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21/24

???③

 俺は別に、平和に暮らそうだなんて思っていなかった。

 一緒に過ごした仲間達と、この先ずっと。

 トップの理念に共感しながら、日々ずっと自分や誰かのために銃を握る。

 いつか、自分が死ぬなら変わらない戦場だ。

 看取られなくてもいい、泣かれなくてもいい。身寄りのない自分を拾ってくれた仲間のための役に立って死ねるならそれでいい。

 そう、思っていたある日……俺はある任務を会社を通して受けた。


 ───それは、日本で学生として過ごすこと。


 意味が分からなかった。

 自分が日本人であることが知っていたが、今さら育ってもない国でどうして過ごさなければいけないのか。


『よかったじゃねぇか、望! お前、ようやくガキらしい生き方できるんだな!』

『俺、一回だけ任務で日本に行ったが……あそこはいい国だぜ! なんせ飯も美味くて平和なんだ!』

『この会社でお前の功績は多大だ。そろそろ、解放してやってもいいのかもしれんな』


 会社《かぞく》の人達も喜んでいた。

 俺の気持ちとは裏腹に、子供らしいことをさせてあげられるからと。

 けれど、子供という話だけであれば他にも子供は家にいる。

 いや、確かに《《戦場に一番立っている》》のは俺ではあったが。

 それでも「なんで俺?」という疑問はあった。

 ただ、仲間達の喜んだ顔を顰めるのは申し訳なくて。


 結局、俺はその依頼を受けた。

 《《普通の高校生として過ごす裏にある依頼も含めて》》、俺は日本へ───



「いやぁー、やっぱり期待を裏切らねぇですね、時森さんー」


 薄暗い室内。

 モニターばかり並ぶある場所で、茶髪の少女───来栖愛羅が、りんごジュース片手にケタケタと笑ってくる。


「こう、私達以上にトラブル持ってくるとことか……やっぱり、ヒーローは自分で演出作るんですかね?」

「……俺、普通の生活送りたいだけなのに」

「ぷはっ! それ、私の方がしちゃってる説!」


 普通の高校生はヤクザに襲われない。

 そんなこと、海外暮らしの俺でも分かることだ余計に涙が出てくる。

 すると───


「対象に影響がないのであれば、問題ない」


 多くのモニターが並ぶテーブルの前。

 そこのは、長めの黒い髪を後ろで結んだ男が一人。

 ───ヨーデル。

 本当にヨーデルという名前なのか、はたまた別名《コードネーム》なのかは分からない。

 ただ、この三人《メンバー》こそ。

 普通の生活の裏にあった、《《本当の依頼》》の即席チームである。

 その依頼は───


「今日も無事、西条院柊夜を守れた。彼女も、普通の高校生活を送れているようだ」


 ───俺が日本で過ごすという任務を受ける際、一つの条件があった。

 全面的な衣食住、金銭の支援。その代わり『とある人物に気付かれることなく、その人物守れ』というもの。

 その対象が誰なのか、性別は何で何歳でどこに住んでいて特徴がなんなのか……明かされたのは、日本に来てから。

 ……初めに言えや、って思ったよ。

 そうでなかったら、バスジャックの時に「傭兵」なんて言わなかったよちくしょう。

 しかも、住む部屋も隣だし、それも言ってくれなかったし。

 いやね、確かに護衛するなら隣に住む方が楽なのは分かるよ。

 でもさぁ、来栖が六階でこの部屋に住んでるヨーデルが五階なのおかしくない?

 なにせ───


「……なぁ、俺よりも先にこの任務に就いてて、お前らがメインで護るって話だったよな? なんでこんなお嬢様の接待とトラブルを俺が解決してんの?」


 そう、そうなのだ。

 元からこのチームは存在していた。

 ───西条院柊夜という女の子が、普通の高校生活を送れるようにするため。

 これは父親である雇い主が娘のためを想ってのことらしく、来栖もヨーデルも、俺と同じくPMCの人間《ようへい》。

 俺がやって来たのは最後。チームメンバー一人がいなくなったことにより、俺に白羽の矢が立っただけ。

 普通の高校生活を送りつつ、普段気にかけて有事の際にサポートするのが俺の役目。

 なのに、悲しきかな……俺の傍に西条院がやって来て、俺の方にトラブルがやってきているような気がすr


「お前が対象に気に入られたせいだろう」

「傭兵《ヒーロー》なんかやっているからですー」


 Oh……身から出た錆。


「まぁ、今回のトラブルも対象がきっかけであったようだが、吐かせた結果目的は竜胆製薬会社の息子の独断。目的も時森のようだったし、とりあえずは様子見でいいだろう」

「あれ、潰さなくていいんですか? 今回失敗したってなったら、向こうさんもさらに躍起になるだけですよ?」

「そうなっても、対象ではなく時森にトラブルがいくだけだ。問題ない」

「問題しかねぇよ」


 俺の普通の高校生活が。

 これは目下早急に対処しなければいけない問題だろう。


「潰しても構わんが、対象には知られるなよ? 《《最近》》、《《対象に接触しようとしている来客が異様に多い》》。雇用主が軍事事業に手を出した弊害だろうが、金をもらっている間は俺達も対象を護る責務がある」

「分かってますよー、何かとオフでもお仕事させられてますしー。なら、バレなきゃいいんですよね? 時森さん、私も手伝ってあげましょーか?」


 りんごジュースを飲み干した来栖が、愛らしい顔にいたずらめいた表情を浮かべてこちらへ視線を向けてくる。


「いいのか?」

「はい、こう見えても時森さんのこと気に入ってますし……まぁ、どうしてもお礼って言うなら、この任務が終わったら是非うちの会社の仕事を手伝って───」

「すまん、それは会社を通してくれ」

「むぅー、つれませんねぇ」


 頬を膨らませる来栖。

 ……こんなに可愛らしい顔してるのに、成人男性を余裕で制圧できるなんて世の中本当に恐ろしい。

 ハニートラップなど仕掛けられたら、誰も敵わないのではないだろうか?


「勧誘なら他所でやれ……というか、時森。お前は対象と何か約束でもしているのか?」

「ん? いや、してるのはしてるけど、ご自宅パーティーはすぐすぐじゃなかったはずだし」

「今、対象がお前の部屋にいるようなんだが───」

「ちくしょう時間外労働ッッッ!!!」


 モニターの、それも自分の部屋と西条院の部屋の前が映る場所。

 そこに映っている、部屋着姿の少女を見た瞬間、俺はカバンを手に取って一目散に部屋を出た。


「時森、出るのは構わんがインカムだけはつけておけ。念のため、対象に―――」

「分かった!」


 走りながら、カバンの中に入れておいたインカムを耳に着けて髪で隠す。


(お部屋遊びはまた今度じゃなかったのかよ!?)


 一体、どうして部屋の前にいるのか分からない。

 ただ、さっきまで一緒にマンションの前まで来たのに部屋にいないとなれば怪しまれる恐れがある。

 だからこそ、俺は急いで新居へと向かったのであった。



 ♦️♦️♦️



(※ヨーデル視点)


 一目散に、時森が部屋を出ていく姿を見送りながら思う。

 いつ誰が対象を狙ってやって来るか分からない現状、誰かが傍にいる方が都合がいい。

 そのため、予定外の対象との接触も許容したし、こうして挨拶もなしに飛び出していったのにも文句はない。

 ただ───


「おい、来栖。俺の部屋で勧誘などの真似をするな」

「えー、いいじゃないですか……って、もしかして自分は勧誘されないから嫉妬してます?」

「そうじゃない。今は任務に集中しろと言っている」

「こんな時間にそんなブラックなお話持ち出されてもー」


 相変わらず、生意気な女だ。

 同性、かつ同級生だから都合がいいだけ……いや、違うか。


「にしても、よく勧誘などするものだ。来栖ほどの実力であれば、別に他者へ目移りする必要などないだろう」


 この任務は極秘だ。

 西条院グループの人間も、雇われているボディーガードも一部しか知らない任務。

 そのため少数での行動が求められ、その分実力のある者にしか話が持ち出されない。

 来栖も、幼いながらに群を抜いて実力があるからこそ、集められた。

 しかし───


「ヨーデルも知ってるでしょう?」


 来栖は熱っぽい瞳を浮かべながら、口を開く。

 その表情はまるで、《《恋する乙女にようにも見え》》───


「傭兵界隈でも知らない人はいない特別枠《いたんじ》。界隈最強って言われてる時森さんにせっかく出会えたんです、仲良くしたいって思うのは会社に属する人間としては普通じゃないですか♪」


 ……まったく、本当に。

 これだから、女という生き物はよく分からないのだ。

 どこが会社のためだ。

 《《どう考えても個人的な理由だろうに》》。


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