どちらがどちらに仕えるとかそういうのはなく……対等にいかないか?」
「なぜ?」
「なぜって……俺はヴェルゼに力を分けてもらうことになるわけだし、ヴェルゼも俺がいないと魔力が補充できないんだろ?ならどっちが上ということもない。それに、対等な方が何かと話しやすいと思うしさ」
「……ヤチヨがそう言うなら」
わかってもらえたようだ。俺としてはまだ距離感が掴めていないから、こういうところからきっちりしていかないとな。
などと考えていると、ヴェルゼが俺の両腕を取って自分の前に回す。客観的に見れば、俺がヴェルゼを後ろから抱きしめるような形になった。
ヴェルゼの唐突な行動に慌てるのは仕方がないことだろう。
「ちょ、ちょっとヴェルゼさん?」
「対等」
何が対等になったのだろう。腕の中でヴェルゼがもぞもぞと動く。膝の上でそれをやられると、あの、申し上げにくいのですが、刺激が……。
「……落ち着く」
俺は落ち着かないって!好感度がすごく高いのはわかるが、俺としてはそれが何故なのか未だにわかっていない。一目惚れと言ってしまえばそれまでなのだろうが……そうでもないような気がするんだよなぁ。
「私はヤチヨが好き。ヤチヨは私が好き。それでいい」
「いや、ヴェルゼが俺をどう思っているかはわからんが、俺はまだ会ったばかりだし……そういうのはまだ……」
「む……」
何やら不服なご様子だ。頬を膨らませてこっちを睨んでいる。俺は当然のことを言っていると思うんだが……。
「……まぁ、ちょっとは気になってるけどな」
かわいいし、仕方がないのだ。
ヴェルゼはそれを聞いて満足したのか、ふくれっ面をやめてなんとなく機嫌が良さそうにする。これから一緒に生活していく事になるんだろうし、嫌でも意識せざるを得なくなるだろう。
そんなことを考えつつ膝の上のヴェルゼと会話を続けていると、玄関の方からドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。オルタが返ってきたようだ。
バンッ!と客室のドアを開けたオルタはかなり急いで来たらしく、肩で息をしていた。
「何かあったのか?そんなに慌てて帰ってきて」
ただ事ではなさそうな雰囲気に、俺が問う。食材の入っているであろう紙袋は走ったせいでしわくちゃだ。それほどまでに急ぐ何かがあったということだろう。もしや追手にでも居場所がばれたのだろうか。
オルタは息を整えるのも惜しそうに言葉を漏らす。
「はぁっ、大変、だよ……。」
やはり苦しかったのかそこで一旦言葉を切り、はぁぁ……とオルタは大きく息をついてから続ける。
「魔物の集団が、町を攻めてきた」
思いつきで戦闘パートへ。
そろそろ動きが欲しいですよね。
チラッと読み返したりして誤字の修正をしたりしています。
読み返す度稚拙な文章に心が折れそうですが、誤字脱字等気づいたことがあれば教えていただけると幸いです




