Ambition
「遅いぞ!」
アンジュを倉庫の外へと運んだキュウが戻ってきた。
五分ほどの短い時間だったが、ユウキはイラついているようだ。
「少しトイレに…」
「んな事どうでもいい!さっさとカードをシャッフルしやがれ!」
ユウキに怒鳴られ、口を噤む。
無言のまま、テーブルへと近づきカードを手に取る。
そして手さばき良く、カードをシャッフルしていく。
シャッフルを眺めるエイジにユウキは話しかける。
「それにしても見事な裏切りだな。お陰でいい顔が見れた」
「いい顔?」
「ああ。俺はギャンブルが好きなんだが好きな理由は勝負するのでもなく、勝つのでもなく、金でも無い。効率良く人の絶望の表情が見れるからだ。その為なら金も払うし勝利にも拘らない……」
ニタニタと笑うユウキ。
今までギャンブルした相手の絶望の表情を思い出しているのか、頬は火照り、ゴクリと唾を呑み込む。
「お前裏切りの才能あるぜ。お前のお陰でイラついていた気分がすっかり、清々しい気分に早変わり!」
「そうか」
「つれねーな…」
「セットアップできました」
キュウがカードをテーブルに並び終える。
そして1枚のカードを裏向きのまま捲り、質問する。
「ビッグorスモール?」
先行はエイジ。
「ビッグ」
「クローバーのjack。ビッグです」
「幸先がいいじゃねえか……もしかしたら勝てるかもしれないぜ」
笑うユウキと淡々とゲームを進めるエイジ。
ゲームは接戦であったが、1枚の差でエイジの勝利だった。
その結果に少し驚くユウキだが、どこか諦めた表情に変わりニヤリと笑った。
「最後の最後に運を掴んだな……いいだろう!お前と妹合わせて二千万、これは返却された。今回の勝ちで俺のポケットマネーから二千万、お前に振り込んでやる…」
ユウキは約束を守るように腕をエイジに伸ばす。
しかし、エイジの腕を見て申し訳無さそうにする。
「後払いでいいか?流石に解放っつても能力の不明な能力者の枷は外せねぇ。二千万得たんだ。ゆっくり待てばいい……」
そう窘めるようにユウキは言葉にする。
それに対して反論が無いのかエイジは沈黙を持って答える。
「なーに、直ぐに来るだろう。結構な時間ゲームやってたからな……」
カードを手に取りシャッフルしている。
暫く待つが抽出屋はやって来ない。
上機嫌だったユウキも次第に機嫌が悪くなる。
最初のうちはタバコをふかしていた。
しかし、ストックが無くなったのか火のついていないタバコを咥え、貧乏揺すりを繰り返していた。
「遅せぇ……なんだってこんなに遅い……折角いい気分だったのによぉ………キュウ!もう1回連絡をっ…」
「なあ、いいか?」
怒鳴り上げようとしたユウキに話しかけた。
話しかけたのはエイジだった。
同じく待たされてイラついているのか、口調は少し粗暴だった。
「ああ?」
「随分待つんだな」
「気味悪いくらいにはな……何かあったのか。それとも…」
話すのを辞め、思考に陥ろうとするユウキをまたしてもエイジが止める。
「暇だからもう一戦しないか?」
「………………マジか?」
人に自分の思考が止められるのを嫌い、一度陥ると納得するまで思考の海から出てこない。
それがユウキを知るものなら誰でも知っている悪癖だった。
しかし、エイジはそれをいとも簡単に止める。
そして興味を惹かせた。
他の構成員は遠目にテーブルを眺めていたが、その表情は驚きに包まれている。
「勝った二千万と俺の一千万分の価値を担保にもう一戦。勝てば六千万で」
そして更に畳み掛ける。
流石に妹の分は賭けないのか持ち金全てとはいかない。
しかし、自身の命をもう一度賭けたのだった。
「すげえな、お前」
もう一度勝てる保証は無い。
にも関わらず命を張った。
それに対してユウキは素直に感嘆した。
「俺の腕はアンタに灰にされたからな。今まで通りの生活は送れねぇ。仕事場も無いからな。その分の金が欲しい」
「二千万あればある程度な不自由無く暮らせるんだがな……お前強欲か?それともギャンブラーなのか?どっちにも見えなかったんだがな…」
ユウキは笑う。
面倒な仕事のはずだった。
面白いことなんて無い仕事。
それが趣味のひとつを果たし尚且つ、面白いショーが見れる。
エイジ以上に今自分は最高にツいている。
そう思ったのだった。
「いいぜ。やろう」
キュウに対して命令はしない。
何故ならキュウは既にカードをシャッフルし始めていたからだ。
このゲームに圧倒されてか、淡々とシャッフルする。
心做しか何時もより手が震えているような…
始まる第3戦。
今まで手を抜いていたのかと思うほどにユウキはカードを当てる。
しかし、ミスをすればエイジに当てられていく。
先程の勝利で更に運気に拍車がかかったのか2人の差は先程よりも開き4枚差。
勝利の女神はエイジに微笑んだ。
「これで六千万。俺の勝ちだ」
勝ちを宣言する。
一千万自分に当てて、残り五千万。
エイジに取っても大金だった。
大敗を喫したユウキは俯き、項垂れる。
「ゆ、ユウキさん……」
キュウが心配そうに声をかけるが、その行為が気に触ったのか顔を上げ、エイジに話しかける。
「勝ったからな……この業界は信用第一なんだよ。キチンと耳揃えて五千万渡してやる……」
どこか力の無い声。
しかし顔は不気味に笑い黒い目はエイジを見据えていた。
ユウキはテーブルのカードを掻き集めた。
そして両手で包み込むように持つ。
「なあ、エイジ。今度は俺のお願い聞いてくれねぇか?今度はその勝った五千万かけてもう一戦やろうぜ。勝ったら一億やる。だからやろうぜ」
既にエイジは五千万得ていた。
確かに1億は大金だ。
しかし、既に五千万得ているエイジがわざわざ勝負に出る必要は無い。
しかし、Noとは言わせない。
そう言っているかのごとく、手に持つカードの山を徐々に灰にしていく。
ユウキの能力であるAsh。
それによりカードが灰化していっていた。
テーブルはカードの灰が山になっている。
「…………わかった」
「エイジ……お前が物分りが良い奴で助かるよ。………キュウ、お前のカードを寄越せ。俺のカードはダメになっちまったからな」
灰の山を払いのける。
キュウは懐からカードを取り出し、シャッフルを始めた。




