Moonlight Labyrinth
影の森を抜けた二人の前に、広大な迷宮が姿を現した。
石造りの壁は夜の月光に照らされて銀色に輝き、通路は複雑に入り組んでいる。
足を踏み入れると、柔らかな風とともに、どこか懐かしい匂いが漂ってきた。
「……ここ、本当に迷路みたいだね」
ホワイトが肩をすくめて小さく笑う。
アレンはそんな彼を見下ろし、手をそっと握り返した。
「大丈夫、俺たちなら進める。迷ったら、名前を呼んでくれ」
その声にホワイトの胸がぎゅっとなる。
名前を呼ぶだけで、こんなにも心が通じ合えるなんて。
二人は慎重に迷宮の中を進む。
曲がり角ごとに、通路の光と影が微妙に変化し、
まるで迷宮そのものが二人の気持ちを試しているかのようだった。
「……なんだか、私たちだけじゃない気がする」
ホワイトが小声でつぶやくと、少年はすぐ隣で立ち止まり、彼の肩に手を置いた。
「俺も感じる。気をつけろ」
その瞬間、壁に映る影が微かに動いた。
風のせいか、それとも迷宮の魔力か――
二人は一瞬息を呑み、互いの手を握る力を強めた。
迷宮の中心に近づくほど、空気は静かになり、
名前を呼ぶ力がほんの少しだけざわめき始める。
ホワイトは小さな声でアレンの名前を呼んだ。
「……アレン」
その呼び声に、少年の目が瞬き、ゆっくりと微笑む。
「……呼んでくれたね」
その声は、月光に溶けて柔らかく広がり、二人の間に温かい空気を満たす。
「……迷ってもいいんだよ。俺がそばにいる」
アレンの言葉に、ホワイトは思わず涙ぐむ。
怖いのは迷宮だけじゃない。
自分の気持ちをさらけ出すことも、名前を呼ぶことも――
でも、今は怖くない。彼がそばにいるから。
二人は迷宮の中心へと歩みを進める。
途中、壁に浮かぶ不思議な模様や光の反射が、二人の足取りを導くかのように揺れる。
そのたび、互いの視線が交わり、胸の奥でじんわりと熱が広がった。
ついに中心にたどり着くと、そこには小さな泉があった。
月光を反射して揺れる水面は、二人の影を優しく映す。
名前を呼ぶ力と、互いの想いが、静かに水面に宿っているかのようだった。
「……ここが、次の試練の場所だね」
ホワイトがつぶやく。
少年は小さく頷き、リオの手を握り直す。
「一緒なら、どんな試練でも越えられる」
二人は泉の前で一歩立ち止まり、名前を呼び合う。
その声が響き、迷宮の奥深くまで届く。
名前が呼ぶ場所――
それは、恐れや迷いを超えて、互いに帰る場所を示す光だった。
「……ずっと、離さないよ」
ホワイトがそっと囁く。
少年は頬を赤くして、でも笑顔で答えた。
「うん……俺も、ずっと」
月光の迷宮の中で、二人の心は確かに結ばれ、
名前の力が、これからの試練を越える勇気を与えていた。




