◆episode.03 この世界で一番の宝物が手から零れ落ちた瞬間(とき)◆
「シア」
いつものようにドアをノックして声をかける。
しかし反応がない。
これもいつもよくあることだと思い、ドアを開けて入り、
カップをサイドテーブルへと置く。
「お寝坊さんか?シア。」
そしてまた、いつものように近づいて彼女の頬に手を添えようとした時、
彼女の肌が青白いことに気づいた。
「シア…?」
不安げに、恐る恐る彼女の頬に触れる。
ひんやりとした、温もりを感じない、肌の冷たさが伝わってきた。
「…。」
恐怖に変わる。
言い知れない不安と衝動を抑え込みながら、
彼女の頬を撫で続ける。
「シア…どうしたんだ? ほら…いつもの起きる時間だよ。
目を開けて、いつもの可愛い笑顔を見せてくれよ。」
生気のなくなった彼女の唇は、ピクリとも動かない。
「…嘘…だよな…? …シア? …なぁ、シア…?」
震える声で、何度も彼女の名前を呼ぶ。頬を撫でる。
でも、いつになっても、彼女から反応は返ってこない。
「そんな…どうして…。昨日はまだ…。
シア…、シア……シアっ!!!」
彼女を掻き抱いた。
起きて欲しくて…。強く、強く。
でも、どんなに抱きしめても、
彼女はもう二度と、いつものように俺を、抱き返してはくれなかった。
「うそ、だ……。
嘘だ…嘘だ……
嘘だ、嘘だ、嘘だ、うそだうそだうそだ
ウソダウソダウソダァァァーーーー!!!!!!!!」
壊れたように連呼し泣き叫び、彼女を強く強く、胸に掻き抱く。
もう、魂がボロボロになってしまっていた彼女の体は、
原型を留めていられず、手や足の先々から、
ぽろぽろと、光の粒となって空中へとゆっくりと溶けていく。
「あ…あぁ…ああ…あああ!!!!!
ダメだ、いくな!!! いかないでくれぇぇぇっ!!!!!!」
少しずつ、俺の腕から零れ落ちてゆく彼女を繋ぎ留めたくて、
ただただ、必死に崩れゆくその体を掻き抱いた。
その思いもむなしく、だんだん光へと溶けていってしまう、
愛しい彼女のぬくもり…。
どんなに叫んでも…
どんなに願っても…
俺の願いは、叶えてなどもらえなかった…。
それでも最後の最後まで、
彼女の姿を腕の中へと抱きしめていたかった…。
離したくはなかった…。
彼女のぬくもりが、
最後の一粒の光となって消えていく…
『その瞬間』まで…。
………
……
…




