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30話 クエス大作戦・立案

 翌日の早朝。

 朝食を終えたあと、昨日の話し合いをした部屋に移動した私たちはサイスと向かい合って座る。


 隣りに座るリディアはうつむいたまま、何も喋らない。

 下を見つめる目は少しばかり腫れている。

 朝食の時も物思いにふけっていた。

 昨日の話の内容を反芻(はんすう)するように、噛み締めるように、ゆっくりと食べていた。


 意外と繊細な子である。


 そんなことよりもこれからの話だ。

 サイスを見ると口を一文字に結び、難しい顔を浮かべている。

 私は考えていたことを頭の中で整理しつつ、口火を切った。


「昨日も言いましたが、とりあえず見ていられないので止めます」

「勝手気まま赴くままに行動か。相変わらず変わらんな、クエスは」


 私は基本的に言葉を曲げない。

 とりえずやってみるスタイルである。

 気に食わないから止める。

 私には止められる力がある。

 だが、そのやり方では問題が起こるだろう。

 起これば起こったで、その時になったら考えればいいのだ。


「このまま魔族が滅亡するまで抵抗しますか? 滅亡はしないかもしれませんが、この先待っているのは奴隷としてゴミのように扱われることですよ?」


 魔族を無力化できる魔道具がある。

 直接目で見ていないが、リディアが言うのなら本当のことだと信じられる。

 ものは完成している。

 その魔道具の普及をもって、戦局は動く。

 まだ侵攻が始まっていないということは数が揃っていないのだろう。

 早めに手を打たなければ、状況はますます悪くなる。


「昨日も言ったが、もう止められんよ」


 サイスは頑固者である。

 これは殴り合いで無理矢理言うことを聞かせるしかない。

 目の前のサイスは昔に比べ、やせ衰えている。

 弱っているいまならば、私でも難なく勝てるはずだ。


 私は体に魔力を巡らせ、握る拳に力を入れる。


「と、言いたいところだが、これでも俺は王だ」


 サイスが続けて喋り出した。

 てっきり魔族総出で迎え撃つ。それが無理なら単身でも。などと言い出すと思っていたのだが。

 話しの方向が考えたものと違う方向に行きそうだと、私は飛びかかるのを止め、言葉の行く末を待つ。


「戦線に出ている兵士のほとんどは、すでに戦う意志が残っていないだろう。残るは戦うことを知らない民たちだ。俺には国民を生かす義務がある」


 テーブルに両手をついて、サイスが頭を下げる。


「クエスの話を聞かせてくれ。この国を、民を守るために力を貸してくれ」


 殴り合いにならなかったことに安堵した私は、ふうと一息吐く。

 わかってもらえたことに一安心である。

 もう、どうしようもないところまで来ているのだ。

 損切りである。

 切られたものは浮かばれないだろうが。


 これからしようとしているのは、私自身、いいのか悪いのかよくわからない。

 それでも、いま止めたほうがいいだろう、と私は計画の内容を話し出した。


「この国に魔石はありますか? それなりの量が欲しいのですが。何しろ大がかりなことで」

「そこそこの量ならばある。後から宝庫に案内しよう」

「それはよかったです。ならば、私のしようとしていることを話しましょう。計画は――」


 作戦名、クエス大作戦である。


 侵攻を防ぐ大まかな計画の内容を伝えると、二人の顔つきがみるみる変わる。

 それもそうだ。

 私は至って冷静を装っているが、心臓の鼓動が聞こえるほど大きく脈打っている。

 案外、比較的、相当危ない橋を渡ることになると自分ですら思っている。


「これでは侵攻を遅らせることにしかなりません。次にティアムの財源を潰します」


 隣りに座るリディアに顔を向けると、あんぐりと口を開けていた。


「リディア。ティアムの北側のダンジョンについてですが、障壁はうごめきの迷宮と同じものですか?」

「……はい。そうです」


 ティアムには北と南にダンジョンがある。

 もう南のダンジョンは潰れてないが、北のダンジョンの障壁は同じくリディアが張ったようだ。

 私にとって、その障壁を壊すのはささいなこと。

 へっぽこ魔法使いの障壁なんぞ、指先一つで破壊できる。

 ダンジョンを潰した程度で、財源にどこまで影響が出るかわからないが、大幅に行動を抑えることにはなるはずである。


 ティアムを抑えるだけでは駄目だ。

 現状を見て、聞いて、わかったこと。魔族の国は疲弊しすぎている。

 このままでは攻め入られなくとも、勝手に絶滅しそうだ。

 それを助ける必要がある。


「私はいま、ドワーフ国民です。ドワーフ国との国交を開き、こちらから支援をしましょう。早急な食料支援、人材の支援。それに交易も行う予定です」

「そ、そんなこと可能なのか?」


 サイスは顔を驚愕の色に染める。


「可能とか不可能じゃなくて、どうにかするんですよ。私を誰だと思っているのですか?」


 ここで決めセリフである。

 ビシッと人差し指を立てる私。


「私は大大大魔法使いであるクエス様なのですよ」


 ぽかんとするサイスは、私の言った内容を理解すると顔つきを変えた。

 納得はしたが受け入れられないとばかりに眉間にしわを寄せ、音が聞こえるほど奥歯を噛み締め、苦悶の表情を浮かべる。


「それなら民は救われるかもしれない。俺は一矢報いることもできず、のうのうと生きるのか……」


 私がやれることはこれくらいだ。

 これがうまく行けば、生き残っている魔族は助かるだろう。

 しかし、やりすぎでもある。魔族が反撃する余地がない。

 人間から一方的に殴られた魔族。

 喧嘩を止めて殴られた魔族を治療して、はい、これで終わり。解散しろ。

 これで納得できないのはわかる。


 サイスは国民を助けたいと言ったが、内心では、単身ででもティアムに乗り込みたいと思っているに違いない。

 私なら……殴られることはないが、殴られたら三倍にして殴り返すまでだ。

 一発目は殴られたぶん。二発目は仕返し。三発目はおまけである。


「気持ちはわかりますが、仕返しは直接戦うことだけではないでしょう。ティアムよりも大国になれば、それも可能です。長い年月と行動力が必要ですけど」

「しかし、あの魔法使いだけはなんとかこの手で……」


「私が協力します!」


 リディアが両手をテーブルにバンッと叩きつけ、立ち上がり叫んだ。

 そして頭のターバンを取ってテーブルに叩きつける。

 赤い髪の隙間からは人間の耳が見えている。


 すぐさま私は肉体に魔力を巡らし、サイスを睨みつけた。

 こんな状況で、人間だとバレたら殺されかねない。

 しかし、サイスはリディアが人間だったことに驚いたようだが何もしようとせず、落ち着いた様子だった。


「リディアはティアムの人間ですよ? 殺さないのですか?」

「俺はバケモノじゃない。それくらいの良識は持ち合わせている」


 大丈夫そうだと安堵のため息を漏らした私は、リディアに座るよう促した。

 感情をあらわに、目を少しうるませていたリディアだったが、私の言葉に大人しく従って座る。


「で、リディアはどうしたいんですか?」

「私がサイスさんに協力します」


 話しの流れからサイスの野望を手伝う気なのだろう。ギルド長、誅殺の野望である。

 リディアはサイスと一緒に暴れる気なのだろうか?


「本気ですか? バレたら国家反逆の罪で死刑はもちろんのこと、一族郎党皆殺しにされますよ?」

「構いません。覚悟の上です」

「サイスが嘘を言っているかもしれないですよ?」

「私はこの目で見て、この耳で聞いたことを信じます。ギルド長のしたことは許されるべきことではありません」


 どうやらギルド長はリディアの癪に障ってしまったようだ。

 もっと高慢かと思っていたのだが、そこそこ根はまっすぐだったらしい。


「って、ティアムのお偉いさんが言ってますけど、サイスはどうですか?」

「是非とも協力をお願いしたい!」


 リディアに向けて、サイスは頭を下げる。

 なんとも軽い頭の王様である。


 リディアはこれでもティアムにおける有名な魔法使い。

 内情に詳しく、ギルド長のいる場所も把握しているのだろう。


 私は追加の計画を立てることにした。


「王城にも障壁あるでしょう? 張ったのはリディアですか?」

「あれはギルド長が張ったものです」

「あ、そうですか」


 王城の障壁破壊も追加である。

 あのたぬきじじいに、私も一泡吹かせてやりたいところだ。


「じゃあギルド長の件はサイスとリディアに任せます。ついでに、金髪のいけ好かない冒険者もどきがいたら殺していいです」


 いつ、どこで、誰が何をするのか。

 予定を詰める。


 クエス大作戦の始動である。

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