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第三十一話 <無双 その2>

 カイジャンから、コーソースという向こう岸が見えない大河を上り、ペンギンからわずか1日のダッチョンの港にセイジは降り立つ。川と言えど港があるのは、さすがに図体だけの国である。


 カイジャンでセイジに粉砕されたチーヤイの軍勢は、その後、怒り狂ったカイジャン市民たちによって、文字通り『血祭り』にあげられた。暴行、略奪、放火、虐殺、やりたい放題に嬲られた市民たちにとって、帝王の軍は敵よりも始末に悪い害悪だった。力を失ったなら、敵以上の憎しみと怒りで寄ってたかってズタズタにされていく。その憎しみが、何故かセイジには向かず、『妻の敵が討てた』『子供を殺されたんだ』と、土下座して感謝される始末。


 ここでは国政とは、絶対的な暴君と、それに服従するだけの民という形しか存在せず、暴君が何をどうしようがそれに絶対服従することだけが、生きる方法でしかない。だが、積もり積もった憎しみの怨念のすさまじさは、地獄のような凄惨さで力を失った相手に爆発する。


 しかも、歴史や政治を好んで読んでいたセイジには、わざとその方法を取る理由さえ分かってしまう。それらのおぞましい欲望や憎しみを、地域同士の争いや、階級的な憎しみ合いに向けさせて、帝王の地位と調停役としての存在を正当化するためのものだ。さらには、他国への武力として利用するために、ますます憎しみや恨みが執拗にこもるようにしている。

 言ってみれば、ただの道具として、とことんまで『人の尊厳の欠片も認めず使いつくす』ため。

 過去の地球の歴史や文明から見れば、愚劣で原始的な、人について何もわかっていない、国とすら言えないただの集合体。ただ帝王になった者が、その取り巻きの集団だけが、やりたい放題し放題するためだけに名乗る『国』。


 そのガス抜きのための『生贄』として、ダレルブレアンを選んだのは、チーヤイの愚劣ゆえだ。


『こんな連中が国を名乗るなんて、何を考えているんだろうな』


 セイジにとってさらに腹が立つのは、チーヤイ中枢のアホどもが、ダレルブレアン公国も、そしてその中にいるセイジたちも、全員人として全く認めず、ただの都合で、ただの道具として、利用するだけ利用しようとしたことだ。


 公王とディリエルに出会ったあの時、セイジに左手ヴェルムンガルドが無かったら、セイジはドラゴンのブレスに、シュレッダーに放り込まれた紙きれのように切り刻まれていた。その迷惑だけでも、チーヤイは万死に値する。


 自国民すら人間と思っていないのに、他国をただの都合で、殺したり利用しようという、奴隷や家畜としか思っていない思考。世界を舐めきっているガキ、なんでもわがまま思い通りになると思い込んでいるふやけきったクズ、まだ日本のニートの方がはるかにマシだ。


 だったら、その報いが10倍返しで来ても、当然の結果だよな。




 だが、ダッチョンの港に降り立ってみると、また10万ほどの兵士が地を埋め尽くすように並んでいる。


 『こいつらバカか?』


 いや、確かにバカだが、同じような軍を並べると言うのは、どういうことなのか?。

 良く見れば、兵士は先日の兵よりかなりランクが落ちる。どちらかと言えば、急ぎ集められた農民兵に近い。セイジの過去にいた世界だったら、一般人を盛大に送りこんで、隣国の領土に領域破りをやらせて、捕まえた隣国を悪逆無道の敵国扱いにして国民を煽りたてるようなバカがいたが、この世界では、そういう情報戦は無さそうだ。

 さすがに2度目の名乗りを上げるのは恥ずかしいので、本格的に攻撃を仕掛けることにする。


 セイジは、左手を上げて、上空1000メートルほどの高さで、収納空間を開いた。

 高圧をかけておいた空間から、爆発的に広がりながら、無数の黒い物が降ってくる。

 1ギン(kg)の鉄塊、1万ギトン。

 1千万個の鉄塊が、1000メートルの上空から降ってくればどうなるか。


 半端な事をする気は無い。

 血と骨の絨毯を作り、その上を歩いていくぐらいの覚悟はある。

 どうせ戦争をするなら、それ以上に人が死ぬ。


 約1キロの円内は、高速の鉄塊が1平方メートル当たり10個ほど直撃する。

 悲鳴を上げる暇すら無く、黒い死の雨が恐ろしい音を立て、地面と言う地面を叩き潰した。


 轟音ののち、静まりかえった地面が血煙を漂わせ、猛烈な血臭があたりに広がる。人の部品で埋まった地面が、とたんに生臭い匂いをたて始める。



 平気とは言わない。

 先日も数万の人間を粉砕した。

 それについて、一切弁解するつもりはない。

 自己弁護などもってのほかだ。


 カイジャンで10万の兵を蹴散らした日の夜。

 船室の闇の中で、じっと血走った目を見開いていたセイジに、イーラとハイネは何も言わず、身を寄せて抱きしめてくれた。イーラは、無数の屍を乗り越えてきた。ハイネは、女としてのあらゆる尊厳を踏みにじられてきた。二人は何も言わず、ただ抱きしめていてくれた。



 眠れない闇は、覚悟はしている。



 だが、


 何かの音が起こった。


 ズンッ


『何だ?』


 ズンッ


 重い、何かが、地響きを立てる。


 血煙の向こうから、巨大な物がヌッと現れた。



『地獄の・・・・・・・門?』


 それに一番近い物をあげるなら、某美術館入り口近くに設置された、世界的な彫刻家のアレだろうか。


 

 無数の蠢く人体、無数のぼろや、滴る血肉、完全に人間性をなくした顔、顔、顔。


 ただ違うのは、短くも太い2本の足(それもすべて裸の人体らしきものや、その他でできている)で立ち、巨大な太い胴体を持ち、腕らしきものすら両側にぶら下がっている。頭らしきところには首のない盛り上がりだけがあった。


 ハッ、とセイジが地面を見る。何一つ動かなかった、人だった物を敷き詰めたそれが、うぞうぞと動き始めている。


 地獄、ならば亡者がよみがえる。


『あの10万の軍勢は、これのための生贄か・・・・・・』


 苦い、吐き気のするような予測。

 おそらくは、この奇怪な化け物を中心として、表層だけではなく地下の亡者たちをも引っ張り出すための呼び水として、セイジに殺させるための生贄。

 日の光が、異常に弱く、寒い。

 血煙は黒雲となり、風は生者の生気を奪うがごとく冷え切り、耳を覆いたくなるようなうめき声が満ちてくる。


 怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、


 地獄の門のごとき、巨大なそれが、おぞましい声を上げる。

 地鳴りが始まった。

 地下から何かが、無数の何かが出てこようとする。


「オシリス!、仕事だ、起きろ!!」


 セイジが船の方を向いて怒鳴った。呆然と見ていたイーラが、表情を消した。白い光が顔や体を包み込み、白銀の鎧となった。


::ふぁ~あ、まあ、しかたございませんわね。とりあえず、砂?、それとも塩までですの?::


 その場にいたもので、その意味が分かる者はセイジ以外にいない。というか分かると思う方がおかしいような会話だ。だが、セイジの方が慌てた。


「おまっ!?、砂でいい、砂で。塩までするな、後がどうなるか俺にも分からん!」

::ちっ、まあいいですわ。ただ、あれと直接対決は無理ですわよ。対消滅することになるのですから。イーラが要らないとおっしゃるなら仕方ございませんけど::

「・・・・・・そういうことか、わかったよ」


 オシリスが、面をかぶったまま、その肩から白い腕を一本生やした。その手がつかんでいる巨大な輝く神剣フィアト ルクスが、白い光を爆発的に放った。


 轟々と、光が薄闇を暴力的に押しのけていく。


 ぎやあああああああああ

 ヒギイイイイイイイイイイイイイ


 昏い悲鳴と、何かの断末魔が次々と上がり、そして消えていく。

 地を蠢いていた物が、さらさらと砂と化して崩れる。

 その下の、どろどろとした腐汁と汚濁の沼となっていた地面までも、白く乾き、そして砂となっていく。

 聖別された砂、しかしそれは一切の生き物のいない砂である。サハラ砂漠などの砂は、無菌状態であるらしいが、それと同じで、水を与えても土にはならない。さらにこの光が強くなれば、すべてが聖別された塩に変えられてしまう。だが、そこまでやったらこの地はおそらく千年は何も育たない塩の野原になってしまうだろう。セイジがその事に気付いて慌てたのも無理はない。人殺しは覚悟していたが、千年も残るような代物まで残したくはなかった。


 ギラギラと全てを乾かし尽くす白光が止むと、雲一つない乾ききった青空の下、日の光が強く感じられた。だが、地獄の門のような巨人は、そのまま立ち尽くしていた。


 サクリ


 砂を、セイジが踏んだ。

 

 サクリ


 頼りなく、弱い砂。それを踏んで前に出る。


 怨!!!


 ビシャビシャビシャ


 乾いた砂に、汚らしい滴りがこぼれ、まき散らされる。

 巨大な腕が振り回され、上から振り下ろされた。


 ドズンッ


 長く伸びた亡者の塊、それがセイジのいたところを、砂煙をあげて深く打ち付ける。


 ほぼ左真横から、高速で移動したセイジが踏み込む。左手にはいつの間にか神剣フィアト ルクスが握られている。

 セイジが動く寸前、オシリスが投げよこしたのだ。だが、それは刃をセイジに向けて猛烈な速さで飛んできた。受け取るにはぴったりだったが、わずかでもタイミングがずれれば、セイジが串刺しにされている。


『あいつは、殺す気なのか手伝う気なのか、よく分からん・・・・・・』


 だが、振り下ろした右腕(セイジから見て左)の付け根から、別の腕が猛烈な速さで突き出される。しかも、黒い巨大な槍を握っていた。


 ガキインッ


 黒の魔槍は、白い神剣とぶつかり合い、稲妻に匹敵する火花と、雷鳴に等しい轟音を立てた。おびただしい雷をまとう雷撃の魔槍。


 バキバキバキ


 さらに、その左肩には、もう一本の腕が、槍を握って伸びてくる。


「やっぱりかっ!」


 オシリスが『対消滅する』という言葉の意味。


 無数の棘を生やした茨の槍は、ぶち当たった地面に無数の棘をぶすぶすと伸ばす。躱したセイジは冷汗をかいている。あの精霊槍を受けたら、体中に棘が伸び、ズタズタにされる。


 元からあった左腕が、青いクリスタルのような槍を宙から取り出す。氷の砕片が襲いかかり、冷気が空気を裂いた。砂が凍って固まる。相手を丸ごと凍らせる空間凍結の冥王槍!。

 

 だが、槍はあさっての方へ引きずられ、巨体がぐらついた。セイジの超能力ちからで、思いっきり引っ張ったのだ。超能力ちからには、中心点が存在しない。超能力ちからは、あらゆる場所に、あらゆる方向へ、ベクトルを発生させる。だが、何か来る!。


 セイジのいた場所を、金の槍が降りぬいた。地面にめり込んだ右腕が、掴んで振った神槍。爆音があたりを薙ぎ払う。


 ウオムッ!


 超能力ちからで、瞬時に後ろを取ったセイジに、超振動する穂先が追ってくる。当たる物全てを崩壊させ、突き通し、何物も止められない。止まらずの神槍!。


怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、


 おぞましいうなり声をあげ、巨大な亡者の塊が、4腕の巨人となって、神・魔・精・冥の槍を振い、襲い掛かってくる。


『フルパワーで行く』

『了解いたしましたご主人様』


 セイジの左手ヴェルムンガルドの、本来の機能は『補助機能具』である。

 持ち主本来の持つ力を、最大限に補完するのがその使命。

 それゆえ、セイジの身体能力ばかりではなく、超能力ちからを補完することこそ、最も成すべき機能と言えた。


 セイジが、移動した。

 走るでもなく、飛ぶでもなく、ただ、あるべき位置を瞬時に変えた。

 どれほど早く動こうと、どれほど広範囲を攻撃しようと、超能力ちからであらゆる位置を変え、背後を取る彼に意味は無い。


 光の神剣が、光そのものと化したかのように、切り裂いた。


 巨腕が次々と根元から飛んだ。


 亡者で成したそれは、物理的に切り落とされても瞬時につながる。光のみが、それを切り落とし、つながらなく出来る。そして、4本の槍は、同時にその存在の分身。それを落とされれば、本体の力は急落する。オシリスもそうだった。ならば、これもまた。


 惡、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、


 悶え狂う亡者の巨人。無数の赤い鎖のようなものが、その全身に浮き上がる。


『冥王呪の封印法のようですな』

『なんだそりゃ』

『魔族の本来いると言われる地獄、その最下層 辺土リンボと呼ばれる亡者の怨念空間とよく似た状況を作って、封じ込める魔族専用の封印法です。下位次元世界には、割とある形式です』

『つまり、この核には、封じ込められた魔族がいると言う事か』

『魔族、というより変換者の眷属でございますな。よくまあ、封じ込められたものですが』

『それも、オシリスと同格のか・・・・・・・、また悪用されてもかなわん、解けるか?。』

『はあ、それはよろしいのですが、これを食いますとエネルギー過剰となりますので、また私の使用期間が3000周期ほど伸びてしまうのですが・・・・・・』

『しるか!、さっさと解け』


 左手ヴェルムンガルドが、赤い鎖を吸い込んでしまう。内からは強力な封印なのだろうが、外からは単なるエネルギーの塊に過ぎないらしい。


 鎖が消えた瞬間、亡者の形が崩れた。

 バサバサ、バサバサ、汚らしい腐肉とぼろに変わり、落ちていく。

 その奥から、赤い玉が出てきた。人の背丈ほどのサイズだ。


『ほお、2重構造でございましたか。この構造をこの世界レベルの人間が作れるとは、意外でした』


 左手ヴェルムンガルドが、バリバリと赤い玉を食らい尽くした。

 中にまた黒い羽のような物が丸く覆っている。


『また封印か・・・・・・・?』


 だが、羽がひくりと動いた。


::ふあああああああああああああああああああああああああっ!::


 ばさりと、黒い羽が広がる。

 青白いほどの肌と、ほっそりとした体が、思いっきりせいせいしたような声を上げた。

 黒いショートボブの髪を振り、銀色の目がぱちりと開く。16,7歳ぐらいのかわいらしすぎる顔。

 赤紫のきれいな唇がニマッと開き、白い大きな犬歯がちらりとのぞいた。

 ただし、全裸で。


::うにゅああああああああっ!、ありがとおおおおおっ、やっと、やっと、やっとでられたよおおおっ!!::


 押し倒されて、犬歯がこちらにガチガチ当たるほどのディープキス。裸のしなやかな体がむしゃぶりつき、食われるんじゃないかと思うほどしがみ付いてくる。


::くぅおら、ディアボルス!、うちのご主人様に何発情してやがる!::


 飛んできたらしいオシリスが、その細い首根っこを掴んで引きはがした。


::オーちゃん、だあってええ、やっとやっとやっっっっっっっっっと出られたんだよ!。出してくれた人に、全身全霊体口から中からあそこから全部捧げてお礼するぐらいあたりまえじゃん::

::貴様が久しぶりにさかって男漁りしたいぐらいは理解するが、うちの大事なご主人様を骨にされてたまるか!::


 骨にって、おい・・・・・・・。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

こういう時、あとがきをどう書いたらいいのか、思いつきません。

まだまだ、書き手としては未熟なのでしょうね。

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