表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/41

第二十四話 <戦争の陰謀戦>

セイジが海水中から分離した鉄塊は、一旦公国に市場価格の1/5程度で買い取ってもらい、それをまた市場価格より少し安めに売らせ、価格を安定させながら、供給を保つようにしていた。これによって、市場は安定し、生産力は落ちず、差額で公国も戦費を稼ぐことが出来る。戦時の税もかなり抑えることが可能だろう。


なぜこんな面倒な事をしているのかと言うと、一つは、敵側に鉄の供給が途絶えていない事を分かりにくくするためである。敵国から見れば、鉄鉱石の船が入らないことは嫌でも分かる。

そしてもう一つは、国内には鉄鉱石が入らない事を意識させないためでもある。鉄の供給は途絶え無いのだから、毎日おびただしい船が入ってくるダレルブレアン国内にとっては、鉄鉱石の船が入らない事はどーでもよい。

また鉄の供給が途絶えた時、一番怖いのが生産能力や専門家が激減することだ。逆に過剰な鉄が市場に流れても、これまた価格の下落で破産する工房や鍛冶がたくさん出る。そうなると、製造や鍛造の生産力が落ちてしまう。いろんな意味で専門家を保つのは、大変なのだ。


ちなみに、この世界では、鉄鉱石の輸出は出来ても、鉄の輸出が出来る国は極めて少ない。火炭を輸入して鉄製品を輸出しているダレルブレアンでも、鉄そのものの輸出はかなり難しい。無理をすればセンジルの二の舞になる。



「恐らく、センジルはもって1年、恐らく半年ぐらいから悲鳴を上げるでしょう。その頃に鉄で無理難題を押し付けようとするはずです。」


小国センジルの領土は、かなり森林資源が少ない。財務卿の試算からも、公国に来るはずだった鉄鉱石の精製を計算すると、そのぐらいでかなり奥地まではげ山になってしまう。

セイジの知っている地球のある国家も、大きな製鉄所は作れないので、民間に小さな製鉄をたくさん行わせようとして、国土をはげ山にしてしまい、立て続けに水害を起こして国を潰しそうになった。そういう実例を知っているので、だいたい想像がつく。


ということで、この半年が勝負である。


セイジは副宰相でもあるラドルビンに、鉄の売買ついでに国際情勢のことで質問してみた。ちなみに公国には現在、正式な宰相はいない。


「軍事力があり、大きな海軍と植民地を持っている国はありますか?。」

「うん?、そうだなナンバーワンはイングリアン国じゃろう。あそこは経済力があり、植民地も全土にもっている。海軍はどこよりも大きく強いぞ。」


イングリアンは、地球で言う近世のイギリスに近い海軍国で、グラッドストン大陸の各地に植民地を持っている。


「経済力があるなら、そこから戦費を調達できませんかね?。」

「なぜかね?。戦費が不足するほど我が国は貧しくないぞ。」

「いえ、戦費より味方になりやすい国を作ることが肝要です。借りた戦費から払われる莫大な利息、つまり利益が得られるとなれば、イングリアンも味方になりやすいでしょうし、チーヤイなどとは仲が悪いんではありませんか?。」


『その手があったか!』とラドルビンが膝を打った。考えてみれば、敵対を見せているのはセンジルでも、その背後から操り、戦争を仕掛けているのはチーヤイである。センジルの戦力など考えるほどのことも無い。


「しかし、よくイングリアンとチーヤイが仲が悪い事を知っていたな。」

「いえ、当て推量ですよ。」


強大な海軍力を持っている国は、貿易にも有利な条件を結べるし、大軍で押しつぶしたい陸軍国は、海軍国とは相性が悪い。海軍国は自分の好きな時を狙って攻撃を仕掛けることが出来るのに、陸軍国は海に攻めて出る事が出来ない。そして貿易港を潰されたら、どんな国でも致命傷だ。もちろん、全く海の無い内陸国と言うのもあるのはあるが、港のある国がうらやましくて仕方がない。

イングリアンなど押しつぶしてくれると、何度も何度も戦争を仕掛け、結局一度も勝ったことが無いチーヤイは、圧倒的不利な条件で貿易をさせられて、なおさら歯ぎしりしていがみ合いを繰り返している。従わせている国と、従っている国、この仲の悪さは、想像以上に深い。この話を聞いたら、イングリアンは喜んで乗る可能性が高い。


「それに、もっと大事なのは戦争後です。そのためにもイングリアンを。」

「ううむ、そこまで考えていたか。戦争後の仲介役にイングリアンは最適だろうな。」


この戦争後の仲介役も、強い国でなければ話にならない。決裂しても、負けた方が力で押し潰されると思うような仲介役でないと、言う事を聞かせられないからだ。


「ところでラドルビンさん、もしセンジルが領地になったとして、欲しいと思いますか?。」

「勘弁してくれ!、あんな連中が満載の領地なんぞ、金をつけられてもいらんよ!。」


悲鳴を上げて即答であった。よほど公国としても迷惑をこうむっているらしい。


セイジから見ると、ダレルブレアンは迷惑極まるので相手に成りたくないというのが本音なのに対し、センジルの方は必死に『自分が上』『センジルにひざまづけ』と言いつのっている。

ダレルブレアンが国力を上げ、経済も豊かになり、国威も北方で1,2を争うほどになったので、『美女に対するもてない男のストーカー状態』に陥っているのがセンジルなのだ。

それだけに執念深いし陰湿極まりない。モテないひがみがますます執拗になる。

こうなると、セイジのいた地球でもそうだったが、一方的に迷惑と被害を被るのは女性の方なので、さっさとモテないストーカー男を、再起不能に張り倒す必要が出てくる。



「おそらく、そういう対策も考えておかねばなりませんよ。」





イングリアンは、グラッドストン大陸を大きく回り込んだ向こう側にあり、海洋国家としても一流で、海軍力が極めて高い。それだけに無様な様子を見せれば、襲い掛かられて植民地にされる。一流というのは恐怖もまた一流なのだ。


ダレルブレアンに興味を持っているのか、5年ほど前から外交官を置き、交易をしている。

ちなみに、現在の外交官はグレーデン・ラ・ガッセンディーニという子爵である。


公王の承認を得てラドルビンの持ち込んだ戦費調達の話に、二つ返事で了解し、本国と魔道水晶で連絡を取った。

魔道水晶は、遠隔地と互いの顔を映し合いながら話せる。かなりな高額で、国家でも複数置けるところは少ないのだが、さすがというかイングリアンは外交官をのいる国全部に置いている。

かなりな高額の戦費に、ホクホク顔のガッセンディーニ子爵だが、ダレルブレアン側には一つ嫌な条件を付けられた。


「戦時の監督と支払いの保証に、軍艦を2部隊(20隻)置くことを了解いただきたい。」


ラドルビンとお連れの外交官は、顔が引きつるのを必死で抑えた。

もし万一負け戦になれば、この2部隊は略奪部隊となって、他国に荒らされる前に取れるだけ取っていくつもりだ。

こういう容赦の無さも、イングリアンを世界一の海洋国にしたのだろう。





王宮の一室で、公王、ラドルビン、グシャーネンが額を寄せ合って話している。


「鉄に関しては、セイジ殿より受領いたしましたし、ほぼ問題はございません。」

「ほぼ、というのは何かあったのか?。」

「問題というか、問題が無さすぎるのが問題でしょう・・・。」

「どういう意味でございますか、ラドルビン殿。」


グシャーネンがわけが分からんという顔をする。


「あまりに鉄の質が良すぎるのですよ。普通の粗鋼と違って、ほぼ最高純度の鉄です。奪い合い同然になってきましたので、順番を決めて売ることにしました。」

「普通は粗鋼からあか(不純物)を抜く手間がかかるはずですが、それが全く無いと言う事ですか?。そりゃあ奪い合いになるわけですな。」

「やれやれ」


公王が、苦笑いを浮かべる。


「仕掛けられたと思ったら、あっさり山のような鉄を調達するわ、その鉄が最高純度で奪い合いになるわ、やらかす上にやらかしてくれる婿殿だのう。」


王宮の中庭には3000ギトンを超える鉄が、山を成して積まれている。

あれだけの品質と量の鉄だ、ほとんど財宝が野ざらしになっているようなもので、外に置いておいたら、警備が大変であっただろう。


「戦費は潤沢すぎるほどである上に、イングリアンへの利息は鉄の販売で無いも同然となっております。チーヤイの息のかかった商人が、鉄製品を買い占めようと動いておりますが、今のところ全く影響ございません。むしろ、工房組合や鍛冶師同盟が利益を上げ、税収も増えております。」

「ハッハッハッ、きゃつらめこちらに戦費を大量にくれておるわ。」

「だがのう、セイジ殿がおらねば、ワシもそなたらも、ここには居なかったであろうよ。」


笑っていたグシャーネンが顔をひきつらせた。

まず公王は間違いなく魔獣に食われていたであろうし、甲骨漢の彼は本気でベンダン元公爵を嫌い、敵対を隠さなかった。ラドルビンも同様である。


「その後を引き継いだ者が誰であれ、気が付けば鉄は途切れ、戦力は激減し、他国からの侵攻を防ぐことは容易ではなかったであろう。」

「はてさて、いかがいたしたものでしょうかのう。」

「いっそそう出来れば苦労は無いのじゃがな。」

「私めはあの素浪人殿は好いておりますぞ。ただ、まああまり向いてはおりますまいが。」


なにしろ、長年の付き合いである。腹の底まで知っている君臣同士、ほとんど謎々のような問答が交わされる。


ラドルビンはセイジの功を認め、そのあまりの大きさに報いる方策はあまりないと言う事を、

その方策を考えている公王だが、さすがに方策に無理がありすぎ、内乱の危険すらありうると暗に言う、

グシャーネンは、同意はするが、彼の性格上嫌がるだろうと思ってわざと『素浪人殿』と呼んだ。


「まあよいわ、どうせ事が起これば、また何かやらかすにきまっとる。その後で考えて良かろうよ。」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ