19話 これから先のこと①
やっと我が家に戻ってきた。
疲れた体に鞭を打ち、帰ってきた頃には見下ろす大地が赤く染まっていた。
体を引きずるように家に入ると、そこにはせっせと夕食の仕込みをしているルコの後ろ姿。
なんとも健気なメイドである。
ルコが気づいて振り返る。ひるがえるスカートも素敵だ。
「クエス様、おかりなさいませ」
「ただいまです、ルコさん。もう寝ますので、夕食は申し訳ないですが遠慮します。少し頼みたいことがあるのですが、それは明日話しますね」
私はルコにそう伝えると寝室に入った。
颯爽と寝間着に着替え、ベッドにどさりと倒れ込んだ。
「あー、ほんと疲れました」
やはり我が家が一番である。
布を頭からすっぽり被り、ベッドの中で丸まって眠りについた。
朝になり、ルコに起こされて欠伸をしながら寝室を出る。
すでにテーブルには大量の朝食が並べられていた。
据え膳食わぬは朝食の恥? 朝食を食わば皿まで?
うすぼんやりと寝起きの頭で考えながら、焼けた香しい肉をフォークで刺しては口に運ぶ。
約一日振りの食事を取りつつ、目の前に座るルコに話しかけた。
「ちょっとティアムの町でやらかしましてね。その件でボルグさんと話しがしたいのです。取り次いでもらうことは可能ですか?」
「父に要件ですか? はい、日時をおっしゃっていただければ調整します」
「……え? 父? ルコさんってボルグさんの娘だったんですか?」
「はい。いままでに何度か言いましたが……」
「あー、はいはい。すみません。朝も早くて寝ぼけていたようです。知ってましたよ。何度も聞きましたから。では一週間後の正午でお願いできますか?」
「はい。承知しました」
「それから、私は午後から出かけます。そのあと直接ドワーフの町に行きますので。午後までに用意して欲しいものが――」
「ほーら、取ってこい!」
目の前には体高2メートルを超えたドドラがいた。
私の声に反応して、ドドラが走り出す。
なんともドラゴンの成長は早いものだ。
近くでは、親ドラゴンがこちらの様子を優し気な目で見ている。
ここはレッドドラゴンの巣である。
空を飛び続け、ここにたどり着いたのは昨日の夜のこと。
そのまま「お邪魔します」とレッドドラゴンの巣で眠って半日。
起きてから朝食を取ると、私はドドラの調教に入ったのだ。
声をかけてドドラを誘導する。
遊んでいるのではない。
ボールや木の枝を投げているわけではないし、狩りの仕方を教えているわけでもない。
この森に帰ってきた目的は二つある。
ドラゴンの鱗とましら酒の回収だ。
ドドラの成長を見たかったのもあるが、それはついでである。
まずは鱗の回収、とやり始めたのだが、どうにも面倒くさい。
魔法で風流を操り、落ちている粗方の鱗は集めた。
しかし、このドラゴンの巣は鳥の巣のようなもの。
複雑に木々が絡み合い、その隙間に挟まった鱗までは回収できなかった。
そこでドドラの登場である。
何事にも上手くやるためには経験が必要だ。
手先が器用になるようにと、泣く泣くドドラにやらせている。
鱗を器用に指先でつまみ、両手にそれをを抱えて「こんなに取ってきましたよ! ほら!」と言い出しそうに、私の元まで駆けてくる。
このドラゴンは四足歩行であるのだが、器用にのっしのっしと二本足で歩く。
「ドドラはエリマキトカゲみたいですね。はいはい、いい子いい子」
報酬として頭を撫でてやる。
頭を低くもたげ撫でてくれと強調してくるあたり、まんざらでもない様子。
そこそこ可愛くはある。さすが元ペット枠である。
拾わなくても目の前のドドラに鱗はある。
鱗を剥がしてやろうかとも考えたが、さすがに止めておいた。
剥がしたとして新しく生えてくるかもわからない。
爪はいけそうなのだが。
私は集めた鱗を背嚢に、ざらざら流し込んでいく。
ドワーフ兵の使っている背嚢であり、これはルコに用意してもらったもの。
鱗を回収したあとは、酒の確保だ。
それが終われば、自由時間の到来である。
気が向けばドラゴンと共に空を飛び、一緒に狩りを楽しむ。
取ってきたましら酒を飲んではドドラと一緒に巣で丸くなる。
そんなスローライフを楽しみ、ここに来てから一週間後、私はドワーフの国に旅立った。
「これはボーナスステージですね。記録をつける紙がないのが惜しいところです」
町の通りに降り立った私は迎えを待っていた。
周りには頭を抱えて転げまわるクソ髭ども。
相も変わらず「クソエルフがっ!」と罵ってきた奴らだ。
こうすれば、すぐに迎えが来るだろうという目論見である。
やはりそれは正解で、すぐに武装したドワーフ兵たちが青い顔をして群れで現れた。
「何をやっている! このクソエルフ!」
「ゴンベさん、まずいですって!」
後ろの兵になだめられつつ、一人のドワーフが前に出る。
「私は私の尊厳を守っただけですが? 通りすがりの一般人に、傍若無人にも悪態をつく。それは悪くないんですか?」
「お前はエルフだろ!」
「私はエルフですが、その前にドワーフ国民ですよ? そんなことよりも、約束通りボルグさんに会いにきました。早く案内してください」
ぐぬぬと唸るクソ髭は「ついて来い」と言って歩き始めた。
この髭はマイナス1ptである。
連れられて入ったのは、以前にも来たことのある大きな建物の一室。
今回、ここにいるドワーフは二人だけである。
足元に荷物を置き、ボルグの対面の椅子を引いて座った。
ボルグの後ろには、先ほどのクソ髭が立つ。
「お久しぶりですボルグさん。この度お忙しい中、ありがとうございます」
「昨日だったはずでは?」
何のことやら? と頭に疑問符が浮かんだ。
「は? ん? あー」
思い出した。
ルコには一週間後と言ったが、今日はあれから八日後だ。一日遅かったのかと知れば納得。
ドドラと遊び過ぎたのが悪い。ドドラがすべて悪い。
「そんなことよりもっ! その前に。私はドワーフ国民として認められている、ということでよろしいですか?」
「ああ、一応ではあるが、クエス殿は我が国に籍を置いていることになっている」
「国は国民を守る義務がある。そうですよね?」
「その通りだ。そのために、我ら兵士がいるのだ」
「私は国民であり、私が困っていたら国は助ける義務がある。そう解釈しても?」
「そうだ」
それを聞くと、大きく息を吸い込んで私は話し出した。




