21話 ティアムへ向かう一行
出頭命令である。
無視しても構わないのだが、私はスローライフを維持するため従うことにした。
と見せかけて、目的は別にある。
ティアム、もとい人間社会の文化を知るためだ。
主に食文化を、だ。
ドワーフの国よりも大きいティアム。
食文化の発展は比べるまでもない。
こちらの国にない食材、調理方法や調味料。ほかにも色々あるだろう。
気に入ったものを取り込み、スローライフ計画の充実を図るのだ。
そのためには専属料理人であるルコは必要。
ボルグは難色を示したが、連れていくことは決定事項だ。
狭い世界で暮らしていれば視野が狭くなる。
若いうちから知見を広げることは本人にとってもプラスになる。
これは当人のみならず、ドワーフの進展の礎になるだろう、と私はボルグに語った。
ごり押し交渉の末、ルコはドワーフ領に行くこととなった。
出発日も決まり、着々と準備は進む中、声を荒らげたのはクソドワーフこと、ゴンベだった。
「このクソエルフだけ行かせればいいでしょう! 部隊長やルコさんが行くことはありません!」
「いや、ドワーフの国としてもそれなりの地位につくものが随伴しなければならないだろ?」
「クソドワーフは、まだ戯言をほざいてるんですか……」
顔を真っ赤に地団太を踏む姿は、とても副部隊長という地位にある者に見えない。
背も低いので、その様は大きな子供が癇癪を起しているようだ。
部隊長が不在であれば、副部隊長が代任すればと思うのだが、ゴンベは不服らしい。
ボルグが、と言うよりは、ルコを連れていくことが気に入らないのだろう。
「おいクソドワーフ。そんなに嫌なのですか?」
「クソエルフに言われる筋合いはない!」
ふんっ! と両腕を組み、そっぽを向くゴンベ。
隣りに立つボルグを見ると、困った顔を浮かべている。
「お前は私が嫌いですか?」
こちらに顔を向け、くわっと目を見開き、口角泡を飛ばす。
「ああ! 嫌いだね! この地をエルフが歩いているだけでも反吐がでるわっ!」
ボルグの背に素早く隠れ、飛んだ唾を避けた私はゴンベを睨む。
「あ、私も嫌いです。教養もない野蛮人とは顔も合わせたくありません。これは両思いってやつですね」
少し煽ってやると髪の毛と髭を逆立たせ、ゴンベは怒りをあらわにする。
ふぅとため息を私は漏らした。
「私は嫌いなヤツ相手ならば容赦しません。自分の不利益になろうともです。嫌がることを絶対にやってやります」
「ゴンベ、諦めろ」
「そうではありません」
何を言っているのか? とボルグの頭の上には疑問符が浮かんでいるようだ。
「ボルグさん、随伴はこのクソドワーフでも構いませんか?」
「普段は仕事のできる男だ。暴走しなけりゃ大丈夫だと思うが……」
「なっ! 俺はお前と一緒なんて絶対に嫌だぞ!」
「黙れクソドワーフ。命令です。お前も絶対連れて行きます。わかったら出立の準備をしなさい」
私の意図を理解したボルグがゴンベを見据えた。
「……だそうだ。ゴンベ、ワシの代わりに行ってもらえるか?」
「わかりました……」
直属の上司からの言葉に渋々ながらも頭を下げ、ゴンベは部屋から出て行った。
激情型の思考でも、いまの話は理解できていたようで、口角が少し上がっていたのがすれ違いざまに見えた。
「クエス殿、ご配慮感謝する」
「なんのことですかね。私はあのクソドワーフが嫌がる選択をしただけですよ」
その言葉に苦笑するボルグ。
楽しいものでも見たかのように目を細め、髭を撫でていた。
ティアムに向かう当日となった。
幌付きの馬車が何台も並ぶ一行である。
これはドワーフ領に運ぶ物資も含まれているため、大所帯となってしまった。
私のほか、ルコとゴンベ、見送りに来たボルグがいる。
ルコは二つ返事で参加を了承してくれた。
さすが私の専属メイドである。
残りの細々とした荷物が積まれていくのを、私たちは少し離れた場所から見ていた。
「ルコさん、私の……私のクエス号はどれですか?」
「あれです」
ルコの指差す馬車を見て、私は頷く。
「それではルコさんは先頭の1号車、クソドワーフは2号車に乗車してください」
「はい」
「はぁ? 俺はルコさんと一緒じゃないのか!? 馬車にそれぞれ別れて乗るのは効率悪いだろ!」
「長時間男女が二人っきりでいるのは、私にとって教育上よろしくありません。絶対駄目です。断固拒否です」
ごねるゴンベを黙らせて、積み荷を運んでいたドワーフ兵に任せる。
両腕を抱えられたゴンベは2号車に投げ入れられた。
出発の準備が整ったようで、私はクエス号に足を向ける。
その後ろからはルコがついてくる。
「クエス様、用意できたものがご希望に沿えるかわかりませんが、こちらで大丈夫でしょうか」
「あ、これいい感じですね」
クエス号には綿を布で包んだものが敷き詰められている。
それをぽんぽんと叩いて具合を確認した。
鼻の奥が刺激される。干された布団は太陽の匂いをたくさん含み、ふんわりと柔らかく寝心地は最高そうだ。
「あの……。それは?」
「これは布団。そして寝台馬車クエス号です。現地に着くまで寝るので着いたら起こしてください」
このために、わざわざ昨日は夜更かししたのだ。
布団が敷き詰められた馬車の中に、私は颯爽とダイブした。




