20話 これから先のこと②
「少し困ったことになりまして」
「今度は何をやらかしたのだ? 砦の兵とでも喧嘩したのか?」
「いえいえ、そんな些細なことではありません。その様子だと書簡などは来ていないようですね」
「書簡?」
「お気になさらず。実はティアムのダンジョンを一つ潰してしまいまして。これからどうなるのかな、と。国に守っていただけるなら安心です」
「はっ!?」
二人とも驚き、目を見開いている。
それはそうだろう。
どれほど収益を上げているかはわからないが、ダンジョンは国の資産である。
それを潰したともなれば、おいそれと許されることはない。
私がやったとバレている前提で、ボルグに提案をする。
「提案があります。このままでは国同士が衝突し兼ねません。それはゆゆしき事態。その前に打って出るべきかと愚考します。五つの提示しますので、選んでいただけたらと」
返答はない。
ここは一方的に言って、場を支配すべきだと判断する。
①、ティアムに宣戦布告し、ティアムの王城を攻め落とす。その後、ドワーフ軍が攻め入る。
②、ティアムに宣戦布告し、ティアムの町を絨毯爆撃する。その後、ドワーフ軍が攻め入る。
③、このまま砦近くの家に住む。何も知らない、何もしていないを貫く。
④、宿屋に住み家を移し、時間が解決するのを待つ。何も知らない、何もしていないと貫く。
⑤、不可侵の森に帰る。あとはドワーフの国がどうにかする。
「まず①に関してですが――」
「ちょ、ちょっとまって欲しい!」
何か? と私は首を傾げる。
問題はありのままに伝えたし、その後の提案もしている。
どこか疑問点でもあったのだろうか?
「ダンジョンを潰したんですか?」
「ええ。洞窟だったのですが、きっちり潰れて再使用不可ですね。偶然です。不可抗力です。ものはいつか壊れるものです」
ボルグは後ろを向いて「何か聞いているか?」と後ろの髭に聞いた。
後ろの髭は目を丸くしたまま首を横に振るだけだった。
真剣な眼差しになったボルグが聞いてくる。
「どうしてそんなことを……」
「少しの手違いです。いまさらどうこう言えど過去は覆りません。お互い真実を見て、共に前へと進みましょう」
とりあえず、私の提案を聞け! と話しを進める。
「まず①です。宣戦布告には理由が必要ですが、交易の不備でも挙げれば問題ないでしょう。先手必勝。王城には障壁があると思いますが、私であれば破壊することが可能です。数千、数万を相手に戦いをするよりも、王、ただ一人を狙えば楽でしょう。これが一番手っ取り早いです」
「いや、冗談はよしてくれ。それは無理だろう。次の提案に移ってくれ」
「なんだこのクソエルフ! 頭わいてんじゃないのか!?」
「2」
「次に②です。無差別攻撃です。国際法なんてものがあるか知りませんが、勝利したものが歴史を作ればいいのです。もともとティアムは魔族と戦争中。こちらから攻めれば挟撃の形になります。簡単に勧告を受け入れるでしょう」
「いや、無理だろう。この話、ほかの者にはしてないだろうな? 次に移ってくれ」
「なんだこのクソエルフ! お前を磔にして石打ちしてもまだ足らんわ!」
「3」
「③です。まともです。このまま素知らぬ顔で暮らします。人間が攻め込んでくれば迎撃します。有事の際には砦の兵士たちも手伝ってください」
「ティアムの出方がわからないことには……。次に行ってくれ」
「ボルグ部隊長! ここで殺しましょう! このクソエルフは最悪の災厄です!」
「4」
「④です。穏便です。私はいないものとして匿ってください。スナイパーとして宿で一生暮らします」
「これはまともそうだが……。すべてを国に任せるということだな……。無理だろ……」
「何がスナイパーだ! あんなへっぽこ魔法なんぞ躱しきって俺の拳をくれてやるわっ!」
「おめでとうございます。お前はマイナス5pt獲得です」
私は立ち上がる。
それに呼応するように、ボルグの後ろで控えていた髭が私の前へと踊り出る。
どちらも背は低く、睨み合う顔が近い。
顔の間には、バチバチと流れる魔力の塊が見えそうだ。
「おい、ゴンベ。止めておけ」
「鉄拳制裁!」
クソ髭の体がくの字に曲がる。
樽のような体が宙を浮き、ドンッ! と壁に叩きつけられ部屋が揺れる。
壁を背にずりずりと下がり、クソ髭は床に横たわった。
私はそれを一瞥すると、さっと席に戻る。
「⑤も駄目だな。それだと我が国が一方的に不利益を被ることになる」
「そうですか……。なんとなく予想はしていました。それならば――」
足元に置いていた背嚢を持ち上げ、テーブルにドンッと置いた。
「それは?」
私は背嚢の中身をテーブルの上に零した。
ざらざらと大量にこぼれ落ちるドラゴンの赤い鱗。
続けて、いくつかの酒瓶もテーブルに置く。
「これでどうにか解決できませんか?」
「これだけの量があれば……。むぅ……」
ボルグは髭を撫で、思案顔で唸る。
まだ言うべきことがあったと私はボルグに告げた。
「それとイーザさんの確保をお願いします。私と関連あることがバレているため、交渉材料に使われかねません」
「イーザ? ああ、商会長のイーザさんか」
それからボルグと話しをした。
相手が情報をどこまで掴んでいるのかがわからない。
まずはティアムの動向を探ることとなった。
町にドワーフ領があり、そこで外交を兼務しているとのことだ。
それについて、ボルグと議論を交わしていると、部屋の扉がノックされた。
「ボルグ部隊長! ティアムから親書が届いています!」
どうやらドワーフ兵のようで、その声は少し焦りを感じさせるものだった。
私とボルグは目を見合わせる。
手紙を受け取ったボルグは中身を見て、こちらに差し出してきた。
ボルグから手紙を受け取り、私は内容を確かめる。
「ダンジョンの崩落について、ドワーフの国のるエルフに事情聴取したい……か」
要約すればそのようなことが、つらつらと書かれていた。
「これは私が原因と気づいてないっぽいですね。知らぬ存ぜぬを突き通しましょう。行くのは面倒ですし」
「いや、それは無理だろう。出頭命令に近い。そこに連なる押印は、大臣、冒険者ギルド、魔法ギルド、商業ギルドのもの。こちらとしても断れるものではない」
「それならば行くしかありませんね。相手も把握できていない様子。どうとでもなりそうですね」
「宿はドワーフ領の館を使うがいい。あそこならもめ事も少なくなるだろう」
「ありがとうございます。それでしたら、ルコさんも連れて行っていいですか?」
ルコはできるメイドである。
その中でも料理の腕は確かなものだ。
新しい地は不安であるからこそ、ルコを連れていきたい。
そして、美味しいご飯を作ってもらいたい。
色よい返事が返ってくるかと思っていたが、ボルグは眉間にしわを寄せる。
「駄目ですか?」
「いや、駄目ではないが、できればルコは一度ここに戻したいと考えていたからな……」
「何か理由でも?」
「そこのゴンベなのだが、ルコに思いを寄せているのだ。仕事にも差し支えがあってな。できれば……」
私は床に横たわるゴンベを見る。
口から涎を垂らし、だらしのない恰好。残念ながら失禁はしていない。
こんな男がルコに気があるとは生意気である。
「ルコさんは連れていきます。絶対条件です」
私はボルグに言い放った。




