表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺すまで一緒にいてやる ~殺し屋の俺、死の宣告に来た死神となぜか同居をはじめました~  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/30

第14話「帰宅時刻を守れ」

「はっくしゅ」


 死神がくしゃみをした。


「今の、もう一回やれ」

「任意実行できません」


「風邪か」

「死神に感染症はありません」


「花粉」

「外来微粒子による防御反射も不要です」


「じゃあ何だ」

「不明です」


 シオンは黒い札へ記録する。


 直後、二回目。


「はっくしゅ」


 赤いカーディガンの袖で口元を押さえる姿は、死神というより普通の女だった。


「昨日からか」

「昨日、凛の帰宅予定時刻を二時間超過した頃に初回発生」


 原因の候補が一つに絞れた。


「俺が遅れたから?」

「時間超過と身体反応の相関は確認できます。因果は未確定」


「仕事だ。仕方ない」

「はい」


 また、くしゃみ。


 額へ手を伸ばしかけて、止める。


 第十三話で、心配と監視は違うと知ったばかりだ。

 体温を測る前に、本人へ聞く。


「触っていいか」

「必要ありません。体温は三十六・四度です」

「人間に近いな」

「数値は上昇しています」

「気分は」


 シオンは答えを探した。


「凛の帰宅時刻が分からない状態は、不快です」


 接触規則を使わず、言葉で出てきた本音だった。



 夕方、鷹村から仕事の連絡が入る。


「今夜九時。下見だけ」


 シオンがこちらを見る。


「帰宅予定は」

「十一時」

「予定ではなく、時刻を指定してください」


「同じだろ」

「予定は変更可能です。時刻は守る対象になります」


 死神が、言葉の穴を塞いでくる。


「十一時に帰る」


「十一時一分は」

「遅刻だ」

「了解しました」


 それからシオンは、少し迷った。


「凛」

「何だ」


「帰宅時刻を、守ってください」


 業務命令ではない。

 百メートル規則の確認でもない。


 ただの希望だった。


「努力する」

「守ってください」

「分かった」



 下見を終えたのは十時三十九分。

 鷹村が続きを話そうとした。


「悪い。帰る」

「まだ二十分あるよ」

「移動に十九分」


「お前、秒単位で生活する男だっけ」

「黙れ」


 自宅のドアを開けたのは、十時五十九分四十秒。


 シオンは玄関にいた。

 時計ではなく、俺を見ている。


「帰った」

「はい」


「くしゃみは」


 シオンは答えようとして、鼻に手を当てた。


 一秒。

 二秒。


 何も出ない。


「停止しました」

「因果、確定だな」


「不本意です」


 声は少しだけ、嬉しそうだった。


「報告するのか」


 玄関で靴を脱ぎながら聞く。


「身体異常として」


「初期化の対象になる?」


 シオンは答えない。


「なら書くな」

「業務記録の隠蔽になります」


「くしゃみ七回で処分される方がおかしい」

「規程は、症状の回数だけで判断しません」


「原因が俺だからか」


「はい」


 即答された。


 俺の帰宅で止まるくしゃみ。

 仕事に不要な感情反応。


「記録します」


「シオン」

「虚偽は記載しません」


 黒い札へ入力する。


 俺は止められない。


「ただし、因果は不明とします」


「それは嘘だろ」

「推定と確定は異なります」


 シオンが札を閉じる。


「七回すべてが凛の遅刻によるものか、再現試験が必要です」


「また遅れろって?」

「許可しません」


「試験できないだろ」

「はい。したがって、因果は不明のままです」


 死神が規則を守りながら、規則の穴を使った。


「誰に教わった」


「凛です」


 誇ることじゃない。


 だが、少し嬉しかった。


 帰宅時刻の規則は、シオンの方が厳しかった。


 翌日、予定より七分遅れて玄関を開ける。


「七分二十二秒」

「電車が遅れた」

「運行情報に遅延はありません」

「駅で牛乳を買った」

「レシート時刻は」

「尋問か」


 シオンは壁へ貼った表を指す。


『遅延一分につき、翌日の食器洗い一点』


「点数制になったのか」

「再発防止です」

「七分で皿七枚か」

「端数を切り上げ、八枚」


 洗うために皿を汚すのは本末転倒だ。


「罰なら何でもいいのか」

「凛が帰宅時刻を報告し、守る方が重要です」

「なぜ」


 シオンの視線がずれる。


「百メートル制限の運用上」

「俺が外にいても、お前は家にいられる」

「八十九メートルの場合があります」

「境界実験は終わった」

「では、食材の品質管理上」

「牛乳は今買った」


 逃げ道を一つずつ塞ぐ。


「心配したと言え」

「不確定情報による待機負荷が発生しました」

「長い」

「帰宅が遅いと、不快です」


 かなり短くなった。


「悪かった」


 シオンが目を上げる。


「謝罪を確認」

「毎回記録するな」

「初回なので」


 結局、皿は八枚洗った。

 シオンは横で一枚ずつ水気を拭いた。


「罰なのに手伝うな」

「共同生活の作業です」

「じゃあ罰にならない」

「次回は献立決定権を没収します」

「それは重い」


 帰宅報告の精度が、その日から急に上がった。



【宣告課・案件四〇七 経過報告】

身体反応「くしゃみ」を七回確認。

対象帰宅後に停止。

因果関係は不明。

なお対象は、指定時刻を二十秒前に遵守した。

この情報は重要である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ