お嬢様と彼と
次回の更新は9時と18時になります( ̄^ ̄ゞ
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(※柊夜視点)
私—――西条院柊夜は、自分で言うのもなんですがかなり恵まれています。
両親のおかげでほしいものには困らず、容姿も整っており、他者に比べればかなり裕福で『特別』な側の人間なのでしょう。
ただ、それがいいかと言われると首を傾げます。
……まぁ、隣の芝生は青く見える、というやつなのかと思います。
嫌味だと思われるかもしれませんが、実際そうなのですから悲しいところです。
尤もたるところを挙げるのであれば、人間関係でしょう。
ごく普通の学生として生活していて、ありがたいことに多くの方から好意を寄せられます。
ただ、昔からこのような環境に身を置いているからか……不思議と、私は他人の瞳からある程度の考えが読み取れてしまう。
だからこそ、理解してしまいます―――あぁ、この人は私など見ていないんだ、と。
(西条院グループとしての恩恵か、この容姿か)
仲良くしたいという同性からは権力と金を。
想いを告げてくる異性からは見た目と恩恵を。
───西条院グループの一人娘だから。
……誰も、西条院柊夜という女の子を見てくれません。
いや、もしかしたら見てくれる人もどこかにいるのでしょうが、残念ながら今まで私はそのような方とは出会ってきませんでした。
だからこそ、私は誰も信じられない。
西条院グループの令嬢ではなく西条院柊夜として、対価も下心もなく接してくれる人でない限り、ずっと。
この私が引いた線を、誰も越えてほしくない。越えさせない。
そんな人が現れてほしいと思っていながらも、そんな現実は中々訪れなくて―――
♦️♦️♦️
(な、何故このタイミングでバスジャックが……ッ!)
ある日、私はバスジャックに巻き込まれてしまいました。
いや、巻き込まれたのは恐らく周囲の人……きっと、バスジャック犯の目的は私でしょう。
最近、父親が軍事事業にも手を出したと窺いました。
真意は定かではありませんが、それ関係かはたまた身代金目的か。
今までこういう機会が何度もあったからこそ公共交通機関は使わなかったのですが、車の故障でたまたま利用した日に限って。公共交通機関を使うからとボディーガードの人数が少ない今日に限って。
(……ボディーガードの人も)
銃を持っている人はいない。
そう口にして私の身を護ろうとして、撃たれてしまいました。
いつどこでも一緒にいてくれたボディーガードがいない……その事実が、余計に私の心を押し潰してきます。
(わ、私はこれから……)
どうなるのでしょうか。銃を持っている相手に何をされるのか。
何もなければいいですが、痛い思いをさせられるかもしれない殺されるかもしれない。
こういうことが何度もあったとはいえ、一人ぼっちになるのは初めてで。
自然と、恐怖で涙が溢れてきてしまいます。
進むバスがどこに向かっているのか? 着くのが恐ろしい……着いた途端、何をされてしまうのか。
(……怖い)
本当に怖い。
この直接的な身の危険が、怖くて仕方がない。
「(た、助けて……誰か、お願いします……)」
気づいたら、自然とそんな言葉が漏れてしまっておりました。
……この状況で、誰も助けてくれるはずなんてないのに。
警察が来たとしても、中にいる私達の恐怖は解決するまで続く。刺激して危害を加えてくるかもしれない。
中にいる人が何かできるとも思えません。相手は銃を持っていて、一人だけではないのですから。
だからこそ、それが余計に恐怖を増長させてきて……わたっ、私は―――
「(大丈夫だから)」
そんな時でした。
横に座っていた人が、そう口にしてきたのは。
「(えっ?)」
突然のことに、私は思わずそう言葉を漏らしてしまいました。
その人はフードにマスクをしていて顔が分かりません。体格的に私と同じぐらいの歳だと推測できるぐらい。それぐらいの人なのに、下手に動いて刺激させてしまう可能性もあるのに、わざわざ近づいてきて。
何を考えているのか、不思議に思わないわけがありません。
こんな時でも私の容姿や西条院グループの恩恵ほしさに近づいてきたのか、とも思いました。
けれども、彼は真っ直ぐに。安心させるような、柔らかいように見えて力強く思える瞳でこう言ってきました。
「(怖がるな、絶対に助ける)」
本当に何をなされるつもりなのか。
相手は銃を持っていて。三人もいて。
何もできるはずなんてないのに、何かしようとしていて。
もちろん、引き留めようとしました。
けれど───
「(三人ぐらいなら、問題ない)」
その人はいきなり懐から硬貨を取り出したかと思えば、弾いてドアの方へと音を鳴らしました。
指先だけでよくそこまで届くな、という関心を放置するように。
その人は相手の意識が逸れた途端に突っ込み、たちまち二人……いえ、運転席の方にいる敵までも倒してしまいました。
―――あまりにも速く、流れるような動き。
相手は銃という武器があるにもかかわらず、怯むことも躊躇することもなく。
まるで《《銃なんて珍しくない》》とでも言わんばかりの動きで。
私のボディーガードでも、あそこまで洗礼した……いえ、客観的にも分かる『《《強い》》』を持ち合わせていないのに。
(こ、高校生の動きとは……とても……)
その人はバスジャック犯を制圧したかと思えば、すぐに運転手に話しかけ、私のボディーガードの様子を確認しました。
傷の方は問題ないか診てくれたのでしょう。幸い、殺したくはないのか犯人が止血まではしてくれていたので問題なさそうでした。
ただ、その人はすぐにバスが停まるなり外に出てしまって。
普通なら警察が来るまでその場に残るはずですのに。
(と、止めなければ……)
私は慌ててその人を追いかけました。
残った方がいい。事情聴取もありますし、何より怪我をしてしまったかもしれません。
けれども、彼には残るつもりはなさそうで。
代わりに私は名前を聞きました。
恩人に対して何もしないわけにはいきません。西条院グループの力があれば、大抵の望むことは叶えてあげられます。
でも、です。
ですが、彼は。
「君を助けられてよかったよ」
そう、それだけを口にしたのです。
なんの対価も求めず。
それなりに世間でも顔が広まっている私を見ても、西条院グループの恩恵を欲さず。
仮に知らないとしても、異性であればこの容姿を見て近づきたいと思うはずなのに。
長年培ってきた私の瞳から……彼の、下心は感じませんでした。
―――本心で、助けられてよかったと、言った。
不思議と、この時。
去っていく彼の背中を見て、私の顔に徐々に熱が帯びていくのを感じました。
……理由なんて、言わずとも分かります。
このような感覚が初めてではありますが、分からないわけがありませんでした。
完全に姿が消えるまで目で追ってしまって、熱が帯びるのと同時に心臓の鼓動が早くなって。
(対価も、下心もなく私を助けてくれる人が本当にいた)
ただの優しさで、西条院柊夜という女の子に手を伸ばしてくれる人がいた。
望んでいて、叶わないのだろうな諦めていたはずなのに、ここに来て出会った。
「見つけ、た」
だからこそ、この時私は決めました……もう一度見つけてみせる、と。
絶対に、私がどんな手を使ってでも。
今日いただいたこのご恩を返すために。
それと―――
「……絶対に、私のものにしたい」
何せ、先程から。
頭の中で彼以外の、私に手を差し伸べてくれるかもしれない……この世界に、いるかもしれないと思っていた誰かが想像できなくて。
気がつけば、顔も名前も分からない彼のことしか考えられなくなっていたのですから。




