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駅で高校生と殴り合っていたら五百万円与えられたので、合理主義の僕がなぜか同居生活を始めてしまいました。  作者: 透明スケ


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第三話 再会

 帰宅してすぐにリュックの中を確認する。

 ファイルの中には間違いなくお金がある。それも偽物ではない。

 金額を数えても、間違いなく二百六十万円あった。


 数え終わると同時に安堵(あんど)の息が漏れて部屋に充満する。

 そしてそのまま仰向けになり感傷に浸った。


 本当に運がいい。

 宝くじにでも当たった気分だ。

 まさかあの僕がケンカをするなんて、と思っていたが、こんな未来が待っていたなら、思いもよらないこともやってみるべきだなと感じる。


 お金をどうするかはもう、帰り道に決めていた。

 銀行に入れるとなると税金に引っかかるからこそ、あえて部屋の中で厳重に保管し、生活費のためのリアルマネーに使う。 

 そうしたらバイト代が全て銀行で消費されて、引き出す必要が無くなるのだ。


 なんだか若返った気分もした。

 大学に入りたての、新生活が始まったばかりの初心なワクワク感を思い出す。

 天井を眺めていると、いつもは気にしていなかった色が目立って見えた。

 見慣れたはずの部屋が、新生活の頃みたいに輝いていた。

 僕の部屋って、こんなにも陽気に溢れていたんだなあ、と感傷に浸る。 

 まだまだ十分満喫する余地があるのだ。

 心の中に、どこか空洞がある気もしたけれど、大して気にならなかった。



 翌日は雨だった。

 大学からの帰り道、地下鉄の改札を抜けて地上に出ると、雨に濡れて湿った空気が僕を包み込んだ。

 何回も盗られては盗るを繰り返したであろうビニール傘を差して歩き出す。


 すると遠くから、男性が発したらしき低い怒号が聞こえてきた。

 それも、段々近付いて来ているような気もする。

 きっとまた、どこかの誰かがケンカでもしているのだろう。

 連日にわたる非日常さに思わず小さく笑う。

 近付いてくる怒号に、わずかな嫌気もさしたけれど、昨日のこともあって興味もあった。

 反対車線を横目に見ていたら、追いかけられていたのは、見覚えのある顔だった。


 それは紛れもなく、昨日の高校生だった。


 そしてその右肩には、例の黒いバッグが提げられている。

 バッグの紐が昨日よりも随分伸びていたことから引っ張られたのだろうと察し、僕の身体は自然と動いていた。

 自分にも理解できなかったけれど、本能的に止めるべきだと思った。


 そのすぐ後ろを、ガタイのいい男が(けわ)しい顔をして追いかけている。

 男が高校生の肩を掴もうとしたところを、僕はすかさず止めた。


「ちょっと、落ち着いてください。どうしました? 未成年を執拗(しつよう)に追いかけ回しちゃダメですよ。警察呼びましょうか?」

「違う。そいつが割に合わないほど大金を持っているんだ! 俺の店から盗んだだろ!」


 高校生は、昨日の自信に満ちた表情から打って変わって、怯えた目をしながら首を横に振る。


「彼は盗んでいないと言ってますよ。拾ったお金を交番に届けようとしていたとかじゃないですかね?」


 すると高校生は首を何度も縦に振った。


「そいつの嘘だよ! 絶対!」

「じゃあ、このお金があなたの店のものであることは証明できますか?」

「それは……」

「たとえこのお金が彼のものでなくても、あなたのものでも無さそうなので、とりあえずこれ以上しつこくするなら警察を呼びますよ」


 男は納得の行かなそうな顔をしながらも、少なからず自分の金ではないことは認めてどこかへ消えていった。


 その途端、言葉では言い尽くせないほどの安心が一気に押し寄せる。

 僕に、あんな強面(こわもて)なチンピラを退治する力が秘められていたなんて、信じられなかった。

 昨日から非現実的なことの連続で、どっと疲れる。


「未成年じゃねえし」


 相変わらずぶっきらぼうに言葉を放つ高校生に、僕は呆れることさえできなくなった。

 まさか再会するとは思ってもいなかった。

 その舐めた態度に、僕は冷たい視線を送る。


「もう分かっただろ。お前一人じゃ生きられないんだよ。さっさと家に帰れ」

「嫌だ。帰る場所がない」

「だったらどうするんだよ。こんな暮らしじゃ、すぐにダメになるぞ」

「……」


 高校生は(うつむ)いたまま何も言わなくなった。

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