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第二十五話 <戦争の陰謀戦その2>

さて、チーヤイ側の商人の暗躍により、徐々に粗鋼の量は底を突き初めていた。

鉄鉱石の入荷が、極端に少なくなっているのだから当然である。

2か月もすると、価格も上がり始め、輸出用の鉄製品も『チーヤイ側の商人』の手に入りにくくなってきていた。


「そうか、ようやく成果が出てきおったか。ならば愚かなダレルブレアンが気づく前に鉄をさらい尽くしてしまえ。」


チーヤイで貿易にも深くかかわっている金満将軍ことキン・キラキンは、太った豚のような体を震わせた。

ダレルブレアンには鉄が産出せず、鉄鉱石や粗鋼を大量に輸入していることに、目を付けたのはこの男である。

同じような手口で、小国をいくつも潰した実績もあり、この計画には自信を持っていた。


「鉄はもう入れさせてやらん、そうなれば牙をもがれた犬も同然よ。センジルにもっとたくさん鉄と武器を作らせよ!。」

「キラキン様、センジルはこれ以上鉄を作る燃料が足りないと嘆いております。」

「しるかよ、センジルの言いぐさなど。我が国に仕えさせてやっている下僕の分際で、嘆くなど無礼である。誰が言ってきたか知らんが、口を引き裂いてやれ。」


ダレルブレアンの粗鋼が底を突いてきたのは事実である。

というか実を言えば、不純物の多い不人気な粗鋼は、ババ抜きのババのようにチーヤイの商人に押し付けられているのだった。

とはいえ、少なくなれば値を上げざる得ないのは商品の鉄則。そのため、少なくなってきた粗鋼を買いたいというチーヤイ側に、『高値』で売っても気がつかれない。たまたまオーロジェント国以外の鉄鉱石を積んでいた船は、予想外の高値で売れたので喜んでいたが、それを粗悪な粗鋼にしただけで大儲けしている鍛冶師同盟の連中も、笑いが止まらなかった。

はたから聞けば、どっちが悪者かと言われそうだが、鍛冶師同盟は真面目に仕事をしているだけである。買占めで相手を滅ぼして、暴利をむさぼろうとしているのはチーヤイなのだから、情けは無用だ。


粗悪な粗鋼の場合、より多くの燃料で製錬をしてあか(不純物)を除かねばならず、それを押し付けられるセンジルはますます大量の森林資源を浪費する羽目になる。


セイジたちが予想した通り、大した技術も無いセンジルでは、大規模な製鉄は行えず、小さな製鉄を分散して行わせようとして、必死に各地へ鉄鉱石を『陸路で』運んでいた。

馬や牛の引く荷車で運ぶので、それだけでもどれほど無駄なエネルギーと時間と資源を浪費するかは、考えれば分かりそうなものだが、感情論だけで動いているようなセンジルの人間には、それを考える余地が頭に無い。チーヤイに奴隷同然に所属して、その無理難題を押し付けられる恨みや憎しみを、誰かにぶつける事だけが衝動の全てのような国なのである。

ダレルブレアン公国からすれば、はた迷惑極まりない隣国だが、今回ばかりはどんどん疲弊していくだけで、次第に国そのものが回らなくなってきた。しかも、全土が猛烈な勢いで禿山になっている。元々森林資源が少ない上に、資源再生の思想など持たないレベルの国なので、すでに500年分近い森林資源が失われ、一般家庭の燃料すら手に入らない状態だった。


一方、ダレルブレアン公国の方はというと、セイジのかかわった紙戦争の余波で、王都の南西にあった荒れ地が広大な森林に代わり、王都周辺での森林資源に大きな余力が生まれていて、紙の生産のみならず、粗鋼の生産や鉄の加工への燃料にも困らず、まるで問題にならない。


おかげで上質のインゴットの鉄は豊富に生産出来ているが、それはラドルビンが手をまわして輸出禁止品になっている。

また鉄製品も、輸出量を絞り、取引を抑えさせてある。キンが気づかないのも無理は無かった。




センジルは、いくら鉄を作っても、作っても、なぜか儲けが残らない。

チーヤイが約束した金も、極めて払いが遅く、しかも値切られ、さらに陸路で運んで作るという膨大な手間と労力に、赤字がバカかと思うほど高くついている。すでに浪費と言っていい。

統治能力が無く、浪費の感覚がマヒ同然のセンジルでは、陸路を使うという『膨大な手間と労力』が分からない。


4か月目から、雨が降るたびに、川が氾濫し、洪水が起こり、土石流が各地に発生し始め、5か月目の雨季には、ほぼ全部の川が同時多発的に水害を大発生させた。

国中禿山にしてしまった反動が、即座に襲ってきたのだが、それも天の神様に『晴れ乞い』を繰り返すだけである。


ついに限界に達したセンジルは、チーヤイに内緒で商人をダレルブレアンに差し向けた。


『粗鋼を売ってやるから、はいつくばって感謝しろ、高く高く買え』とバカみたいなことを言い、誰も相手にされない。


粗鋼が全く無い事は分かっているので、『売ってやる』と言っているのだが、いくら言っても誰も買わない、相手にもしない。


困り果てていた商人に、『ぜひとも』と買いたい商人が現れ、ようやくホッとした。


だが、この商人は、陰で公国の命を受けた商人で、わざと買う約束をしたのだった。さらにその背後には、ダレルブレアンの黒雪姫こと、ディリエル公女の暗躍がある。


センジルの商人は、粘りに粘って『先払い』をさせようとした。出来れば金だけもらって全部踏み倒したいのだ。

粗鋼が無いからこそ、そういう無理難題が通ると思いこんでいたセンジル側だが、完全に当てが外れた。当たり前のことだが、結局粗鋼と交換で払うという事になった。


これこそ公国の、いや実を言えばディリエルの狙いである。

なぜなら、センジルが粗鋼を渡す気は無い事は分かっている。先払いにこだわったのは、どうせ踏み倒す気だったからだ。

ならば、連中が鉄を渡すという日は、間違いなくセンジルが略奪か戦争を仕掛けてくる日に決まっている。それを見抜くための作戦だったのだ。


センジルが鉄を売りに来る事は、セイジも予測していたが、それを使う方法といい、副宰相であるラドルビンを通じて、公王に上奏させることで自分を隠す方法といい、小柄で愛らしい嫁さんが、なかなかにやり手で計算高いことに、苦笑いを浮かべながらも動き回った。

現実的に見れば、ディリエルは何の力も無いか弱い娘にすぎず、その高い頭脳に比べて、暗殺者などに狙われたら、身を守る手段など持っていないのである。どうあれ目をつけられないに越したことは無い。

それにセイジは、ディリエルと対等に話し合えるぐらいの経験と知識は持っている。以前は父親の公王しか使えなかった彼女からすると、セイジという強力な隠れ蓑があれば、一気に情報操作や実行のための手段が増えて、楽しくて仕方がないらしい。セイジの前では、自分の黒雪姫ぶりをまるで隠さないのだ。


「あら、それをおっしゃるなら、あなたも自分がイセカイジンであることを、まったく隠さずおっしゃるじゃありませんか。」


セイジがその点を指摘すると、にっこりと美しい花のように微笑みながら、甘えてくるディリエル。

なるほど、セイジはディリエルにとって夫である以上に、安心して語り合える『同志』であるらしい。

そういえばセイジも遠慮なくディリエルを使うし、お互い良いパートナーを持ったと言える。


センジルは、ダレルブレアンのというよりも、ディリエルの思う壺にズッポリとはまり、チーヤイに泣きついた。

チーヤイも、金をこれ以上浪費したくないという思惑もあり、今度は使者の口を引き裂くことなく、戦争を始めることを決めた。


これでダレルブレアン側は、戦争で不意を打たれるという、最悪の事態は免れた。




ただ、何事も想定外という事は起こる。


これはダレルブレアンどころか、チーヤイ国ですら、想像していなかった事だった。



いつの間にか、ダレルブレアンの豊かさの噂と、金銀の鉱山の話が広がっていて、欲が猛烈な勢いでチーヤイ全土に広がっていた。

一つには、金満将軍ことキン・キラキンが、一口乗せて、それらの連中に軍費の金を出させようと煽ったせいでもある。


だが、チーヤイの各地の豪族や軍閥の連中たちは、金を出すよりもこぞってダレルブレアンへの略奪に参加したがり、無理やりに軍に割り込んできたのだ。


最終的な数は実に50万を超えた。

こうなると、チーヤイ国自身ですら、止める方法が無かった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

筆者少々カゼ気味です。

寒い日が続いています、皆様お体にはお気を付けくださいませ。

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