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35話 魔族の国その後

 建設中の町で数日過ごし、私はドドラと親ドラゴンの住む不可侵の森へと向かった。

 それからすぐにトンボ返りである。


 上空から見れば、まだ家もさほど建っていない町。

 私が降りる場所を指示すると、二匹はゆっくりと降下していった。

 ドドラと親ドラゴンが翼をはためかせ、土埃を巻き上げ、家を揺らし、大地にずしんと巨躯が降り立つ。

 離れて見ていたドワーフや冒険者の顔は引きつっていたのだが、恐れることなくフラウとガインは近づいて来た。


「すごい! 赤い鱗に凛々しい顔つき。レッドドラゴンを間近で見れるなんて……」

「強そうだな……」


 感嘆の声を漏らす二人。

 ドラゴンは生物ピラミッドの頂点に近い。こんなものが人里近くに現れれば災害である。

 フラウはドドラの頭を撫で、ガインは尻尾を触っている。

 怖い者知らずもはなはだしい。


 ドドラは目を細め、気持ちよさそうな顔をして、フラウに頭をこすりつけている。

 誰にでも媚びるやつである。揺れる尻尾が嘆かわしい。

 ちょっと気に食わないので、ここは注意だ。


「一応、気高い生き物らしいので、私の見てない場所では触らないでくださいね」


 私はドドラの背からするりと地面に降り立った。


 いまは昼を回ったところである。

 これから準備して出発すれば、明日中には魔族の国に着くだろう。

 私の手荷物は杖とバスケットだけなので、準備は一瞬で終わる。

 だが、その前に昼食だ。

 腹が減っては旅もできぬ。


 お腹がふくれた後、私が親ドラゴン、フラウとガインがドドラに乗り、魔族の国へと向かった。




 大空を二体のドラゴンが翼を多く広げ、滑るように飛び続けた。


 町を眼下に見据え、ドラゴンは翼をはためかせて、ゆっくりと大地に降り立った。

 無事に私たちは魔族の国に到着した。


 遠くから見えていたのだろう。

 出迎えたのはサイスと魔族、他にこの地へ派遣されているドワーフたち。


「お久しぶりです。サイス」

「おお、クエス。よく来たな」


 ぼろぼろのあばら家だったものが、ちゃんと家として建っているし、空から見た畑は一面緑色に染まっていた。

 派遣ドワーフたちはうまくやってくれているようだ。

 サイスや魔族たちの顔もふっくらとしてきている。肌のはりもいいし健康的。何よりも皆に笑顔があった。


「順調そうですね」

「すべてクエスのおかげだ。して、そちらの二人は?」


 フラウとガインは人間である。

 もうちょっと殺伐とした雰囲気になるかと思いきや、魔族の人間に対する忌避感はさほど感じない。

 リディアの影響なのか、人間にも善悪があると理解しているのだろう。


「こっちがフラウで、こっちがガインです。私の知り合いの冒険者です。今回ついてきたいってことで同行させました」

「こんにちは。魔王サイス様。私はフラウと言います」

「魔王陛下。俺はガインと言います」


 フラウは憧れの人に出会ったかのように顔を赤らめる。

 ガインは右手を差し出して、サイスと握手をしていた。その手を見れば血管が浮き出し、力の限り握り込んでいるようだ。

 仮にもエスラの弟子であり、肉体強化系の最高峰である。

 勝てるわけないだろと無言で見守っていると、やはり負けて、ガインは地面に崩れ落ちていた。

 フラウはそのあと、サイスの手を取り両手をブンブン上下に振っていた。


「これは……?」


 サイスが困ったような顔を見せる。


「あー、二人はエスラのファンみたいなので、その弟子であるサイスにも憧れ的なものがあるだけかと」

「……そうか。お二人ともよくぞいらした。心より歓迎しよう」


 私たちは建物の一室に通された。


「それで今日は何の用事で来たのだ?」

「欲しい素材があってですね。ドリワナツリーってどこに生息しているか知っていますか?」

「ドリワナツリーか……。あれは中央大迷宮にいるのを見たな」

「中央大迷宮! エスラ様の冒険譚に出てくるダンジョンですよね。大陸中央にあるダンジョンで――」


 私は手でフラウを制す。


「大丈夫です。ここにいる全員、その話を知ってますから」


 サイスに顔を向け、私は続ける。


「とりあえず、場所だけわかれば大丈夫です。今日はこれから町の中を視察したいのですがいいですか?」

「ああ、もちろんだ。私がじきじきに案内しよう」



 それから私たちは町の中を巡った。

 ドワーフがちゃんと働いているかのチェックである。

 建物の建設現場、畑仕事に精を出す者たちを見て回った。

 もともとドワーフは勤勉な種族だ。ほぼ強制で連れて来たにもかかわらず、仕事はまっとうにしてくれているらしい。


 それについては安心した。

 しかし別のことで、私の不満は大爆発中である。


 視察中、魔族がわらわらと寄って来た。私ではなく、サイスにだ。


「魔王様万歳!」「すべては魔王様のおかげ!」「魔王様に栄光あれ!」


 サイスをべた褒めである。

 民からの信頼が厚すぎる。

 今回の件、主軸となって動いたのは私だぞ! と喉まで出かかったが、大人げないので飲み込んだ。

 飲み込んだそれが喉りにつっかえ、非常にストレスとなった。

 サイスの人気に嫉妬のような気持ちを抱(いだ)く。


 そうだ、こんなやつだったと、私は思い出した。


 エルフの村、エスラのもとにサイスが来た時もそうだった。

 魔法を学びに来たのだが、才能はなかったようで、私やエスラのような魔法は使えなかった。

 小さなエルフの子供でも使えるような魔法でさえ。


 サイスは村人から失笑を買った。


 しかし、それにもめげず、サイスはひたむきに頑張っていた。

 その姿が受け入れられたのだろうか。


「若いんだから、ご飯いっぱい食べなさいよ」と食べ物をたくさんもらい、

「今日もやってるな! 体を壊さないようにしろよ」と応援され、

「その努力はいつか身を結び、私をも超えるだろう」と激励されていた。


 最後のはエスラからではなく、隣りに住んでいたクソじじいのセリフである。


 そんなサイスは努力の末、魔法での肉体強化では類を見ない強さを得た。

 修業を終えたサイスが村を出る時には、泣き出す軟弱エルフもいる始末。


 私のほうが出来がよかったはずなのに、村人たちから受け入れられたのは、なぜかサイスだった。

 ここでもかわいそうな私はストレスを抱えていた。

 実戦練習でサイスをめった打ちにすることで、ストレスはいくらか軽減されていたのだが。


 思い出すと胃がムカムカする。

 胃潰瘍になってしまうかもしれない。

 すべてサイスが悪い。


 そんな雰囲気を察したのか、


「クエスさんもすごい人ですよ」

「クエスも頑張ってる」


 とフラウとガインが耳打ちしてくる。

 事情をあまり知らない二人に言われるのは少しやるせない。

 二人には、サイスのことや今回の件を詳しく話していない。

 戦争で魔族の国が滅亡しそうなくらい疲弊しているから援助している、とだけ伝えてある。


 サイス人気に辟易しつつ、視察も終わり、私たちは長閑な郊外に訪れた。

 なだらかな平野で、近くには小さな森がある場所だ。


「ここでいいですか?」

「ダンジョンの件か? ガインとフラウがいてもいいのか?」


 何の話しをしているのかと、フラウとガインは不思議そうな顔をしている。

 不満解消のため、二人には私の力を見せつけようと思う。


「問題ありません。めったに見られるものではありませんし、いい機会でしょう」

「わかった。ここで大丈夫だ」


 私は頷き、数歩前に出る。

 手には魔石をぎゅっと握り込む。世界樹の杖を高く掲げ、魔法を発動させた。


 地面が軽く揺れる。小さな揺れから大きな揺れに変わっていく。

 音を上げて、幅広い大地が波打つように上下に動き、地面が隆起していく。


「すごい……」

「すごいな……」

「相変わらずの魔力だな」


 絶賛、称賛、賛美の言葉で私のストレスが解消されていく。

 力を振り絞り、私は完成させた。


 目の前には小山のような土の塊。

 ぽっかりと開いた大きな入口が覗いている。


「あとは仕上げです」


 開いた入口に向かって私は歩き出し、その後ろに三人が続く。

 壁の見た目は土だが、表面は石のように硬くしてある。生半可なことでは崩れないだろう。

 奥に向かう途中でバスケットから魔石を取り出し、ぱらぱらと地面に撒いていく。

 花咲かクエスである。


「魔石を撒いてどうするんですか?」

「これは餌みたいなものですね。花は咲きませんけど、宝物は出てくるようになります」

「花? 宝物?」

「見ていればわかりますよ」


 最奥の場所に着くと、私は最後の仕上げにかかった。

 この場所に向かって地面はなだらかに傾斜になっていて、周辺の地面よりも低くしてある。

 これは魔素を溜めやすくするためだ。

 杖を掲げて魔力を開放する。

 体からあふれ、ほとばしる魔力。

 空気に濃い魔素が充足していく。


 私はくるりと振り返った。


「これで終わりです。一ヵ月ほどで成果は出てくるでしょう。調整は任せました。スタンピードなどは起こさぬよう注意してください」

「何から何まで世話になるな」

「まぁ、同門のよしみです。お礼はお酒でいいですよ」

「これは……もしかしてダンジョンなのか!?」

「ダンジョン!?」


 叫ぶように言ったのはガインだ。

 フラウはガインの言葉でようやく気づいたらしい。


「そうですよ。クエス式ダンジョンです。なかなかすごいものでしょう?」


 私は自慢げに胸を張る。

 魔族は復興したとしても、何かしらの利益を出せるようなものがなければならない。

 そのためのダンジョンだ。

 そのうち生き物が住み着き、魔物化するだろう。そうすれば魔石が取れるようになる。


「あとの交渉はサイスに任せますよ。私はエスラのように甘くないですからね。自分たちのことは自分たちでやってください」

「いまでも十分に甘いがな。獣人との交渉は俺が責任を持ってする」


 サイスはそう言って笑みをこぼす。

 魔族の国の北には獣人の住む国がある。

 人間との戦争で交易は途絶えたようだが、戦争の終わったいまならば、再度交易を結ぶのは可能だろう。

 それに、これからは魔石が特産品として輸出できる。


「獣人の国なんてあるんですね」


 人間の国からほとんど出たことがないフラウは知らないのだろう。


「この世界には色んな種族がいますよ。エルフにドワーフに魔族、人間に獣人に。妖精なんて種族もいるみたいです」


 私は続ける。


「ここでの仕事は終わりました。明日にはここを発(た)ち、中央大迷宮を目指しましょう。その前に、次はフラウの番です」

「私の……番ですか?」

「そうです。料理の腕を思う存分、私に見せつけてください」


 私は魔力を使いすぎて空腹になったお腹に手をそえた。

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