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殺すまで一緒にいてやる ~殺し屋の俺、死の宣告に来た死神となぜか同居をはじめました~  作者: 他力本願寺


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11/22

第11話「死神、年齢確認される」

料理酒が切れた。


 それだけの理由で、俺たちはスーパーに来た。


 俺が買い物かごを持ち、シオンが横を歩く。

 百メートル制限があるから一緒にいるだけだ。


 そう説明する相手は、もういない。


「これは何ですか」


 シオンが梅干しの試食を指した。


「梅」

「果実に塩分を加え、長期保存したもの」

「知ってるじゃねえか」

「味は未登録です」


 一つ取る。

 口へ入れた瞬間、シオンの目が見開かれた。


「酸性攻撃」

「食品だ」

「舌が収縮しています」

「酸っぱいって言え」


 試食係の店員が笑いを堪えている。

 シオンは二つ目へ手を伸ばした。


「嫌なら食うな」

「再現性を確認します」


 気に入ったらしい。



 セルフレジで問題が起きた。


 料理酒を読み込ませた途端、画面が止まる。


『年齢確認が必要な商品です』


「店員を呼ぶ」を押す。

 すぐに若い店員が来て、俺とシオンを見る。


「お二人とも二十歳以上でよろしいですか」

「俺は二十五だ」


 店員の視線がシオンへ移る。


「私は、死神庁の稼働記録上では百八十七――」

「二十歳です」


 俺が被せた。


「証明書はありますか」


 ない。

 死神庁の黒い札を出すわけにもいかない。


「忘れました」

「年齢確認できない場合、こちらの商品は販売できません」


 店員は正しい。

 シオンが首を傾げる。


「私は百八十七年以上稼働しています。虚偽はありません」

「人間の年齢で答えろ」

「外見年齢の算定方法が不明です」


 後ろに列ができ始めた。


 その時、隣のレジから声が飛んだ。


「栞さん、二十歳ですよ!」


 翠だった。

 買い物かごにカップ麺を山ほど入れ、こちらへ手を振っている。


「同じ大学の先輩です! この前二十歳のお祝いしました!」


 嘘が滑らかすぎる。


 店員は少し迷い、料理酒だけ俺の年齢確認で通した。


 会計を終える。


「助かった」

「黒崎さんが素直にお礼! 録音すればよかった」

「今のは忘れろ」


 翠はシオンへ顔を寄せた。


「栞さん、次から誕生日決めておきましょう。いつがいいですか?」


「誕生日」

「生まれた日です」

「私は生まれていません。配置されました」

「じゃあ、好きな日にしましょう」


 翠は簡単に言った。


 シオンは少し考える。


「凛と会った日」


「却下だ」


 反射で言った。


「なぜですか」

「お前が俺の死を宣告した日だぞ」

「同時に、私がシオンと名乗った日です」


 言い返せない。


 翠は目を輝かせている。


「記念日ですね!」

「その言葉も却下だ」


 帰宅後。

 料理酒は肉じゃがに使った。

 梅干しは、なぜかシオンの皿に二つ乗った。


「酸性攻撃では」

「再現試験です」


 一つ食べ、やはり目を細める。

 それでも二つ目へ箸を伸ばす。


「無理して食うな」

「不快と、再度摂取したいという信号が同時にあります」

「梅干しはそういう食い物だ」


「矛盾を食品として販売しています」


「人間は設計段階で矛盾してるんだろ」

「食品も同様です」


 肉じゃがへ料理酒を使った理由を説明する。

 アルコールを飛ばし、香りとコクだけ残す。


「不要成分を除去し、必要成分を残す」

「そうだ」


「死神庁の初期化に似ています」


 箸が止まった。


「何だ、それ」

「長期滞在で業務に不要な反応が増えた場合、差分を削除する処置があります」


「味覚も」

「業務不要です」

「赤い服を選んだことも」

「おそらく」


 シオンは淡々と言う。


「予定はあるのか」

「現時点で通知はありません」


 肉じゃがを口へ運ぶ。


「これは美味しいです」


 初期化されれば、その評価も消える。


「もっと食え」

「なぜですか」

「残すと傷む」


 また俺が気になるとは言えなかった。


 年齢確認の問題は、酒売り場だけで終わらなかった。


 携帯電話の契約、図書館の利用証、病院の受付。

 人間の社会は、紙の上に存在しない人間を簡単に追い出す。


「死神庁発行の識別票はあります」

「見せるな。一般人が見たら黒い板だ」

「公印付きです」

「公印の発行元が死後世界なんだよ」


 シオンは黒札を光へかざした。


「四〇七という番号では不十分ですか」

「ここじゃ名前と生年月日と住所が要る」

「生年月日はありません。製造日なら」

「ますます見せるな」


 俺名義で格安端末を契約しようとすると、店員が関係を聞いた。


「ご家族ですか」

「監督対象です」

「妹だ」


 同時に答えた。


 店員が困った笑顔になる。


「妹さんの利用分、ということで」

「年齢差の整合性が」

「黙れ」


 契約後、端末へ名前を登録する画面が出た。


「四〇七でいいか」

「人間名を入力する欄です」

「お前、人間名ないだろ」


 シオンは少し考えた。


「仮の名称なら、選べますか」

「お前が使うなら、お前が決めろ」


 結局、その場では空欄にした。

 選択肢が多すぎるらしい。


 帰宅後、栄養成分を調べるために端末を渡すと、最初の検索履歴が残っていた。


『人間 名前 決め方』

『赤 花 名前』

『しおり 意味』


 見なかったふりをした。


 番号で十分だと言っていた死神が、自分の名前を探している。

 肉じゃがをもう一皿よそった。



【宣告課・案件四〇七 経過報告】

人間界における外見年齢を二十歳へ設定。

誕生日候補日を設定。

当該日は対象の死期宣告日と一致するが、私の命名日でもある。

どちらを優先するかは、私が決める。

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