彼を待っていると
(※柊夜視点)
『見て、西条院さんだ』
『相変わらず綺麗……』
『西条院さん、さよならー!』
放課後、校門の前で。
三人組の女子生徒の一人が手を振ってくれます。
「はい、皆さんさようなら」
流石の私でも、スルーはしません。
笑みを浮かべ、同じように軽く手を振り返します。
『ねねっ、手振ってもらっちゃった!』
『いいなぁ……私も挨拶は返されるけど、それぐらいなんだよねぇ』
『どうにかしてお近づきになれないかな? あんな美人な子と仲良かったら《《高校卒業したらめっちゃ自慢できるよ》》!』
遠くなっていく、女子生徒達。
彼女達だけではなく、放課後ということもあって他の生徒達も校門を潜っていきます。
ただ、何度も何度も通り過ぎる度に視線を向けられて。
……流石に慣れてはいますが、ただ校門前に立っているだけなのであまり見ないでほしいものです。
(まぁ、いつもならすぐに迎えの車に乗っていましたが……)
とはいえ、今日は違います。
なんと、今日は……時森さんを待っているのですっ!
(家もお隣……ならば、一緒に帰るなんておかしなことではありません!)
当初、時森さんの教室まで足を運ぼうとしたのですが……せっかくなのでサプライズをしたくなりました。
『校門前で待ち構える美少女……その理由は、なんと自分だった!』というキャッチフレーズで迎えるのです。
(ふふっ、恐らく時森さんは驚かれるでしょう……そして、きっとその驚く顔も大変可愛らしいはず)
あぁ、想像するだけで口元がニヤけてしまいます。
こんなにも楽しみになっているのです、要らぬ視線を浴びてしまうことにはなりますが、こうして出待ち作戦はする価値があります。
なので───
「あの……なので来栖さんには帰っていただきたいのですが……」
「えー、嫌ですぅー」
私の横。そこには何故か来栖さんがさも当たり前のように立っていました。
「だって、西条院さんが珍しく《《車拒否って歩いて帰る》》って話なんですよ! こりゃ、もう一緒に帰るしかないじゃないですか!」
はて、《《車で帰ると来栖さんにお伝えしましたでしょうか》》? 言った覚えはありませんし、先程家の者に「不要」だと伝えたのですが……まぁ、こうして帰らず門で待っていれば察せられますか。
「……どういう理屈ですか」
「うーん……はじめてのおつかい?」
「酷く舐められたものです」
いくら私でも、カメラマンさんやプロデューサーさんがいないと帰れないほど子供ではないのですが。
(しかし、来栖さんは不思議な人ですね……)
来栖さんはクラスの仲でも、一番話しかけてくれる方です。
といっても、他の方同様仲がいい……というわけではありません。
ただ───
(他の方とは違って、《《私に興味がないのに構ってくる》》んですよね)
だからこそ、余計に掴みどころがないと言いますか。
まぁ、だからこそ邪険にできない……というのもあるんですよね。
興味がない、という一点だけであれば時森さんとどこか似たような空気を感じます。
(ですが、時森さんの方が間違いなくいいですけどね!)
時森さんは優しいですから。優しい、というのが伝わってくるんですから。
西条院グループのご令嬢ではなく、西条院柊夜という女の子に優しさを向けてくれますから。
その点、来栖さんは《《西条院グループのご令嬢》》として見ているような気がします。大きな違いです、一緒にした私は大馬鹿者です。
「とはいえ、私は時森さんと一緒に帰りたいんです。子供しか映せないカメラマンさんはどうか定時でお帰りになってください」
「なら、せめて時森さんが来るまでお話しましょー! 歳頃乙女がする会話と言えば、恋愛方面一択になっちゃいますけどー」
「いえ、だから私は───」
興味がない、そう言おうとしましたが、ふと寸前で止まりました。
(恋愛話、ですか……)
私はこれまで、誰とも恋愛をしたことがありません。
お父様は自由な恋愛を薦めていますが、私個人誰かを好きになるということがありませんでしたから。
単純な教養における知識や作法は学びました。しかし、俗世においては講師を雇って学んだことがありません。
故にこそ、同年代の恋愛方面が分からない無知。
(《《今後の時森さんとの関係のためにも》》、同年代の話は参考として聞いておいた方がいいのかもしれませんね)
来栖さんは同年代の中でもかなり可愛らしい方で、クラスでは中心人物的存在。さぞ異性に好意を寄せられたはず。
ならば、お話に付き合って参考になる話を聞くのもアリです。
「いいでしょう、時森さんが来られるまでではありますが───」
「やぁ、西条院くん」
と、私が口にした瞬間。
私の目の前に、一人の男性が現れます。
優しい雰囲気に爽やかな笑顔。長く整えられた金色の髪に端麗な顔立ち。
目の前に現れた彼を見て……私は、思わずため息が出てしまいました。
『わっ、竜胆くんだ!』
『西条院さんと一緒にいる……ほんと、絵になるなぁ』
『やっぱり、二人って付き合ってるのかな? 一緒にいるところよく見るし、お金持ちで美形同士だから許嫁とかだったりして!』
……一緒にいる。
えぇ、確かにこの人は事ある毎に話しかけてきます。
一緒にいる、という面では正しいのかもしれませんが───
「なにか御用でしょうか? 私は忙しいので、用がなければ話しかけないでいただけませんか?」
「相変わらず冷たいなぁ。まぁ、西条院はそういうところが魅力的だからね、仕方ないのかもしれないけど」
「分かったような口をきかないでください」
本当に嫌になります。
他の人であれば、冷たくあしらうとすぐに距離を取ってくださるのですが、竜胆さんに至ってはそうではありません。
諦めが悪い、そう言えば少しは聞こえがいいのでしょうが……なんというか、《《執拗》》、そんな言葉が似合う気がします。
(特に、この人の視線は……)
優しい雰囲気を漂わせてはいますが、そうではない。
なんとなく、向けられている私だから分かるのかもしれませんが……この人ほど、《《私のステータス》》を欲している人はいないでしょう。
アクセサリー、マスコット。そんな風に、私を見ているようです。
「そうそう、私達はこれから恋愛話で忙しいんですぅー! あんたみたいな美形は私達とじゃなくても他所でもできる話なんで、気にしないでお帰りなさいです!」
「……恋愛話? もしかして、僕の話かな?」
「はいぃ?」
……あまりの決めつけに、来栖さんだけでなく私も思わず眉を顰めてしまいます。
「いえ、あなたの話ではないのですが……まぁ、来栖さんは違うかもしれませんけど」
「私だって違いますけど!? っていうか、私は誰ともお付き合いしたことのない処女っす!」
「………………」
「待ってください、なんですかその酷く失望したような顔は」
来栖さんと今から何一つとして話すことはなさそうです。
「……もしかして、だが。あの転校生のことだろうか?」
「ッ!? あ、あなたには関係ない話ですっ」
びっくりしました……時森さんの名前が出てきたので、つい動揺してしまいました。
人前ではあまり取り乱したりはしませんのに。
「……そうか」
ただ、そんな私を他所に。
竜胆さんは静かに、私に背中を向けて歩き出しました。
「なんだったんですかね、あのナルシスト野郎」
来栖さんもよく分かっていないのか、遠くなっていく竜胆さんの背中に首を傾げます。
私も、どうしていきなり諦めよく帰っていったのかは分かりません。
しかし───
「それよりも、本当にないのですか恋愛話は?」
「あ、思った以上の食いつきだったんですね。まぁ、友達の話でよかったら───」
「早く聞かせてください」
「はいはい、お嬢様。お望みのままに」
「遅いです」
「頷く暇も与えないんですか!?」
それよりも、時森さんとの今後のために。
今は竜胆さんよりも、同世代の恋愛話を聞かなければ。
♦️♦️♦️
「時森望……あいつが現れなければ、今頃僕は西条院と」
少年は、口にする。
呪詛のように。生徒が多く談笑しながら帰宅する中、掻き消えるような声で。
「……仕方ない、結局あの不良共が役に立たなかったんだ」
そして、少年は。
スマホを取り出し操作、そのまま耳に当て───
「あぁ、僕だ。《《どうしても目障りな男がいてね》》。いつも通り、金の面は期待してくれていい……君らなら、そういうの得意だろう? だって、プロなんだからさ」




