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Accomplice


病院を出た俺は椅子へと向かわずに先程の店へと向かう。


売るにしてもその情報を先輩から聞き出さなければならない。

安く買い叩かれるのはごめんだ。


店へと向かうとそこに先輩の姿は無かった。

店員に尋ねると俺が出た直ぐにお会計を済ませて、店を出たらしい。

店の外に出て辺りを見渡すが先輩の姿は無い。

2軒目を求めて外に行ったのだろうか…


仕方ない。

先輩は明日挨拶に仕事場に行くと言っていた。

なら、そこで話を聞けばいいだろう。

まずは無くなってはいないだろうが、本を確認しに行こう。

急ぎ足で、それでいて変に思われないように。


特に何事も無く、路地裏に辿り着く。

この時間に椅子に座るのは初めてだ。

今日は本当に初めてが多すぎる。

食事は嬉しかったがそれ以外が嫌なことばかり、つくづく自分の運命を呪う。


椅子に座り、目を瞑る。

精神が現実の機械人形へと移るのを感じる。

そしてまた膝に何かの感触を感じる。

それは重く、足全体にのしかかっている。


しかし、それは紙の感触ではない。

無機質な硬さと温かく濡れる感触。

そして油の匂い。


目を開ける。


「…っ!?」


声が出なかった。

自分の膝の上。

そこには胴体に大きな穴を空け、身体の所々からオイルを流している。

自分と同じ機械人形がもたれかかって壊れていた。


辺りを見渡す。

人の気配は無い。

改めて機械人形を見る。


動く気配は無い。

機械人形を退かすと、他の機械人形とは違う特徴がある。

それは自分と同じ電子人類が入っていることを示す。

顔は絶望の表情に染まっていた。


この機械人形に入っていた人は死んでしまった。


電脳世界で死は無い。


しかし、電子人類は死なない訳では無い。

脳の許容量を超えればデータが自然消滅する。

それを死と定義すれば電子人類唯一の死だろう。

そしてそれは電脳世界でだ。


現実世界では電子人類は機械人形に入っている。

そして椅子を元にしてデータを電脳世界と現実世界を行き来する。

それは椅子に座れないと電脳世界に帰れないの同義。

滅多に無いが現実世界で機械人形が破損して動けなくなれば、電脳世界に行けない。

そこで機械人形の充電が落ちるまで存在する。

充電が落ちれば電子人類を保存する機能も停止する。

その瞬間にデータは消滅する。

現在現実世界で機械人形を直す文明は復活していない。


これも現実世界が忌避される理由の一つだ。

誰も一人ぼっちで消えたくない。

電子人類になっても人は死を怖がるのだ。



機械人形の顔を見るが見覚えは無い。

だが、この機械人形の空いている穴の規格には見覚えがあった。

現実世界で死亡することは稀だ。

少なくとも現実東京に人類を脅かす存在はいない。

ならば、この外傷は同族……同じ電子人類につけられたものだ。

そして見覚えのあるこの穴の規格は工業用パイルバンカーで開けられた穴だろう。

何時だか、先輩が使っていたのを見たことがある。

かなり重く、資格が無いと使えない代物だ。


地面を見るとオイルが出口の方に続いている。

どうやら這いずりながら来たようだ。


どこかで襲われてなんとか逃げ延びたか、見逃されたか。

しかし、最後に辿り着いた場所に置いたはずの本が無いために絶望の中死亡と言ったところだろう。


真っ直ぐこの椅子に向かってきているということはここに本を置いたのはこの機械人形。

その男が死んでいるということは本は十中八九盗品だろう。



どんなリスクも許容する。

しかし、金を手に入れたあともリスクが付きまとうのは俺だけでなく妹にも危険性がある。

金を稼ぐ必要があるから、妹のそばにずっとはいれない。


金は必要。

しかし、その後のリスクが高い。


考えようとした時に椅子から機械人形に繋がれたコードが抜ける。

しかも、元の装置の方が。

そんな事はありえない。

この場所が外れるという事は誰かが装置を外さないと……!!


装置をよく見ると、1度も開けたことの無いはずなのに開けた形跡があった。

もう一度地面を確認する。

オイルの中に足跡がある。


穴を空けられた男は逃げ延びたのではなく、見逃されたのでなく、この場所に案内させられた。

椅子に座れれば壊れていても電脳世界に帰れる。

本の場所を教えれば助けてやるとでも言われたのか?

そうしてたどり着いて本が無いことを知り絶望した?


なら、俺の椅子の何を確認した?

それはアクセス解析。

電脳世界に本を持ち帰ったかどうかを確認した。

だから、椅子のデータを解析した。

たぶん持ち帰ったデータが見つからなかったんだろう。

だから、この場所には誰もいない。誰かが持ち去ったと考えて。

もうこの場所は探し終わったから。


1度探した場所をもう一度探すことはしない。

何故なら探したから。


今ならデータを持ち帰ってもバレない?


これは希望的観測だ。

どこか間違っているかもしれない。

しかし、合っているはずだ。


仕事の時間までまだ時間がある。

データを移行させよう。

リスクは高いまま。


しかし、希望が見えてしまった。

その一押しは簡単に背中を押した。


スキャニングモードを起動する。

左手が青色に光り、文字を読み取り、データを保存する準備が整う。


本を開く。

その瞬間だった。


本は1ページも無かった。

この本は1冊に見せる箱だった。

箱を開くとカメラのレンズのようなものが埋め込まれていた。

そしてレンズと目が合うとレンズは発光する。

白い光が凄まじいスピードで明滅を繰り返す。

反射的に目を瞑ろうとするが、視覚を伝い脳へと直接命令がくだされる。


『光が収まるまで目を開け続けろ』


機械人形が支配され、光を直視し続ける。

数分後光が収まり、本の形をした箱を落とした。

急いでそれを拾い、もう一度開け閉めするが光ることは無かった。


「ストロボスコープか…」


一瞬だけ点灯する光源を一定間隔で繰り返し、発光させる装置。

この本……もとい装置は光の明滅により情報伝達装置。

一世紀前には出来ていた技術だ。

脳の負担が高いため禁止されていたもののはずだ。


この方法なら接続コードを使わずに電脳世界に持って行ける。

これならもう1回調べられてもシラを切れるだろう。


問題は2つ。

1つはこれをどうやって売るかだ。

脳に直接伝達された物を売る方法など無い。

これは先輩に聞けば解決するだろう。


もう1つは追手はこの方法を知らなかった事だ。

コードを使わないこの方法で接続コードと椅子を調べたなんてよほどの阿呆だろう。

追手が複数いる可能性がある。

リスクがまた1つ上がった。


既に張ってしまっているから、今更引き戻れないが。


情報の洪水に頭を痛ませる。

ようやく本の中身の情報を理解し始める。


中身はどこかの会社の顧客名簿のようだ。

お得意さんなのか顔写真と資産がズラリと書かれていた。


その中であるひとつの情報を確認する。


それにより脳の思考が停止する。


脳に送られた情報は顧客名簿。

しかし、最後には最新の商品リストがあり、それを顧客名簿の誰かに売ったと書いてある。

商品はいくつもあり、誰にどれを売ったかまでは書いていない。


しかし、俺が気になったのは商品リスト。


「何故っ……アンジュの名前がある…?」


そこには妹の顔写真と名前があった。


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