33話 新たな町を①
私がドワーフの国に戻ってから、三ヵ月ほど経っている。
ティアムから戻った私は、すぐボルグに会いに行った。
面倒ごとを任せるためである。
捲くし立てるように魔族の国であったことを説明し、援助をするように伝えた。
こんな時は相手に考える時間を与えてはいけない。勢いで押し切ることが正解だ。
隙を与えれば、一存では決められないと、どうせ長ったらしい会議が開催される。
さっさと相手を敷いたレールの上に乗せて、背中を蹴って押してやることが重要である。
困っている者たちをドワーフは助けないのか!
ドワーフの誇りはないのか!
その髭は埃だらけのガラクタなのか!
髭に絡めてボルグを煽る。
難しい顔したボルグが「我々も助けたいと思っている」と答え、私はにやりと口角を上げる。
曖昧でも言質っぽいものが取れれば十分である。
それを盾に、押し切ってしまえばいい。
「じゃあ、あとはお任せします」と伝えた。
慌てふためくボルグに、
「私はこれからお出かけします。戻るまでにこれを造っておいてください。なる早でお願いします」
と図面を渡し、私は颯爽と部屋を出る。
部屋から出ると、そのまま不可侵の森に向かった。
向かった先は森である。ドドラとその親がいる不可侵の森である。
魔族の国に食料支援を行うには、いろいろと難がある。
平野に裂け目を造ったために、陸路を使うには大回り。さらにティアムの国内であり、見つかれば面倒になること請け合い。
海路も無理である。海には魔物がでる。私とて海中からの攻撃を防ぐのはつらいし、そもそも船がない。
そこでレッドドラゴンの登場である。
レッドドラゴン登場の際には、ドワーフの町が騒然となったのは仕方がない。
慌てふためき逃げ惑うクソ髭どもを見ていると、気分が高揚する。
ここにドラゴンを連れて来たのは空路を使うためだ。
ドワーフに造らせた巨大な鳥かごに食料を詰め込み、空を飛んで魔族の国までの輸送。
鳥かごを足に掴み飛ぶドラゴンの姿は、なかなかにシュールな光景だった。
何往復もするのは大変だったが、一度に多くの量を早く運ぶことができた。
これで当分魔族の食料問題は大丈夫だろう。
サイスはドラゴンを見て、顔を引きつらせていたが。
レッドドラゴン様様である。
食料を運び終えたあとは、人材の派遣である。
鳥かごに詰められたドワーフたち。檻に入れられ、恨めしそうな顔でこちらを見ていたクソ髭ども。
流刑地ではない。安心したまえ。
私にたてついた者たちが多いのはわざとである。
魔族の国、復興の礎となって欲しい。
そんな忙しい日々を過ごし、私は次の計画に着手した。
いま、私がいるのは海に面したところ。
ドワーフの町から南東の方角。交易中間地点にある私の家からは南にあたる位置。
開墾されておらず、ドワーフの手がまったく入っていない場所。
この場所に、新しく交易のための町を造るのだ。
しかしながら、最近は目が回るような日々を過ごしていたため、英気を養うためにも休息が急務である。
仕事はそんなに時間がかからないはず。それまでは私の自由時間だ。
私は世界樹の杖にまたがって海上を飛ぶ。杖からは紐が垂れ、その先には餌のつけられた針がある。
波に浮かぶクラゲのように、風に任せてゆらゆら飛ぶ私。
クエス式トローリング釣法である。
後ろをチラ見しながら飛んでいると、魚影が浮かび上がった。
小さな影は海面に近づくと大きな影となる。大物だ。
大きな影が海を割り、クジラのような魔物が大きな口をぱっくりと開く。
杖に負荷がかかる。もちろん、一瞬で紐はぷつんと切れた。
魔物は長い尾ひれをひるがえし、水しぶきをあげて、海の底へと消えていく。
「さすがにあれは無理ですね」
もともと釣れるなんて考えていない。
海に住む魔物はどんな生き物か、チェック程度である。
トローリングを止めた私は磯に移動して、静かに釣りを再開する。
岩の上にゴザを敷いて座り、紐のついた杖を振るう。
ウキ代わりの木片が、ぽちゃりと音を立てて海面に浮かんだ。
ゆらゆら波に揺れて流されていくのを見つめる。
岩に当たって砕ける並みの音。潮の香りが鼻をくすぐる。柔らかい太陽の日差しが暖かい。
心地のよい長閑さである。
魚が釣れれば文句なしだが、無理だろう。
針は私の指くらいの大きさであるし、ハリスはなく道糸だけ。
道糸は木綿糸を重ね、ねじって太くしたもの。しかも、それですら強度がまったく足りない。
しかし、これでいいのだ。
釣りとは自己との対話の時間である。
日が暮れるまで対話し続け、飽きた私は岩場のカニを集めるべく動き出した。
今日の夕食はカニ鍋だ。
捕るのは簡単。
高光度の明かりを当てれば、カニの目がくらんで動きが止まる。
そこをすかざす風の魔法で一気にかっさらう。
楽勝である。
鍋の中に入れられたカニが、わさわさと足を動かす。
見ているだけで涎が垂れる。
集めたカニは野菜と一緒に煮込むだけ。味は海水を継ぎ足して調整。
灰汁をこまめに取ったなら、圧力をかけ、高火力で一気に煮込む。
すると、殻まで食べられるほどに柔らかくなった赤いカニたち。
お椀に入れた、カニや野菜を口に放り込む。
料理の出来栄えに舌鼓を打つ。
夜は少し冷え込むようになったが、熱い料理が体を温める。
はふはふと息を吐きながら鍋を堪能した。
「うまい! うますぎる! やっぱりさっさと海路を開いて海鮮の流通を急がせなければ……」
楽しい夜は瞬く間に過ぎていった。
夜が明け、朝となった。
ゴザを何枚も重ねた布団から、もぞもぞと這い出た私は行動を開始する。
今日も今日とて忙しい。最近毎日忙しい。ここはブラック企業か。
もうちょっと布団にもぐりこみたいが、ここへ来た目的を忘れてはらない。
ここを本拠地とするために、これから町の土台を作るわけだ。
周りは海、荒れ地、森林と。地面は起伏があるし、この場所を住めるようにするまでは時間がかかるだろう。
もっとも、それは一般的な話である。
私は杖を振るって魔法を発動させる。
気分はシミュレーションクエスシティである。略してシクシティ。
手元には木の板。その上には紙があり、私はさらさらと紙に書き込んでいく。
この町の計画書だ。
近くの森林を伐採し、枝葉を落として積み上げる。
乾燥させてから木材に加工する。
敷地の拡大と建築木材の入手が完了。
土を盛り上げる。足らない分は持ってきて、平坦にならしていく。
井戸も掘った。
水脈がわからないので何度も掘った。
海水が滲み出てくることもあったが、数打てば当たる。
久々の重労働。
働き詰めだが楽しい。
いまはまだ更地だが、数ヵ月の間に家が建ち、船が造られ、町となるのだ。
未来の姿に思いを馳せる。
土地の拡張をし終わると、気づけば夕方になっていた。
ドワーフの町の方角から馬車の一団が現れる。
この町の建設に関わる第一陣が到着した。
「クエスさーん!」
馬車から子供のように叫び、手をぶんぶん振る女の姿が見えた。
その後ろには背の高い男もこちらを見ていた。
他にも何人か冒険者らしき人間もいる。
「フラウにガイン? なぜここに?」と私は声を漏らした。




