012話 想い
リアム国王を見送った後、アランは一日中忙しく過ごした。ジェルミア王子からデール王国の様子や今後の動きなどについて聞き、セイン王子やギル、アリスを交えて語り合う。その後アランは、一人深夜までずっと書庫に籠った。
アランが実質、エリー王女の側近ではなくなったことを知ったマーサは複雑な気持ちだった。エリー王女に直接仕えなくなったことが嫌なのか、今までのように頻繁に会うことが出来なくなってしまうことが嫌なのか分からなかった。
多分どちらも正解であろう。
今まで何度もエリー王女の心を支えてきたのはアランだった。エリー王女にはアランが必要である。そう思いながらも、マーサの胸は痛んだ。
その胸を押さえ首をかしげる。今までエリー王女を中心に考えてきたマーサは、自分の気持ちが大きく変化したことに混乱していた。こんなに心が乱れるのであれば、あのようなことをしなければ良かったとさえ思った。
それでも暫く会えないのだと思うと、寂しく感じてしまう自分にため息を吐く。ならば、この中途半端な気持ちにケジメをつけようとアランを探した。
見つけたのは書庫だった。何冊もの本を傍らに積み上げ、アランは一人真剣に読みふけっていた。その姿にアランが何を一番に考えているのかをマーサは思い出した。こんな自分のことで邪魔をしてはいけない。そう思ったマーサは、静かに扉を閉めた……。
深夜、アランが自分の部屋に戻ろうと、疲れた眼を押さえながら薄暗い廊下を歩いていた。そんな中、ふと、ある部屋の前で立ち止まる。そこはマーサの部屋。
そう言えば……。
王命を聞いてからすっかりマーサのことを忘れていたアランであったが、今朝、何かを言いかけていたことを思い出した。"確認したいこと"とはなんだろうか。責任持って話を聞くべきだとは思うが、アランはなんとなく聞くのが怖かった。
明日から国を離れ、あまり戻ってこられないかもしれない。これから忙しくなる。このままではこの件についてうやむやになって終わるだろう。それはそれで、悲しいような気もしてくる。アランは相変わらず自分の気持ちが分からなかった。
――――きっとその人が好きなんじゃない?――――
セイン王子が言っていたことを思い出す。
果たしてマーサを好きだという可能性は本当にあるのだろうかとアランは自問自答してみる。
――――一緒にいて楽しいとか落ち着くとかもあるけど、もっと一緒にいたいとか、二人きりになりたいとか、こうやってちゅーしたくなるとか――――
アルバートのセリフを思い出す。
もし付き合っていれば、この扉を開け一緒に過ごすことが出来るだろう。アランは確かにそれは魅力的だと思った。出来ることならもう一度……。
アランは淫らな考えに頭を振る。
今の自分はどうかしている。昨日の今日だ。今は動揺していて冷静な判断が出来ていないだけなのだと自分に言い聞かせる。暫く離れてみて、アルバートの言うような気持ちになれば好きだと判断すればいい。そう、それからでも遅くない。
アランが戻ろうとしたその時だった。目の前の扉が開き、マーサが現れた。
「あ、アラン様……? いかがされたのですか?」
「っ! ……マーサさん……こんばんは……」
まさかこのタイミングで会うとは思わず、アランは焦った。
「その……昼間、マーサさんが言いかけたことを伺っていなかったので……」
「……わざわざありがとうございます。ここでは何ですので、宜しければどうぞ」
マーサもまたとても驚いていた。もう一度アランに会いに行こうとしたところに、本人が目の前にいたのだ。
しかし、アランはその誘いに悩んでいるようで、直ぐに返事が返ってこない。
「……いえ、夜も遅いですし、それに――」
マーサは断りの言葉を最後まで聞かず、アランの腕を取り部屋に引き入れた。




