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31話 クエス大作戦・決行①

 サイスとの話しがまとまった昼すぎには、撤退命令を伝えるために、動ける魔族たちが前線に向かった。

 平野に向かう魔族たちには、諦念の色が浮かんでいた。

 前線から撤退が始まれば、ここに人間たちが攻めてくると思っているのだろう。


 それを見届けてから、私たちはティアムに向けて出発した。


 最初の目的地は最前線となっているレッドクレイ平野である。

 その道中、私は幌の上に座って周りを眺めていた。


 サイスと過去の思い出話に花は咲くこともなく、リディアは無言。

 二人は沈痛な面持ちで、雰囲気はまるで通夜である。

 あながち間違いではない状況なのだが。

 暗い雰囲気に耐えかね、私は一人で風に揺られることにした。

 お供は魔族の酒である。




 馬車はもくもくと進み、最初の目的地にたどり着いた。

 北には山脈、南には海湾に挟まれたレッドクレイ平野。

 その平野に接する海湾。切り立った崖のすぐそばに私は立っている。

 海風が上昇気流となって、塩の香りを運んでくる。


 リディアとサイスはここにはもういない。すでにティアムに向けて出発した。

 私は居残りだ。ここでやるべきことをするために。


 潮風と、波の砕ける音が心地いい。

 海側を少し眺めていると、いつのまにか昼を回っている。

 お腹の時計が昼食を食べろと告げてくる。私は鳴るお腹を押さえて座り込む。

 崖上の野原から海を見つつのランチである。

 魔法の火であぶった干し肉を、口の中に放り込む。魔法で出した水で喉を潤(うるお)した。


 腹も少し膨れ、そろそろやるかと立ち上がる。

 右手には世界樹の杖、左手にはバスケット。背中にはリュックサック。

 見た目は登山スタイルではあるが、山に登るわけはない。

 杖を振るい、私は海原の空へと飛び上がった。


 海面高くに私は浮かぶ。

 見下ろす先には、先ほどランチを食べていた場所。

 視線を動かし北の山脈を見て、どこまでやるかを考える。


「よし!」


 声を上げ、自分に発破をかけた。

 落とさないように、バスケットから魔石を一つ取り出し握り込む。

 杖を向ける先には切り立った崖。

 やるのことは崖の破壊。まさに発破をかけるのだ。


 私は杖を崖に向ける。

 杖がほのかな輝きを放つ。


 魔法が発動し、ドドドッと轟音が響く。

 ガラガラと音を立てて崖が崩れていく。

 小さな石、大きな石、岩、土や草。

 崩れ落ちた破片は飛沫(しぶき)を上げながら、海へと落ちていく。

 大きな岩が落ちると、高く水柱が上がった。

 高ポイントゲットである。


 崖を削っては、津波のような濁流を起こし、また削る。

 海湾を北へと伸ばすため、大陸のもっと内部に至るまで。

 延々と私は崖を削る作業を繰り替えす。



 作業を繰り返していたところ、ティアムの駐屯部隊に遭遇した。

 魔法の遠距離攻撃で狙うと、まさに蜘蛛の子を散らすように散り散りに逃げる兵士たち。

 もちろん、西のティアム側に誘導する。

 そんな行為を繰り返していれば、日は暮れ、薄暗くなっていた。


 後ろを振り返れば、海側から伸びた一本の海谷(かいこく)。

 これは移動阻害のためなので、ある程度の幅があれば問題ない。

 自分の仕事に満足した私は大地に降り立ち、野営の準備を始めた。



 まだやるべきことは終わっていない。

 仮眠を取った私は魔石で魔力を回復させつつ、今度はティアムの北に向かう。


 大忙しである。

 100年分は働いた気分だ。

 それでも今回の計画は私が発案であり、日にちも時間も、それぞれがやるべきことも決まっている。

 遅れれば、すべてが水泡に帰(き)することになる。

 気怠さを感じながらも、私は次の目的地を目指して飛び続けた。




 太陽が高く昇る。

 今日がリディアとサイスの決行日である。それに合わせるには時間的にギリギリだ。

 いつもはたっぷり取っている睡眠を削っての強行。

 これほど目覚まし(ルコ)が欲しいと思ったことはない。

「ごめんごめん、寝坊してしてしまいました」なんて、サイスやリディアに言えるわけはない。


 しかし、そんな私は逆にハイテンションである。

 睡眠不足ゆえなのか、気分が高揚する。

 王城の障壁破壊は、やっぱりやらないほうがよかったと思わなくもないが、いまさら計画は変更できない。

 まずは目先の目標を、と私は空高くから地上を見下ろした。


 森林が続く中、ぽかんと空いた平地にたたずむドーム状の建物。

 ティアム北のダンジョンである。名前は知らない。

 大きさは南のダンジョンに及ばないが、これは地下があるタイプのものだ。

 塔が逆さまに埋まっているらしいく、地下10層ほどまであるとのこと。

 いつの時代、誰が、なぜ、どうやって作ったのか不明のもの。

 しかし、今回は直接入るわけではないので関係ない。

 障壁を壊し上から魔法をぶち込んで、土の中に埋めてやるのだ。


 空に浮かぶ私は障壁の位置を確認して、右拳に魔力を込める。

 さすがに指先一つでは破壊できない。突き指してしまう。痛いのは嫌いである。

 すっと息を吸い込み、右手を振りかぶって障壁を殴りつけた。

 パンっと音が鳴り、障壁は光る魔素の粒となって消えていく。


 ダンジョンを守るものはなくなった。

 さして大きくはないダンジョン。

 地上に出ている一階部分を破壊すれば終わりだ。


 私は杖の先を大地に向けた。


 ガラガラと崩れる轟音とともに、土煙がのろしのように空へと上がる。

 完全に潰すため、さらに魔法を叩きこんだ。


 土煙が風に流されて止む。

 粉々になった瓦礫の山をこの目で確認する。

 頑張れば復旧できなくもないが、戻すには相当の時間と労力が必要だろう。


 私はため息をついた。

 満足のため息ではない。


「まだ終わらんのですよ……」


 これで終わりではない。

 次はここからティアムに潜入して王城を襲撃しなければならないのだ。

 バスケットから魔石を取り出し、私はティアムに向かって飛んだ。




 ティアムの町が見えた頃。

 すでに辺りは暗闇に染まっている。

 空を飛ぶには問題ない。ぶつかるようなものは障壁くらいしかないし、飛行ルールなんて存在しない。

 私独占の自由な空である。

 空高く翔(か)け、遠くに見える王城を目指す。


 石壁を越え、町に直接潜入する。

 空は闇に染まり、高く飛んでいる私は見つかることはない。

 魔道具の光でライトアップされる王城へと無事にたどり着いた。


 兵士の巡回の合間を縫って、私は城壁の上に立つ。

 眼前にあるのは、ティアムの魔法ギルド長が張った王城の障壁である。

 右手の指先に、無属性、火、水、風、氷の魔力を宿した。

 手を障壁にあてがい、構成の内容を探知する。


「火がメイン。無属性が少々。この障壁を作った魔法使いはセンスがないですね。リディア以下です」


 力の弱い魔法使いが障壁を張る場合、もっと複雑な構成にすべきだと思う。

 火には、水や氷といった対極にある属性をぶつければ簡単そうに思えるが、魔法はそう単純ではない。

 目には目を、歯には歯を、属性にはそれを上回る同属性をぶつければいい。


 私の拳が真っ赤に燃える!

 障壁を壊せと私の心が叫ぶ!


「クエスシャイニングドランク!」


 赤く光った拳が障壁に当たり、亀裂が走る。

 瓦解し、魔素の結晶となっていく障壁を背に、私は杖を振り払う。

 ビュッと風を切り裂きうなりを上げる杖。


「修業が足りないですね。ギルド長」


 気分は血振りであるが、殴りつけたのは拳だ。雰囲気は大事なのである。


 決めセリフが終わったところで、これで終わりと撤退開始。

 ドワーフ領に向かって、颯爽と夜空に飛び上がった。


「あ、忘れるところでした」


 私は王城の上空に向け、光の球を打ち上げた。


 これで本当に任務終了である。

 あとはさっさと帰って、ベッドの中にヘッドスライディングだ。

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