11話 友人とのお茶会
空に少し赤みがさしだした頃、庭先でお茶会が始まった。
気温も心地よく、心は晴れやかである。
ゴミを燃やしていいのかとイーザに聞いてみると、苦い顔をしつつ「できれば許してあげて欲しい。よい薬にはなったはずですから」と言われた。
金髪は護衛である。そんな護衛を吹っ飛ばしたにもかかわらず、三人は落ち着き払っていた。
理由をそれとなく聞いてみると、なかなかのクズであった。
護衛という任務を遊びと勘違いしたようで、好き勝手にやっていたようである。さらには紅一点のフラウに言い寄っていたらしく、まさしくゴミクズである。
だから私は悪くない。
イーザが冒険者ギルドから金髪を仕事で使うよう頼まれたらしく、そこに他のメンバーとして白羽の矢が立ったのがガインとフラウという冒険者。
その二人に向ける目を細め、イーザが語る。
フラウの父親とイーザが懇意の仲らしく、小さな頃から知っているのだと。
冒険者に憧れたフラウが故郷を飛び出し、そのあとを追いかけたのが、フラウの幼馴染であるガインであると。
茶化すようにイーザが言うと、フラウが頬を赤く染め、ガインは視線をそらす。
非常にクサい話である。
残念ながら、私は消臭魔法なんてものは知らない。
できるかもわからない。
使えるのならば即座に使いたい。
「フラウは魔法使いを目指していましてね。どうしてもクエスさんに会ってみたいと言ったのは彼女なんですよ」
イーザが何か言いなさいと促すと、頬を赤く染め、俯いてたフラウが顔を上げた。
「私は小さな頃から冒険譚を聞いて育ちました。中でも、大魔法使いエスラ様の冒険譚が大好きで……。世界樹の発見、中央大迷宮の踏破、スタンピードでの魔物殲滅。私はエスラ様に憧れて、魔法使いの冒険者を目指そうと思ったのです!」
久しぶりに懐かしい名前を聞いた私は、テーブルに立てかけてある杖に目をやった。
冒険譚に名が連なるほど有名だとは知らなかったのだが。
「魔法使いエスラですか。懐かしい名前ですね。いまも元気でいるのでしょうか……」
「かの大魔法使いエスラはクエスさんと同じエルフでしたな。どこかでお会いしたことが?」
「ええ。エスラは私の魔法の師でもあります」
「ええっ!?」とイーザとフラウは目を見開いて驚く。
声に出してはいないが、ガインは口を大きく開けていた。
「それなりに名のある師の元で学んだのだろうとは思っていましたが……。まさか大魔法使いエスラの弟子とは……」
「クエスさん! エスラ様のお話、是非とも聞かせてください!」
共通の話題があれば話は弾むもの。
私が知る大魔法使いエスラのことを語る。
フラウにとっては英雄のようなものなのだろう。真剣に聞くその眼差し。
私の気分は悪くなかった。
時間は進み、空も赤みが強まってくる。
話す内容もなくなってきた私は、畑のゴミを眺めた。
「あれはカボチャみたいですね。いや、割れたら赤くなるからスイカでしょうか」
「そんな名前の野菜があるんですね。私は初めて聞きました。さすが凄腕の魔法使いだと博識ですね」
私とフラウの視線は畑に向いている。畑には頭を出して埋まっているゴミがあった。
ジョウロで水やりをするよう、ドワーフに命令してもいいかもしれない。
「先ほど使われた魔法は……知らない魔法だったのですが……」
先ほどの魔法というのは、ゴミを埋めた時に使ったものだ。
畑の土をごっそりと、人が埋められるほど浮き上がらせた魔法だ。
見た目は土魔法のように見えるが、実際は飛ぶ魔法を応用した私のオリジナルである。
「さっきのは私のオリジナル魔法ですね。説明は……ちょっと難しいです」
フラウが私の手を取って、少し身をかがめた。
「あの、何か……?」
「私はまだ駆け出しなので上手く魔法を使えなくて……。会って早々、突然のことで申し訳ありませんが、私に魔法を教えてもらえないでしょうか?」
突然のことに私はたじろいだ。
フラウの顔が私の顔に近づき、吐く息まで感じられる距離にある。
「弟子……ということでしょうか。申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。私も未だ修業中の身ですから」
フラウは残念そうに「そうですか」と、手を離し、がっくりと肩を落とした。
人にものを教えるのは悪くない気がするが、スローライフの中にその項目はない。
「そろそろお開きにしましょうか。ルコさん、ゴミを掘り出すように伝えて」
それぞれが立ち上がる。
フラウが一歩前に出て、私の前に立った。
「クエスさん。教えてもらうことは諦めました。弟子ではなく、友人としてお付き合いしていただけないでしょうか」
「友人……ですか……」
私には友人と呼べる人はいなかった。
エルフの村で暮らしていた頃、もちろん周りに同年代の子供はいた。
小さな村だ。普通ならば、幼馴染として友だちになるのだろう。
しかし、エルフは人とは違って長い寿命がある。その弊害なのか、精神的に成長するのは人よりも遅い。
人間でいえば、10歳にもなれば物心がついているだろう。それをエルフに当てはめると、エルフでは20歳くらいになってしまう。
そんなエルフの子供たちの中、幼くしてはっきりと自我を持っていた私には、友だちを作ることができなかった。
20歳を上回ったエルフであれば、友人になれたかもしれない。
だが、年上のエルフからは奇異の目で見られ、私は村の中で孤立した。
唯一の例外は両親だけである。
村で孤立してしまった私は魔法の練習に励んだ。
魔法を教えてくれたのは、もちろん母親である。
偉大なる大魔法使いの血筋ゆえなのか、元から存在する知識ゆえなのか、私はすぐに母を超えるまでに至った。
このまま、一生友人なんて呼べる人ができないと思っていた。
魔法が友達でかまわないと思っていた。
ずっとこのままだと思っていた。
もちろん、憧れがなかったわけではない。
それがいま、こうして目の前に。
突然に、会って間もない人間に。
いとも簡単に。
私は手を差し出した。
「それでしたら、私からも是非お願いしたいところです」
笑顔を返し、手をフラウが握り返す。
お互いの距離が近い。
私の目の前には布越しでもわかるくらい、たわわな果実があった。
ごくりと喉が鳴る。
右手を鷲掴みに胸をまさぐってみた。
「きゃっ」
フラウが見た目通りの少女らしく、可愛らしい悲鳴を上げる。
「あ、ゴミがついていたので。もう取りましたから問題ありません」
同性だから問題はない。
そのあとは、ガインとも友人として握手をした。
寡黙な男、ガイン。背の丈も大きく、私の頭が胸までの高さしかない。
こちらは掴まない。
異性間でやれば問題ありだ。
ドワーフが掘り出したゴミをガインが担ぎ、四人が宿舎に去るのを、私とルコは並んで見送っていた。
赤く染まった太陽の光りが眩しく降り注ぐ。
きっと私の顔は赤く染まって見えていたことだろう。




