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16話 ダンジョン②

虫が出てきます。

苦手な方はご注意ください。

 天井からは魔道具の光があり、歩くぶんには問題ない。

 しかし、内部は土や岩の肌が露出した場所。

 そこかしこに大なり小なりの石が落ちているし、地面も窪みがあったりと平坦ではない。


 また別の通路をあてもなく歩く。

 右手には世界樹の杖。左手には魔石がごろごろと入ったバスケットだ。

 歩いていると、ここの住人に出くわす。

 私は会釈し、挨拶する。


「冒険者の集団、見ませんでしたか? ……見てない? そうですか」


 杖を振るって魔法を使う。

 そうして体からぽろりと落ちた魔石を拾い、バスケットの中に入れる。

 また私は歩き出す。


 ダンジョン内に入って、体感で一時間ほど。


 二股に分かれた道の前で、私はどちらに進もうか悩んでいた。

 右折か、左折か。

 結局、両方行くことになるので迷う必要はないのだが。


 とりあえず右に進もうとしたところで、左の通路の影からぬっと魔物が現れた。


「はぁ。また蜘蛛ですか……」


 足音もないため気づきにくく、事前に現れてもらったほうが楽なのだが、いかんせん数が多い。

 事務処理をするように杖を振り上げたところで、私は右手を止めた。


 何か音がする。

 大きなものが石を蹴飛ばしながら地面を走っているような音。

 その音が右の通路から聞こえてきた。

 こちらにどんどん近づいてきている。


 蜘蛛ではない。蜘蛛はこんな音を出さない。


 私は身構える。

 目の前には、私を睨みつける蜘蛛の姿。この音に気づいている様子はない。

 その蜘蛛がそろりそろりと足をかいて、私に向かってくる。


 音がすぐそばまで来た。

 同時に右から巨大な影が飛び込んだ。

 蜘蛛に覆い被さる黒い影。

 器用に手足を使って蜘蛛を押さえつけ、それは蜘蛛の背にかぶりつく。


「G……」


 現れたそれは、昆虫界最強の一角を担うもの。

 光沢のある黒い躯体。異常な生命力と繁殖力。機動力も申し分ない性能の昆虫。

 そのGが、大蜘蛛に襲いかかっていた。

 

 蜘蛛の見た目は巨大なアシダカグモである。私の知識ではGの天敵である。

 Gよりも素早く動き、その牙を突き立てる。


 私の目の前では解体ショーが行われていた。

 足を引きちぎり、腹を捻じり切る。

 あっという間にバラバラになった蜘蛛をむしゃむしゃとGが捕食する。

 触角を愉快気にゆらゆら揺らしていた。


 食事に夢中のGは、こちらを気にする様子はない。

 その大きな体は単なる的だ。

 私は杖を構えて魔法を使う。

 魔法で生み出された槍がGへと飛びかかりる。

 一発では不安と、私は何度も杖を振るう。


 生み出された幾本の槍がGに迫った。


「か、硬っ!」


 すべてが硬化した外骨格に阻まれ、あらぬ方向に飛んだ槍が壁に突き刺さる。

 弾かれることを想定しておらず、怯んだ私は後ずさる。


 Gの触角がこちらに向き、それからゆっくりと体の方向を変えた。

 まるで王者の風格である。

 しかし、私は逃げることなく立ちはだかった。


「私が相手になりましょう。Gと言えどしょせんは昆虫。私はスナイパーGクエスフィフティーン。Gの名前をかけて勝負です!」


 魔法の槍が弾かれた。

 しかし案ずることはない。

 対策はあるのだ。


 昆虫は何に弱いのか?

 答えは温度である。

 高温に弱いが、ここは狭い洞窟内ゆえに火は使えない。


 ――ならば


 私は杖を振って必殺技を叫んだ。


「ダイヤモンドダストーッ!」


 杖の先からきらきら反射する魔法の粒子が扇状に射出される。


 気化熱に似た仕組みを使った魔法だ。

 空気の状態変化により熱を奪う。

 周囲にまき散らすため気温が急激に下がるわけではないが、それでも氷点下近くまでは下げられる。


 魔法を受けたGの体には霜が降り、白い粒がこびりついているのが見て取れる。

 Gの触角、足の動きが鈍くなっていた。

 私の吐く息も白くなっていた。


「楽勝でしたね」


 後はのろまな亀と化したGに総攻撃するだけである。

 いくらなんでも同一箇所に連続攻撃、関節への攻撃であれば効くはずだ。


「さてと」


 どこを狙うか考え、杖を構えようとした時だった。


「は?」


 四枚の羽根を大きく広げたGはそれを高速で振動させた。

 ビィーンという聞きなれない音。

 洞窟内に風が巻き起こり、土が舞い上がる。


 舞い上がった土が口や目に入り込み、思わず手で顔を覆い、目をぎゅっとつむった。


「ごほっごほっ」


 空気の流れが治まり目を見開けば、Gと視線が交差した。

 とっさに反転して私は走り出す。


「て、撤退! 戦略的撤退です!」


 ここに来た目的を忘れてはならない。

 目的は戦うことではない。


 私は逃げ出した。


 逃げる私を追いかけるG。

 迷っている時間はない。

 脳内マッピングはかき乱され、目につく通路をどんどん進む。

 時折現れる蜘蛛にGをなすりつけ、逃げ切った私は迷子になっていた。



 足早にダンジョン内を進む。

 もはや一度通った場所なのかどうかもわからないのだが。

 己の感覚を信じて突き進むのみだ。


 たまに立ち止まっては耳をそばだてる。

 近くにいないことを察すると、また私は歩き出す。

 Gとはもう会いたくない。勝てないわけではない。

 Gと戦うには場所が悪い。広い場所で火の魔法を使えるならば余裕だろう。

 ただ、戦闘は目的ではないのだ。


 一本の通路を進むと、初めて通る場所だとわかった。

 通路の幅が、高さが、どんどん大きくなっていく。

 進んだ先は広い空間になっていた。円形に広がり、天井も高くなっている。

 そして行き止まりだった。


 その場所の中央まで歩み、周囲をぐるりと見渡した。


「ここでも戦闘があったみたいですね……」


 ところどころ、地面に血痕が残っていた。

 行き止まりのこの場所に追いやられ、ここで最後を遂げたのだろう。

 血痕のある位置から離れた場所には冒険者たちのものが落ちていた。


 その中の一つを拾い上げる。

 正確に言えば二つだ。

 真っ二つに折れた杖。

 そして、そのかたわらには持ち手が曲がった戦斧。


 私は深いため息をついた。


 このダンジョンに来た目的は果たした。

 あとは帰るだけである。

 障壁を壊したことがバレるのは時間の問題だろう。

 その処理を考えなければならない。

 問題は山積みである。


 また嘆息を漏らしたところで、ここに近づいてくる音を耳が捉えた。

 ガサガサと巨躯を引きずる音。

 ここは行き止まりだ。

 広い場所だが、火の魔法を使うのはためらわれる。

 しかし戦う必要はない。

 位置取りを気にかけて動けば、戦わず逃げることは可能だろう。


 のそりと巨体を揺らしGが現れた。

 触角を指揮棒のように動かしている。

 手に持つ折れた杖を、私はぎゅっと強く握りしめた。


「いいでしょう。逃げるのは好きじゃありません。かかってきなさい」


 フラウの杖とバスケットを遠くに放り投げた。

 私は正面を向き、黒光りする巨大なGと対峙する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『Gクエスフィフティーン』 こうして時おり挟まれる小ネタ! 大好きです!
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