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駅で高校生と殴り合っていたら五百万円与えられたので、合理主義の僕がなぜか同居生活を始めてしまいました。  作者: 透明スケ


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第六話 朝飯

 ――翌日。


「だからそれは非合理的だってば」

「知らねえって。俺がやりたいからやってるんだよ」


 朝からこの騒ぎようである。

 僕は、とんでもないものを家に招き入れてしまったのかもしれない。



 ――数十分前。


 目が覚めたとき、部屋の中に(かす)かに音がしていた。

 何か、油が跳ねて(はじ)けているような、ジューっと焼ける音。


 時計を見ると、まだ朝の七時前だった。

 こんな時間に音がする理由は一つしかない。


 僕は布団から起き上がり、キッチンの方へ向かった。


「……何してる」


 (かえで)がフライパンの前に立っていた。


「朝飯」


 振り返りもせずに答える。


 フライパンの上では卵が焼かれていた。

 しかも二つ。


「それ、僕が買った食材だよな」

「そうだろうな」


 悪びれる様子もない。


「なぜ勝手に使う」

「腹減ったから」


 即答である。

 理解ができない。

 卵一つならまだしも、どれだけ腹が減っているのか二つも勝手に使っている。


「計画性がない。この卵は数日分に分けて使う前提で買っている」

「でも今食う方が美味いだろ」

「栄養効率も分配効率も落ちる」

「効率効率うるせえな」


 楓は火を止めて目玉焼きを皿に盛る。

 そのまま、もう一つの皿を取り出した。


「ほら」


 差し出される。


「いらない」

「なんで」

「僕は、朝は食べない人なんだ」


 それが一番効率がいい。

 食事回数を減らせば、その分時間も節約できる。


「体に悪いぞ」

「問題ない。計算上は――」

「うるせえ、いいから食え」


 半ば押しつけるように皿を渡される。


 僕はしばらくそれを見つめた。

 楓はもう食べ始めている。


「朝食を取らなくても生活に支障はないんだよ」

「でも食った方がいいだろ」

「その根拠は?」

「なんとなく」


 話にならない。

 論理が存在していない。


「それじゃ説明になっていない」

「じゃあいいよ、説明なんて。食いたくなきゃ食うな」


 そう言って、黙々と食べ続ける。

 途中、楓が意外と美味いな、などと言う。

 絶対に要らないと思っていたけれど、こんな時間に起きたからか、不意にお腹は鳴ってしまった。


 ……。


 僕は少しだけ迷ってから、箸を取った。

 一口だけ口に運ぶ。


「どうだ」

「……普通だな」

「だろ」


 楓は満足そうに言った。

 それ以上、会話はなかった。



 そういえば、卵が焼ける音と勝手に料理をする楓の姿に夢中で気が付かなかった。

 洗面所の方からも、まさかという音が鳴っていたことに。


「……まさか、勝手に洗濯機までも回したのか」

「あぁ。まあな」

「まあなじゃねえよ。水も電気も無駄だろ。今日の夜にまとめてやろうと思っていたのに」

「良いだろ、雨で濡れてたんだし。そのまま置いてたらカビ生えるかもしれないし」

「……せめて僕に許可を取ってから使ってくれよ」

「寝てたし起こすのは可哀想かなって。今日は土曜日だしな」


 僕はずっと呆れていた。

 楓の無計画な行動に。


 非合理だ。

 どれもこれも、無駄が多すぎる。


 だが――


 言葉にしようとして、少しだけ詰まる。


 洗濯も、朝食も。

 完全に無意味だと切り捨てるには、どこか引っかかるものがあった。


「で、俺はこの後バイトの面接だから出て行くぜ。夕方くらいに帰る」

「そうか。まあ頑張ってこい」

「せっかくの土曜日なんだけどな、頑張ってくるわ」


 楓は後ろ手に手を振りながら家を出ようとした。


「あっ待て」

「ん? どうした?」


 僕はすぐに部屋に戻って一枚のお札を取ってきて楓に渡した。


「昼飯代。財布に入れておけ」

「あぁすっかり忘れてた。昨日の残りの小銭だけでどうにかするところだったぜ。サンキュー」


 そう言って、恐らく濡れたままである靴を強引に履いて出て行った。


 その途端に部屋が一気に静まり返る。

 つい三日前までこんな感じだったはずなのに、ここ連日の非日常に酔っているのかもしれない。


 この落ち着いた時間に向かって、僕は小さく息を吐き、珍しく、ゆったりと過ごそうと思った。

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