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第二十三話 <鉄と海とある出会い>

昨年末からPVアクセス数が1000超えてまして、驚いています。

王宮での秘密会合の次の日、王都から少し離れた人気のない海辺にセイジたちは訪れた。

ダレルブレアン王都の近辺の海岸は岩礁が多く、港に向いた地形は王都の巨大な港ただ一つなので、漁村などは無いのである。そのかわり、入り組んだ地形が多くの魚介類のゆりかごになっていて、実に豊富な海産資源がある。海も澄んでいて、海底の魚まで見える。


「きれいですね~。」


ディリエルはすっかり健康になった体に、潮風が当たる快感を楽しんでいる。

以前は風に当たるだけで咳きこみ、馬車の外に出ることもできなかったのだ。


「のんびりするなぁ。」

「いいよねえ。」

「海を見るのは初めてです。すてきぃ。」


イーラのつぶやきに、キアナも同意。ハイネに至っては感激して十字架をつかんでいる。


「さて、この辺でいいかな。少し海水が飛ぶので、離れていなよ。」


妻たちの頭に?マークが出ているようだが、とにかく20メートルほど離れた。


『では、始めようヴェルムンガルド。』

『はい、仰せのままに。』


左手をかざすと、海面に光の輪が現れる。

ぐんぐん広がり、はるか沖合まで丸い光の輪ができていった。

重力遮断とイオン分離能力を持たせたリングである。


『イオン分離開始いたします。分離した金属元素は自動的に分別して、固体化し、1ギン単位の金属塊にして、収納空間に貯めておきます。』


シュワアアアアッ


海水が猛烈な勢いで吸い上げられ、細かな粒子が霧のように舞う。

首が痛くなるほど見上げても、まだ上があるような白い大きな壁。

まるで入道雲が目の前で立ち上がったかのような光景だ。


海水にもわずかだが、さまざまな元素が溶け込んでいる。

それをイオン分離の能力で、大量に処理すれば、その元素を取り放題ということになる。

とはいえ、1秒間に20000ギトンほどの猛烈な速度でやっているから可能なのだが。

金属をイオン分離した海水は、ザアザアと海面に戻っている。ちなみにイオン化できない生き物や浮遊物は、そのまま落ちるだけである。


「わわっ、こっちまで飛んできた。」

「あーん、しょっぱいいっ」


大量の海水を吸い上げたため、しぶきが結構遠くまで飛んでいるようだ。

取りだしたのは重たい金属元素のみなので、塩などのミネラルはそのまま戻ってただの海水になっている。

イーラたちはあわてて逃げだした。


ゴトゴトゴトッ、ゴトンゴトンゴトン、


大量の鉄塊が、黒い収納空間に落ちていく。たまに金や銀、銅などの塊も現れ、それは別々の収納空間に収められていく。これだけの処理を行っても、必要量を収集するのに、2日分弱のエネルギーしか使わない。左手ヴェルムンガルドに言わせると、熱量が不要で、システムを組み上げたら循環させるだけなので、効率が良いのだそうだ。地中から取ることも可能だが、それでは取り尽くすたびに移動をせねばならず、システムもそのたびに組みなおすので、効率が極端に悪くなるとのこと。


「んもー、びしょびしょですよお。」

「もう少し、何やるか言うて欲しかったわ。」

「塩水はべたべたするんだよ。」

「ひどいですぅ。」


セイジは妻たちからぶーぶー怒られた。



<おわあああっ、なんだ、なんだ、なんだああああっ?!>



その時、地を震わせ、海が荒れるような声がした。


『セイジ様、中位精霊語です。』


左手(ヴェルムンガルドが教えてくれた。

何かが落ちてくる。


『いや、その、でかすぎるんですけど・・・』


ゆっくりと落ちてくるように見えるのは、山か?島か?。


落ちた瞬間海面がとんでもないことになった。


『防御しろおおおおおおおっ!』

『了解しました。ベクトル反射を行います。半径20行程範囲で奥様方も安全域です。』


高さ30メートルほどの津波が、映像の逆廻しのように来た方向へ戻っていく。

高位のエネルギー変換能力の一つで、半日分ほどのエネルギーを使用するが、あらゆるエネルギーのベクトルを変えられるそうだ。その代り、たとえ手のひら一枚のサイズでも、使用エネルギーはほとんど変わらない。まあ20行程(約40km)あれば、沿岸の津波もほぼない。


「いったいなんだったんだ・・・・?」


あまりのでかさに、動きが極端に遅く見えたが、視界を占拠したそれは端が見えないほどでかかった。元の世界の単位で2キロメートルを超えてるんじゃなかろうか?と思う。

じっと海面に目を凝らすと、海が盛り上がっているのが分かる。


<なぁにごぉとだぁぁ??>


青い水の塊のようなそれは、ぶっとい頭を持ち上げた。ようやく分かったが、その形はマッコウクジラによく似ている。ただ、全長が全く見えないほど巨大な、2キロメートルを超えるクジラがいればの話だが。


「あーっ!、青ちゃんだぁ。」


ハイネの足元にいたグリが、すっとんきょうな声を上げた。


<ん、ん、んーっ?、おお、緑かぁ。んー、10・・・いや、100・・万年ぐらいかぁ。ひさしぃぶぅりだぁなぁ。>


首を傾げながら、無駄に桁が多すぎる久しぶりを、間延びした声で言う。


「グリちゃん、お知り合い?。」

「うん、海の大精霊青ちゃんだお。前にグラッドストン大陸が割れたときに会ったの。」


ちなみに、この大陸の事をグラッドストン大陸という。


<んー、緑はぁ、名前、つけたのかぁ。いいなぁぁ。>


頭に響くようなこの声は、イーラたちにも普通に会話に聞こえるよう、左手ヴェルムンガルドが聴覚に補正を掛けている。


「ハイネおねえちゃんにもらったんだよ、いーでしょう。」


自慢げにふんぞり返るのが可愛らしい。


「グリちゃんのお友達ですか、初めまして。ハイネと申します。」


んで、何故か呆然としてる3人とは別に、ハイネはぺこりと青ちゃんとかいう巨大クジラ?に頭を下げた。


<おおうぅ、はじぃめぇましぃてぇぇぇ。なああ、俺にぃもぉ、なあまぁえくれなぃぃかぁぁ。俺ぇぇをぉ見るとぉ、『化け物』ぉとぉかぁ、『何だあれは』ぁとかぁ、気に食わねえぇんだよぉぉ。>


なんだか妙な事を気にする大精霊である。

後でディリエルに聞いてみたが、人間ですらめったに見たことが無い精霊なので、呼び名が無いらしい。


「セイジ様、何かいい名前ありませんか?。」


だが、それ以上に、この状況を平然と会話するハイネが、とんでもない大物な気がするのはなぜだろうか?とセイジは思う。イーラたち3人は完全に固まってるし。


「あー、まー、うー、そうだな・・・俺の故郷だと、あのタイプはホエールって呼んでる国があるんだが。」


もちろん英語だ。あの話し方だと、中に伸ばす方が良いんじゃないだろうかと。


「ああ、それはいいですね。じゃあ『ホエール』さんでいかがですか?。」


<ホエェェェルゥ、おおう、いいなぁ。俺にぴっったぁりぃ。俺、ホエェェェルゥ。>


細かいことはどうでも良いのか、何でここに引っ張り出されたのかは、すっかり忘れて喜んでいるホエールであった。


『あんまり大量の海水を処理したんで、巻き込まれたんだろうな・・・。』


イオン分離を行っても、通常の水の精霊は、水が自在に形を変えるように形態を変えるだけなので影響が無いのだが、この大精霊は丸ごと吸い上げられるなど天地が始まって以来初めてであったため、少し目を回したのである。


そしてどうやら、この海の大精霊も、ハイネと縁が出来てしまったようだ。







そのころ、この南西100キロほど先の海上には、一隻の帆船が航行していた。

シャンクーという、あまり形の良くない帆を掛けたチーヤイの船である。


「ええいもう、遅いわね。もっと早く進めないの?。」

「カーリィ様、落ち着いてください。風が無い以上仕方がありません。」


船上でいらいらしている美女オカマをなだめている黒フードがいる。もちろん、チーヤイの『黒薔薇将軍』こと情報担当将校のカーリィ・デンデンとその部下である。


「ダルブレアン公国の状況を早く報告しないと、私の首が危ないのよ。まったく連絡用の魔道水晶をあれほど用意しろって、言ってたのに、ケチな財務大臣めぇっ。」

「まったくですな。公王暗殺に連携して行う例の作戦、修正が必要でしょう。」


この連中は、レマノフサンダー公王暗殺後にベンダン公爵を新たな公王に据えようと画策していた。ただ、他国のスパイが、それだけのことで終わるわけがない。

本当は、公王を暗殺し、代替わりのごたごたの間に鉄をはじめとした資材を買い漁ってしまい、弱ったところでダレルブレアン公国そのものを属国化するか攻め落とすという作戦であったのだ。大半が内陸にあるチーヤイには、あまり貿易に向いた良い港が無く、国の経済状態も極めて悪い。豊かで優れた貿易港を持つ『小国』ダレルブレアンは、よだれが垂れそうな獲物としか見えていなかった。

だが、今の情勢では、計画もかなりの修正が必要になる。


「とにかく、急ぐの!。」

「まあまあ、お、風が出てきましたな。」


かなり強い風が、北東から吹いてきた。これは期待できそうである。


だが、黒フードは妙なものを見つけた。

体格の良い船長が、何故かあんぐりと口をあけて、風の来る方を見ている。


「どうした船長?。」

「あれ・・・なに・・・?」


かすかに呟く船長の見ている方を向くと、水平線上に何かが広がっている。

見る間にそれがどんどん近づいてくる。


「えっと・・・」

「波・・・・?」


この船の帆柱が20メートルほどあるのだが、その2倍、いや近づいてきて分かった、4倍近い津波だった。

あの海の大精霊の落下で起きた大津波を、セイジが外海へ跳ね返した影響で起こったものであった。


「「「びっぐぅうぇぇぇぇいぶぅぅぅぅっ?!!」」」


おそらく、それは単なる悲鳴だったのだろうが、何故かセイジの故郷の英語によく似ていた。






なんだかんだで騒動しているうちに、鉄は十分すぎるほどたまっていた。


ついでに金も4ギトン、銀が10ギトン、銅は200ギトンほど出来た。

こちらは必要があれば取り出せば良い。



海水のしぶきで、すっかりべたべたの妻たちだったが、人のいない場所だし、天気も良いので予備の風呂桶を出し、露天風呂にすると、機嫌を直してくれた。

もちろん、楽しみも存分に。

開放的な雰囲気の中で、すっかり上機嫌になった妻たちに、海の幸もごちそうする。

頼むとホエールが、海の幸を寄せてくれて、小さな岩場が埋まりそうになった。


「これ、食べられるの?」


イーラですらまだ食べたことが無い、地球のムラサキウニそっくりのウニを割って、鮮やかなオレンジ色の卵巣をサジですくって食べてみると、磯の香りとトロリとした甘みと塩味と旨みが舌の上でほどけて広がっていく。


「うわ~、これお酒に合いそう!」


恐る恐る一口食べたとたんに、イーラは明るい茶色の目を開いて喜んだ。


「これなら、ニッカーとか合いそうだな、ほら。」


地球のウィスキーに似た、淡い小麦色をした蒸留酒ニッカーは、町の酒場でも良く飲まれていて、セイジは収納空間にいろいろ入れてきている中にあった。


「わ、ありがとう。だから好きよ。」


他にも、赤や白の葡萄酒や、ニッカーより甘口のタキー、おいしい泉の水などもあり、白パンやクラッカー、バターなども次々と取り出した。


ダレルブレアンでは、穏やかな内湾で取れる魚介類が豊富だが、外海の魚や岩場の珍味はかなり高いので、めったに口にできない。ディリエルはウニは知っていたが、パーティなどは顔を出すだけなので、食べたことは無かったそうだ。


ハマグリによく似た大きな貝だけの汁は、出汁がこれまた最高で全員に好評だった。

イカなど全員が最初は嫌そうにしていた。だが、皮をはいで輪切りをオリーブオイル(と、そっくりの油)で炒めると、


「ん・ま・い~~~~っ!」


一番嫌そうだったキアナが絶叫したぐらい美味しかったようだ。

もちろん魚もいろいろ食べ放題。全員大満足だった。


お読みいただき、ありがとうございます。

なんかどんどん嫁さんたちがとんでもなくなってます。

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