↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/37

36話 中央大迷宮

「それではお元気で」

「ああ、そちらもな。困ったことがあれば頼ってくれ。ガインとフラウはクエスがいるからって、危ないことするんじゃないぞ!」

「はい! 魔王様もお元気で! さようなら!」

「魔王陛下もお元気で!」


 サイスと別れの挨拶を終わらせた私たちは、ひれ伏すドラゴンの上によじ登る。


「じゃあ、よろしくお願いします。方角は北西……あの山を目指して飛んでください」


 親ドラゴンの背をぽんと叩くと「承知した」とばかりに一鳴き上げて、翼をはためかせ始めた。

 強い風が巻き起こる。

 地面からふわりと巨躯が浮かぶ。

 見る間にその巨体が大空へと翔けあがった。


 自分で空を飛ぶのとはまた違う感覚。

 ごうごうと風を切り裂く音が聞こえる。

 上空は風を魔法で防いでも少し冷たい。私は冷えた体を温めるため、酒瓶をかたむけ喉に燃料を流し込んだ。




 野を、山を、川を飛び越える。

 二回の野営を挟み、私たちはついに中央大迷宮と呼ばれるダンジョンにたどり着いた。


 冒険譚に聞くダンジョン。

 人間の間では有名なダンジョンだろうが、ここを訪れた者はごくわずかだろう。

 フラウとガインが子供のように目をきらきらと輝かせてはしゃぐ。


「すごい! ここが中央大迷宮! すごい、すごい!」

「壮観だな……」


 平野を囲む連なった山々。最近は気温も下がり、紅葉した木々で山は赤みを帯びている。

 広い平野。その中央には薄紫色に染まる巨大な湖がある。高く昇った太陽の光りできらきらと水面が輝いている。

 湖の中央には大きな湖島。その島には城壁のある古城がが建っていた。


 荘厳な山々に囲まれ、薄紫に輝く水面。島にそびえる古城。

 まさに絶佳(ぜっか)の光景。


 話には聞いてはしたが、私もここへ来たのは初めてだ。

 幻想的な光景に思わず息を飲む。


「湖が薄紫色なんですね。きれい……」

「冒険譚にはその話、出てこないんですか?」

「ただ、湖島にそびえたつ立派なお城としか聞いたことはありません」


 これだけ特徴的な湖を、フラウは知らなかったようだ。。

 冒険譚なんて、エスラからまた聞きしたものを誰かが口伝したのだろう。

 物事の真偽が確かめられない世界なんてこんなものだ。


「あれは魔素が水に溶け込んでいるんですよ」

「そうなんですか! さすがはクエス様! なんでも知っているんですね」


 私は胸を張って答えた。

 エスラから聞いただけで、私が調べたわけじゃないのだが。

 私が言ったので手柄は私のものである。


「とりあえず中を探ってみましょうか。魔物がいますので、二人は私の指示に従ってください」


 ドラゴンをその場に待機させて、城に向かって歩き出した。後ろに二人が続く。

 湖のほとりから島に向かって橋が伸びている。

 その先は城門があり、いまも何かを迎え入れるためか、両開きの大扉は開いたままだ。


 橋の上を歩く。

 湖の水面は風を受けて波打つ。橋脚に波が当たり、ちゃぷちゃぷと小気味がいい音がする。

 馬車が余裕を持って通れるくらいに幅の広い橋。

 木製ではあるが腐った様子もなく、痛んではいないようだ。


 橋を渡り終えた私たちを迎えたのは、高くはだかる城壁にある大きな門。

 両開きの扉は開かれたままになっていた。


 そこをくぐり抜け、奥へと進む。

 奥には庭園だったのだろう敷地が広がっていた。

 その庭をいくつもの木が闊歩(かっぽ)しているのが見える。

 目的のドリワナツリーである。


 木と言えど、背丈はそこまで高くなく、3メートルほどだろうか。

 見た目は木そのものだ。

 樹冠には緑の葉が茂り、枝が腕のようになっている。根っこが足で、ずりずりと引きずって歩いている。

 幹にはウロが三ヵ所。目と口になっているのだろう。

 俗に言う、トレントそのものである。

 ただ、頭の枝からは、リンゴのような赤い果実がぶら下がっている。

 世界で一番臭いと呼ばれる果物だ。


 ドリワナツリーはその見た目と遅さに反して強い。

 非常に硬く、金属の武器はやすやすとはじき返す。

 かと言って魔法は有効ではない。ドリワナツリーは魔法の抵抗力も高い。

 だから普通の冒険者程度では討伐は難しい。


 抵抗力を上回る高火力の魔法で、一気にかたをつけるのが効果的だ。


「あれがドリワナツリーか……。どうするんだ? 見た感じ足は遅そうなんだが」

「まずは私が小手調べに倒しましょう」


 何体も闊歩している中、一体を見定め、私は距離をじりじり詰める。

 私に気づいたドリワナツリーが向きを変え、腕の木をわっさわっさと振り回して近づいてきた。


「思ったよりも動きは速いですね。とりあえず、このまま城門まで撤退です」


 群れから引き離すため、付かず離れず距離をとる。

 城門を越え、橋のたもとまで来ると、私は杖をドリワナツリーへと向けた。


「あの果実と口から飛び出る酸に気をつけてください。あなたたちは冒険者。自分の身は自分で守るように」

「はい!」

「おう」


 私の後ろでフラウが杖を、ガインが戦斧を構える。

 RPGのようであり、少し胸の奥底が熱くなる。


 こんな場合は技名を叫んだほうが気分がでるだろう。

 私は杖を振り上げた。


「ドラゴンフェニックスッ!」


 ドリワナツリーが歩く地面が一瞬光り、そこから舞い出るのは鳥の形をした炎。炎の鳥が空に向かって飛翔する。

 鳥がはばたけば風が生まれる。押し寄せた熱風が頬をじりじりと焦がす。

 瞬く間に、ドリワナツリーは火だるまとなった。

 もがき苦しむように手足をばたつかせるドリワナツリー。

 ついには力尽き、地面にばたんと倒れた。

 真っ赤に染まった体は次第に黒く変色し、白い煙がゆらゆら上がる。


「楽勝でしたね」


 倒れ動かなくなったドリワナツリーに、私は歩み寄って見下ろした。

 真っ黒になって炭化したドリワナツリーである。

 本来、非常に臭い魔物なのだが、炭となり、その臭いは抑えられているようだ。


「すごいです! さすがです!」

「それほどでもありますよ。ガインちょっといいですか?」

「なんだ?」

「その斧でこいつを叩いてみてくれません? 今回は燃やしてしまいましたが、素材が取れるかちょっと不安で」

「ああ、わかった」


 横たわるドリワナツリーにガインが斧を振り下ろす。

 カァンと硬い金属同士をぶつけたような音が響いた。


「何度もやってみてください」


 私の言葉に頷き、ガインは何度も斧を振り下ろす。


 カァン、カァン、カァン。


 どのくらい叩いたのだろうか。

 ガインの息は上がり、額には汗が浮き出し、手で拭っている。

 それでも何度も続けた。


「おおっ!」


 振り下ろした斧の刃が黒くなった樹皮に刺さり、ひびが入る。


 ピシピシと音をあげ、ひびが亀裂となって全体に広がっていく。

 黒く炭化した層が剥がれ落ち、ぱらぱらと地面に散らばった。


 そこから現れたのは、真っ白な無垢の心材。


「燃やしても材料は無事に取れるようですね」


 私は叫ぶように言った。

 橋の中ほどまで移動して、鼻をつまんで準備万端である。


「ああ、この通り……クサッ!」

「何これ臭いです!」


 こうなることは予想していた。

 鼻をつまみ、遠く離れていても少し臭う。

 非常に臭い。生臭い。蒸した生ゴミに色々混ぜたような臭いである。


 ガインとフラウは顔をしかめて鼻をつまんでいた。

 きっといい経験になっただろう。


「素材が取れることはわかったので、その心材は湖に捨ててください」


 私が遠くから指示を飛ばすと、ガインは蹴って転がし湖に落とす。

 それを確認すると、風の魔法で臭いを吹き飛ばした。


「それじゃ、ぜんぶ燃やし尽くしましょうか」


 攻略の糸口は掴めた。

 あとは余裕である。


 城門を越えて庭園へと足を進めた。



 私は空を飛びながら庭園に群がるドリワナツリーを引き連れ集める。

 一ヵ所に集めると、巨大な落とし穴を出現させる。

 すり鉢状になった穴からは出てこれず、わさわさと仲間を踏み台にして脱出しようとするドリワナツリーたち。


 足を開き、右手に持った杖を天高く掲げる。


「ドラゴンフェニックスッ!」


 巨大な火柱が城壁よりも高く上がった。


「夜であれば映えるキャンプファイヤーだったんですけどね」

「キャンプファイヤー……ですか?」


 この世界はキャンプなんて娯楽はない。

 あるのは魔物や獣に襲われる危険がある野営である。


「巨大なウッドトーチみたいなものです」


 ウッドトーチは存在する。冒険者には無縁のものかもしれないが、馬車での旅なら丸太くらいは積んでいる。

 椅子代わりに使用するものだが、古くなればウッドトーチ代わりにされる。


「さて、次は城内を見回りますか」


 燃やす、燃やす。

 すべてを燃やさんとばかりに魔法を放つ。


 三人編成の勇者パーティーは城内を縦横無尽に駆け巡る。

 私が勇者であり大賢者であり、大大大魔法使いの役である。


「それにしても多いですね。異常繁殖です」

「ほうでふね」


 三人ともしかめっ面で鼻をふさいでいる。

 それでも防げない臭い。

 非常に不快である。


 外に引き連れて行ければ問題ないのだが、城内は狭いところもあって難しい。

 そのため、各個撃破の戦術を取った。

 戦いは順調。

 だが、少し不安があった。


「このダンジョンってどこの国の所有なのか知ってます?」


 城内で高火力の魔法を使っているのだ。

 壁は黒く焦げ、絨毯などの布製のものは焼け落ちた。

 責任は取りたくない。


「ひへ、どこの国てもないはずれふよ」

「本当ですか?」


 見て回った城の中は、そこまで痛んでいない。

 きれいにすれば、このままでも十分に使える。

 かっこいい城である。

 周囲の環境とも相まって、非常に私の心に突き刺さる。


「帰っへから調べてはほうでひょう?」

「それもそうですね。とりあえず、ぜんぶ燃やしちゃいましょう」


 近づいてきたドリワナツリーに、また私は杖を振るった。



 すべてのドリワナツリーの討伐には、丸二日かかった。

 私たちの目の前にあるのは、炭化した木の山である。

 これをドワーフの国に持ち帰り、加工して船底に取り付ければ、海でも使える船ができ上がるのだ。


「やっと終わりましたね。じゃあ、帰りましょうか」


 一度帰って、木の山を回収する手はずを整えなければならない。

 ともかく、船の素材は手に入れた。

 あとは魔道具をどうにかすれば終わりだ。

 単純な構造なので、そこまで時間はかからないだろう。


 船が完成すれば、交易と漁業の開始である。

明日25日で完結します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。