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17話 ダンジョン③

虫が出てきます。

苦手な方はご注意ください。

 攻撃一辺倒。攻撃は最大の防御である。

 槍ではなく球状の塊をいくつも生み出し、私は一心不乱にそれを連打する。

 足も狙ってみたのだが、硬く強化された外骨格を突破することはできなかった。


 いまは単なる時間稼ぎ。

 攻略の糸口を掴むためである。


「それにしても、お前は硬すぎないですか!?」


 砲弾ような塊は、いとも簡単に弾かれる。

 弾かれては力を失い、魔素へと還元されて消えていく。


 ありえない。


 いくらなんでも硬すぎだ。

 間隙(かんげき)を縫っては魔法の刃を触覚に飛ばす。

 同じ個所に何度もだ。

 これも結果は同様。すべて弾かれて終わった。


 少し休憩と、私は手を止めGを睥睨(へいげい)する。

 艶やかに光るその体。

 へこみもしなければ、かすり傷一つも確認できない。

 触角であれば切り飛ばせそうなものだが、それも叶わない。


 殺虫魔法なんてあれば楽だが、そんなものは知らないし、気体系の操作なので使えたとしても私が危ない。

 そのほかに殺しうる方法を考えた時、私はとあることに思い至った。


「あれ? お前、艶がよすぎませんか? どんな化粧水を使っているのか教えてもらいたいものですよ」


 ようやく魔法が止まったかと、こちらに進撃を開始したGに世界樹の杖を向けた。

 ふぅっと一呼吸。

 魔法を発動させる。


 小指のように細く、噴出される水である。

 蛇口から漏れるような水ではない。高圧力をかけたウォータージェットカッターである。


 水が刃のような鋭さを持って触角に切りかかる。

 それは強化された表面の油をそぎ落とし、さらには触角も切り落とした


 触角がくるくる宙を舞う。そしてもう一本の触角も宙を飛んだ。


「なるほどですね。油ですか。それは盲点でした。二重に強化はやりすぎなのでは? とりあえずこれで終わりですね」


 触角がなくなったGは、もはや為す術がない。

 触覚、聴覚、嗅覚、方向感覚。それらをほとんど失った。

 広間の中央で、おろおろと所在なさげにうろたえるばかりである。


 杖を振るった私はGの真下の土を高く盛り上げた。

 簡単にGは反転し、腹を見せる。

 今度はダイヤモンドダストを放ち、気温を急激に下げた。

 足掻いていた足の動きが徐々に鈍くなる。

 最後はウォータージェットカッターを腹に突き刺し、胴体を真っ二つに切断した。


 ようやくGの息は絶えた。


 腹の傷口から、ごろりと拳大の魔石がこぼれ落ちた。

 私はそれを拾うことなく壁際まで歩き、壁に背を預けてもたれかかる。


「ああ、本当に疲れました……」


 戦いには勝った。


 しかし、それで何が得られたというのだろうか。

 バスケットいっぱいの魔石が得られた。それだけである。

 プラスとしては、ただそれだけである。


 障壁の破壊は、人間側に喧嘩を売ったのことに等しい。

 ドワーフの国やイーザの立場が危うくなるかもしれない。

 そして、フラウとガインの死を確認した。

 死体はないが、武器もなしに生きてはいないだろう。


 足を投げ出して、しばし休息だ。

 これからどうするか、疲れた頭でぼんやりと考えていた。


 杖と戦斧は持って帰ろう。

 花壇に埋めれば、フラウとガインが生えてくるかもしれない。

 回収しようと立ち上がったところで違和感に気がついた。


 この広い空間はほかの場所と違い、土壁でできていた。

 天井までもが土に覆われている。

 蜘蛛かGかのどちらかが、巣穴として拡張したものだろうか。


 その壁の一部が崩れていた。

 いや、崩れているというよりも、掘り出した土を投げ出したようなもの。

 ここに魔法を当てた覚えはないし、崩れたにしては大量過ぎるし位置もおかしい。


 気怠く感じる足を奮い倒。攻撃は最大の防御である。

 槍ではなく球状の塊をいくつも生み出し、私は一心不乱にそれを連打する。

 足も狙ってみたのだが、硬く強化された外骨格を突破することはできなかった。


 いまは単なる時間稼ぎ。

 攻略の糸口を掴むためである。


「それにしても、お前は硬すぎないですか!?」


 砲弾ような塊は、いとも簡単に弾かれる。

 弾かれては力を失い、魔素へと還元されて消えていく。


 ありえない。


 いくらなんでも硬すぎだ。

 間隙(かんげき)を縫っては魔法の刃を触覚に飛ばす。

 同じ個所に何度もだ。

 これも結果は同様。すべて弾かれて終わった。


 少し休憩と、私は手を止めGを睥睨(へいげい)する。

 艶やかに光るその体。

 へこみもしなければ、かすり傷一つも確認できない。

 触角であれば切り飛ばせそうなものだが、それも叶わない。


 殺虫魔法なんてあれば楽だが、そんなものは知らないし、気体系の操作なので使えたとしても私が危ない。

 そのほかに殺しうる方法を考えた時、私はとあることに思い至った。


「あれ? お前、艶がよすぎませんか? どんな化粧水を使っているのか教えてもらいたいものですよ」


 ようやく魔法が止まったかと、こちらに進撃を開始したGに世界樹の杖を向けた。

 ふぅっと一呼吸。

 魔法を発動させる。


 小指のように細く、噴出される水である。

 蛇口から漏れるような水ではない。高圧力をかけたウォータージェットカッターである。


 水が刃のような鋭さを持って触角に切りかかる。

 それは強化された表面の油をそぎ落とし、さらには触角も切り落とした


 触角がくるくる宙を舞う。そしてもう一本の触角も宙を飛んだ。


「なるほどですね。油ですか。それは盲点でした。二重に強化はやりすぎなのでは? とりあえずこれで終わりですね」


 触角がなくなったGは、もはや為す術がない。

 触覚、聴覚、嗅覚、方向感覚。それらをほとんど失った。

 広間の中央で、おろおろと所在なさげにうろたえるばかりである。


 杖を振るった私はGの真下の土を高く盛り上げた。

 簡単にGは反転し、腹を見せる。

 今度はダイヤモンドダストを放ち、気温を急激に下げた。

 足掻いていた足の動きが徐々に鈍くなる。

 最後はウォータージェットカッターを腹に突き刺し、胴体を真っ二つに切断した。


 ようやくGの息は絶えた。


 腹の傷口から、ごろりと拳大の魔石がこぼれ落ちた。

 私はそれを拾うことなく壁際まで歩き、壁に背を預けてもたれかかる。


「ああ、本当に疲れました……」


 戦いには勝った。


 しかし、それで何が得られたというのだろうか。

 バスケットいっぱいの魔石が得られた。それだけである。

 プラスとしては、ただそれだけである。


 障壁の破壊は、人間側に喧嘩を売ったのことに等しい。

 ドワーフの国やイーザの立場が危うくなるかもしれない。

 そして、フラウとガインの死を確認した。

 死体はないが、武器もなしに生きてはいないだろう。


 足を投げ出して、しばし休息だ。

 これからどうするか、疲れた頭でぼんやりと考えていた。


 杖と戦斧は持って帰ろう。

 花壇に埋めれば、フラウとガインが生えてくるかもしれない。

 回収しようと立ち上がったところで違和感に気がついた。


 この広い空間はほかの場所と違い、土壁でできていた。

 天井までもが土に覆われている。

 蜘蛛かGかのどちらかが、巣穴として拡張したものだろうか。


 その壁の一部が崩れていた。

 いや、崩れているというよりも、掘り出した土を投げ出したようなもの。

 ここに魔法を当てた覚えはないし、崩れたにしては大量過ぎるし位置もおかしい。


 気怠く感じる足を奮い立たせ、私は壁際にある盛り土に歩み寄る。

 土を一握り、手ですくう。少し水気を含んだ土と砂利。

 土は乾燥しているが比較的新しいもの。

 ここ数日、空気にさらさらされたような乾き具合。


 私の視線は、その土があったと思われる壁際に向けられた。

 一人がなんとか通れそうなほどの範囲、土壁にはふさがれたような跡がある。


 静寂が漂うダンジョン内。

 ごくりと息を飲みこむ音が聞こえた。

 私は杖を振るって土を動かす。


 大量の土と共に、ごろりと転がり出てきたのはガインの姿。

 駆け寄ってガインの頭を抱える。


「ガイン! ガイン! お前生きているのですか!?」


 顔が青白くなり、目は閉じられている。

 生きているのかどうかもわからない。

 手の平をぱんぱんと頬に打ちつけると、うっすらとガインの瞼が開かれた。


「ク……エ……」


 泥にまみれ、憔悴しきった顔。

 魔法で生み出した水を、口に少し含ませる。


「フラウが……そこに……」


 穴の方向を見れば、その穴は案外と奥まで続いている。

 そして、ほかの冒険者たちの姿もそこにあった。


 穴の中にいた者を引っ張り出す。

 そこにはフラウもいた。

 ただ、ガインよりも衰弱しており、話すことさえままならない。

 ガイン、フラウを含め、四人の冒険者が全員生存していた。


 それぞれ脱水症状が見られ、水を飲ませる。


「ガイン、きついかもしれないけど、二人担いで脱出できますか?」


 言葉を話すのも辛いのか、ガインは頷きだけで応える。

 ここから出口のルートは、ガインが把握しているようだ。

 ガインが冒険者二人の肩を担ぎ、私はフラウを背負う。


 ダンジョンからの脱出が開始された。


 先頭を歩く三人の足取りは弱々しい。

 前後の道を私が警戒しながら、ゆっくりと一行は進む。

 もちろん撤退最中は前方から後方から、蜘蛛に何度も襲われた。

 フラウを背負っているままだと、狙いも定められない。

 槍を弾幕のように射出する。

 ダイヤモンドダストを使えればいいが、そろそろ魔力が心もとない。

 フラウを背負いながら魔石を使えばいいかもしれないが、いまは脱出を目指すべき。

 倒した蜘蛛から魔石は回収せず、私たちは外を一心に目指した。


 外に出ればすでに夜が明けていた。

 朝日が森を照らしている。


 ダンジョンの入口から少し離れた木の下に、ガインたちは倒れ込むように座った。

 木の陰で休むガインに私は話しかける。


「よく生きていられましたね。もう駄目かと思っていました」

「すべてフラウのおかげだ。クエスの言葉通りに、あいつが諦めなかったからだ」


 下を向いていたガインが私のほうに顔を上げる。


「あいつが元気になったら、よくやったと声をかけて欲しい」


 私の体が、心が震える。

 自分のことよりもフラウのことを気にかける。

 この男はフラウのことを、どれほど思い抱いているのだろうか。

 それは少しだけではあるが羨ましい。


「起きたら伝えてください。よく頑張った、と」

「ちょ、ちょっと待て。直接言わない気か?」


 私は無言で頷いた。

 心が震える。体も震える。

 震える? まだ震える?


 地面が揺らぎ、ドドドッと何かが崩れる音が響いた。

 音のする方向を見ると、ダンジョンの入口からもうもうと土煙が上がり、そして崩れていく。


 私は地面を蹴り上げ宙に舞った。

 空高くからダンジョンを見渡すと、丘陵全体が地に沈み、狼煙のように何本もの土煙を上げていた。


「なくなっちゃいましたね、ダンジョン……」


 ものはいずれ失われる。

 生きるものは歳を重ねれば死に、ものは時が経てば劣化して壊れる。ダンジョンもまたしかり。

 この世のものはなんと儚いのだろうか。

 しかし、限りがあるからこそ、美しくいとおしいのだ。


 ダンジョンは自然の理に従い、壊れてなくなった。

 脱出時の魔法乱射が原因な気もするが、真相は闇に葬られた。


 辺りをぐるりと見渡していると、森の北側、平原を連なる影があった。

 目を凝らしてよくよく見れば、馬車の一行である。

 こんな場所に向かってくるのは――。


 私はすぐさま地面に降りるとガインの前に立つ。


「よかったですね。ここに冒険者ギルドの人間が向かっているようです。私の役目はここまでですら。それでは!」

「クエスっ!」


 ガインを無視して、いそいそと帰り支度をする。

 バスケットを持ち、杖にまたがれば準備は万端である。


「私は偶然ここを通りがかっただけですし、ダンジョンを壊していません。できれば私の名前は出して欲しくないです。それから、もう会えないかもしれませんがお元気で。フラウにもそう伝えてください」


 私は森の中へと姿をくらませた。

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