第十話 深夜バイト
本来なら、三十分で昼飯を済ませ、残りの三十分を有意義に使うつもりだったのだが、もう既に時計は午後一時少し前を指していた。
交番の前で楓と別れ、早足でバイトの店へ戻る。
こんな息の上がった状態で午後のシフトに取り組むことになるなんて思ってもいなかった。
休憩時間の終わり時刻ほぼちょうどに店に着いた。予定より三十分遅れだ。
本来なら、この三十分でできたことはいくらでもある。
非効率だ。
無駄だ。
どう考えても合理的ではない。
それなのに。
僕は、楓のさっきの行動を責め切れなかった。
パンを渡したことも。
バッグを届けたことも。
どちらも、明らかに"損"をしているはずなのに。
僕は店の入口に立ったまま、少しだけ考えた。
確かに無駄だった。
時間も、金も、消費した。
けれど――
それを「間違いだ」と言い切るほどの根拠も、見つからなかった。
むしろ。
ほんのわずかにだが、正しいような気さえしている。
「……非合理だな」
そう呟いて、店の奥へ進んだ。
夕方、バイトを終えてアパートに着くと、ちょうど同じタイミングで楓が階段を下りようとしてきていた。
「おっ」
こちらを見るなり、軽く手を上げる。
「開けて」
まるで当然のように言う。
「……お前、自分で鍵持ってないんだから、時間くらい合わせろよ」
「今着いたばっかだよ」
本当にそうなのかは分からない。
だが、ここ最近、こうしてタイミングが重なることが妙に多かった。
鍵を開けると、楓は僕より先に靴を脱いで中に入る。
僕も後に続いた。
その日は簡単に野菜炒めを作った。
フライパンで適当に野菜と肉を炒めて、皿に盛るだけのものだ。
「ほい」
皿を差し出すと、楓は「ありがと」と短く言ってコンビニの割り箸を手に取った。
文句も言わずに口に運び、そのまま何事もなかったかのように食べ進める。
ブロッコリーも、残さず。
「……」
僕は何も言わず、自分の分を食べた。
「そういえばさ」
楓がふと顔を上げる。
「深夜のバイトも、書類通ってたっぽい」
「深夜?」
「うん。今さっき連絡きてた」
その一言で、頭の中でいくつかの情報が繋がる。
深夜帯の労働は、十八歳未満には認められていない。
つまり楓は、本当に十八歳ということになる。
楓は、最初に会ったとき、自分は成人だと言っていた。
だが、あのとき僕は信用していなかった。
それもあの時は三月の末頃。
制服を着て歩いている高校生がいるなら、それはまだ卒業していないということだ。
だとすれば年齢は十七歳か十六歳のはずで、辻褄が合わない。
もちろん、卒業した生徒が急に退学届を出すことも不可能なはずであるからだ。
だが今は違う。
「……そうか」
口に出してから、もう一つの可能性に気付く。
楓はどこかで留年したのだろう。
恐らく、家庭の事情で登校出来てなかったのかもしれない。
どちらにせよ、普通の進路ではない。
楓はそんなことを気にした様子もなく、残りの野菜炒めを口に運んでいた。




