14話 冒険者ギルドにて
バスケットに詰め込んだランチを楽しみに、私は空を飛ぶ。
多才な私は魔法のほかに占いもできるのである。
本日の昼食は東に向かえば吉、とクエス占いの結果が出てしまった。
だから、何となく東に向かっている。
それに何となくだが急いでいる。
正午はもう回っているので、早く着かなければ昼食でなくなくなってしまうからだ。
東に向かって飛び続けると、茜色に染まる町が見えて来た。
夕日に町が照らされている。すでに時は夕暮れである。
ドワーフの町と比べて広く、その広い土地に建物がそこかしこに拡がる。
初めて来たのだが、ここがティアムの町だ。
町と言っても、この国の首都である。魔族と戦争をするほどに国力も高い。
私はこの町で休憩することにした。
休憩だけである。
昼食は飛びながら終え、ホットサンドはすでに腹の中に収納済みだ。
町の入口近くまで来ると、地面に降り立った。
さすがの私とて、いまの状況で町に直接降りる気はない。
私は常に上を目指し、学ぶ者だからだ。
一度目は失敗しても問題ないだろう。
二度目を失敗するのは、学ばない馬鹿髭だからである。
町の入り口に立っていた門番の兵士に許可証を渡す。
いくつかの質問をされるが、適当に相づちを打てば問題ない。
すると私の何が悪いのか、質問が長引く。
住んでいる場所、商会長との関係性、何の目的で来たのか、など。
金もない。身分を証明するものもない。初めての経験であるため、致し方ない。
ようやく通してもらったあとは、長らく拘束してくれた兵士にお礼である。
ヘッドショットを食らって地面を転げる兵士を尻目に、私は目的の建物へと急いだ。
エルフは数が少ない。町中で見るのは珍しいのだろう。
通りを駆ける私に、住民の視線が突き刺さる。
今回はすべて無視だ。
杖を浮かし、まさに飛び跳ねるように移動して、やっと目的の場所にたどり着く。
冒険者ギルドである。
扉を開け、さっさと中に入る。
ロビーには冒険者が何人もいた。
防具に身を固め、武器をこれみよがしに携える者たち。
突っ立つ脳筋どもの隙間を縫うように動き、空いている受付の前に立った。
座っている受付嬢と目が合う。
「ダンジョンに行った冒険者チームが戻ってないとのこと、詳細を教えてください」
「はいっ? あ、あのあなたは?」
「私の知り合いがその中にいるのです。まだ戻ってきてないんですよね? ギルドはどう動いているんですか?」
「えっと、あなたはこのギルドに登録している冒険者……ですか?」
「いいえ、私は冒険者ではないですが」
「それでしたら、こちらから言うべきことはありませんね。関係者でもなければ情報開示の義務はないですし」
「私は関係者です。レヒル商会のイーザさんから頼まれ――」
肩を掴まれ引っ張られ、私の体は反対方向に向けられる。
振り向かされた先には屈強な体つきの男。その周りをほかの冒険者たちが囲む。
「何やってんだよ。ここはガキの来るところじゃねぇぞ」
「黙れ脳筋。いまこっちは立て込んでるんですよ」
魔法で身体能力向上。男の手を振り払う。
同時に、硬質化させた魔力を手にまとい、がら空きの腹に右拳をめり込ませた。
体をくの字に曲げ、男が宙を舞う。
吹っ飛んだ男が床を転がり、壁にドンッとぶつかって止まった。
「わっ、私は何もやってない!」
両手を挙げて無実をアピールする。
右手には杖を持ち、左手にはバスケットを持つ。
両手がふさがる私には、とうてい無理なことである。
室内にいる者の目が私に集中する。
猜疑と困惑の視線が降り注ぐ。
この間に、私は治癒魔法を発動させた。
壁際でくたばり、蟹のように血の泡を吐く男の腹部を癒せば完全犯罪の成立である。
そもそも私は暴力とはまったくもって無縁の、見た目麗しい可憐な乙女だ。
やってない! やってない! それでも私はやってない!
無力な少女を演じる私は主演女優賞ものである。
「おい、お前――ドワーフの国にいたクソエルフじゃないか?」
声がした。若い男の声だ。
私を含め、その場の視線が声のした方向に向けられる。
そこには見覚えのある顔があった。
両脇に女冒険者をはべらすクソ金髪。
名前はまだ知らない。
「おっ、お前はクソ金髪っ! なんでここにいるのですか? それよりも!」
私は勢いに任せて続ける。
クソ金髪にはあまり喋らせてはいけない。
「フラウとガインのことは聞いていますか? まだ戻って来てないのですか?」
「ああ、あのダンジョン組か。まだ戻ってきてねぇな。どうせもう死んでんだろ」
「お前は仮にもパーティーを組んでいた仲間でしょう? 助けに行かないのですか? ギルドはどう動いているのです?」
「あ? そんなこと俺が知るかよ」
こいつをどう処理しようかと考えている時だった。
「騒がしいな。何事だ」
「ギルド長!」
奥から壮年の男性が現れた。
いまだ鍛えているのであろう体つき。整えられた口髭とあご髭。端正な顔つきは歴戦の勇士を思わせる。
ギルド長と呼ばれていた言葉から察するに、ここの責任者だろう。
私は使えない金髪を諦め、ギルド長の前に出る。
第一印象が大事である。
淑女のように、恭しく礼をする。
「はじめまして、ギルド長様。私はクエスと申します。この度、私の知人である冒険者二人がダンジョンより戻らないとの報を聞き、居ても立ってもいられずこちらに伺わせていただきました。現状をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ。その話は誰から聞いたのだね?」
「レヒル商会のイーザ様より、手紙にてご連絡いただきました」
私は持っていた手紙の封蝋の印をギルド長に見せる。
それを見つめるギルド長。
「たしかにレヒル商会のもののようだ。それで、あなたはどうしたいと?」
「私はこう見えても、それなりの魔法使いです。微力ながら、ご協力させていただければ幸いです」
「たしかにダンジョンに向かった冒険者は、いまだ中に取り残されたままだ。ギルドとしては原因を探るために動いている」
「原因? 救出部隊の派遣はされていないのですか?」
「いまは調査のための人員を募っているところだ」
「調査? もうダンジョンに入ってから五日経つのですよ? 早急に救出するための人員を送り込むべきではないですか?」
「まずは二次被害を押さえることが優先だ」
「ならば、私であれば力になれます。偵察や補助でもかまいません」
「この問題は我々だけで対処すべきだと判断している。外部から協力の必要はない」
「許可いただけるならば、私単身でも――」
「くどいぞ」
私は唇を噛みしめた。
いつもこうだ。力のないものは切り捨てられる。
この世の理だとは思うが、それを救う者だっていてもいいだろう。
もう駄目かもしれないが、最後まで足掻いてみてもいいだろう。
「……わかりました。失礼します」
頭を下げ、出口に向かう。
私の感情を察知したのか、冒険者の壁が割れていく。
そこを無言で通り抜ける。
髭はやはり髭のクソ野郎だった。
ドアを蹴飛ばし、私は薄暮の町に飛び出した。




