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第二十二話 <戦争の経済>

ディリエルはもちろんだが、セイジの申し出が驚くべき内容だったので、公王を始めグシャーネンやラドルビン、財務卿まで全員慌てて集まってしまった。

経済問題から、戦争になる確率が高いというのである。


すでにセイジの存在そのものが、国家として重要であり、戦力、見識、その他の能力も宮廷の全員が無視など出来ないレベルで認識している。


こんな人間が、いったいぜんたいどこから来たのか?。

ある日ダレルブレアンの野っぱらでひっくり返っていたというが、それまで何をしていたのか?。


セイジが現れた直後から、公国は驚きの連続であり、最強クラスのドラゴンを一撃で倒し、彼が起こした紙製造が輸出産業に伸び上がり、迷惑極まりなかったベンダン公爵は首が飛んだ。今や『嵐を呼ぶ男』と言われて、『恥ずかしいから止めてくれええっ!』と叫ぶセイジである。


こんな人間が近隣諸国のどこかにいたら、分からないはずが無い。


それでいながら、いやそれだけに、国家のどこに当てはめたら良いのか、決めるに決められない始末の悪すぎる『素浪人』。

そう、未だにセイジは無位無役、ただの一介の庶民に過ぎないのだ。


というか、今さらどこに付けたらいいのか、公国首脳陣ですら決められない。もし、変な地位につけたりしたら、一気に国内の勢力図が変わってしまう。間違いなく、公王の後継者争いに最大級の火炎魔法をぶち込むハメになる。『いっそワシの・・・』と言いかけた公王の口を、その場にいた貴族たち全員で塞いだ時の冷汗は、誰も忘れていない。王宮内の敵も味方も、それだけは勘弁してほしいのだ。



まずライザー財務卿が口を開いた。


「セイジ殿、今回の鉄鉱石の輸入と他国との関わり、なぜお分かりになったのです?。」

「鉄の値段が上がってきた事を、キーロッカーさんから聞きました。その原因が鉄鉱石の輸入が途絶えたと聞いたので、失われている記憶の一部、昔いた国の前例を思い出したのです。」


他国が鉱山を買い取り、他国に高値で売りつけようとしたり、別の鉱山を輸出禁止して、相手に極端に値段を吊り上げようとした例があったことを述べた。


「大半の鉄鉱石はオーロジェント国の物ですが、積み荷を運ぶ船は、値段よりも個人の利益が優先します。これに多少金を使っても、買収する側はさほどの額にはなりません。」


オーロジェント国には、大量良質の鉄鉱石の露天掘りの鉱山が海の近くにあり、これ以上は無いほど鉄鉱石の輸出には恵まれている。


だが、嵐や海賊など、船が沈む例も少なくないので、船の輸送の契約は難しい。

船は利益が大きい代わりに損失も大きいので、21世紀の地球のような契約や保険は通用しない。オーロジェント国も特定の国に売るようなことはしないし、やらない。ダレルブレアン公国は、来た船の分しか今のところ買う事が出来ない。陸路を使う方法もあるが、これは輸送量が極めて小さく、鉄鉱石などを輸送するのは非現実的だ。それなら鉄そのものを買ってきた方がはるかにましである。


「それに鉄を作るには、非常に時間がかかるはずです。炉を作り、燃料を集め、長期間かけて熱して元になる鉄を作り、さらにそれを分けて製錬しなければなりません。鉄鉱石の輸入はいつ止まりました?。止まってすぐに上がる物ではないはずです。」


ライザー財務卿は目を見開いている。


「なるほど。鉄鉱石の輸入は半月前から止まっている。鉄の値上がりはそのころからだ。同時に始まっているのはおかしい。」

「買い漁ったり、値上がりをあおっている人間がいるはずです。」

「うむむむ・・・、ベンゼン、資料はあるか?。」


後ろに立っていた、眼鏡で小柄な中年男性が、すっと帳簿を渡した。


「これは・・・・、いつもチーヤイが鉄を買っているので、疑問に思わなかったが、量が異常に増えているな。」

「塩や食料や鉄を抑えれば、相手の国全体にダメージを与えることができますからね。」


時代がもっと進むと、それが石炭や石油のようなエネルギー資源に代わるが、基本的な仕組みは変わらない。

経済の調子が良いだけに、鉄が高値で売れるとなれば、気が付くと根こそぎ売っていたなどと言う事になりかねない。

セイジのいた日本では、有名な武将が400年ぐらい前に『干し殺し』などという物騒な戦略で、戦争前に敵方のコメを買い占めて、中国地方の重要な城を次々と落としたことで有名だ。

そうやって戦争を仕掛けられたら、勝てる戦いも勝てなくなる。


「軍にとっては死活問題ですぞ。」


グシャーネンが顔色を赤黒く染めて、怒りを抑えた声で言った。


「ううむ・・・、我が国は険しい山地が他国からの侵攻を防いでくれるが、こうなると鉄を他所から持ってくるのは難しい。」


公王が額にしわを寄せて、考え込んだ。今から貿易船で手配するにも、最低1年はかかる。恐らくこちらが動けば、ゼンジルやチーヤイも、それを潰そうと動き出す可能性が高い。


「しかし、同時にそれが相手の弱点にもなります。」


「なんですと?。」

「どういうことだ?。」

「な、なんでやねん?。」

「ほんとかよそりゃあ。」

「どういうことかね婿殿。」


セイジがあっけらかんと言うと、全員が呆れたように声を上げた。


「まず、鉄鉱石をそれだけ買い取るのは、どこの国であっても大変なのです。そのままでは使えませんからね。」

「そりゃあそうじゃろ。だが、それで鉄をつくるじゃろ?。」

「相手が作れる技術と能力が十分にあれば、ですよ。」


疑問を声に出したキーロッカーが、『あ!』という顔をした。


「『鉄は国家なり』という言葉を聞いたことがあります。」


セイジの言葉に、公王や財務卿はうなづいた。


「鉄の生産力は、そのまま国力と言えます。ですが、国力の低い国は、必要な量を作れず不十分な鉄量で我慢するか、ほかの物を我慢して、鉄を輸入するしかありません。」

「我が国は、鉄の輸入もかなり多いが。」


財務卿の疑問に、セイジは笑って答えた。


「その分何か我慢をしていますか?。ダレルブレアン公国は、様々な輸出を行い、金銀の鉱山を開発し、鉄の輸入に不自由は無いはずです。鉄の精製にも、良質の火炭(石炭)を輸入して、良い鉄製品を輸出しています。これは国力が豊かだと言う事です。」


一同これには納得した。セイジは前の地球で、小さいながらも自力で商売をしていた。50年の人生経験は伊達ではない。世界の情報にあふれかえった日本で、毎日経済や商売の情報を集めていれば、このぐらいは道理で分かる。その上世界の歴史好きで、マニアに片足突っ込んでいるようなところがあり、色々過去の例を知っていたりする。


「分不相応な鉄鉱石は、どうなると思います?。」


水を向けられたキーロッカーはうなづいて答えた。


「そりゃあ、えらいことになるわな。大量の鉄をつくるにゃあ、大量の燃料がいる。技術もいる。輸送方法も段取りをしっかり組んでおかにゃあならん。」

「どういうことだね?。」


今度は、財務卿も公王も将軍も分からないらしい。キアナは気づいたようで、ぎょっと顔を上げた。


「買い取った鉄鉱石をそのまんま輸出しても儲かるわけがねえ。何割も値上げしねえと、輸送料が出ねえんですよ。鉄に作り直すしか無いんだが・・・、国中禿山だらけになるわな。」


これでようやく全員納得した。

チーヤイは、図体がでかい内陸の国で港が少なく、鉄を輸入しないと割が悪すぎる。何より買い取ったゼンジルから、手数料上乗せで鉄鉱石だけ買い取り、センジルは大儲けなど、もったいなくてもったいなくて、とてもじゃないが我慢が出来ない。当然買い取ったセンジルが大量の鉄鉱石を鉄に製錬するしか無いわけだが、小国のセンジルがそれをやったら、燃料はあっという間に底をつく。あそこにその分の火炭まで輸入する余裕はまったく無い。


「おそらく、ある程度やったところで、青くなって対策を考えるでしょう。対策は高値で無いところに売りつけようとする。当然相手はダレルブレアン公国です。」

「だが、我が国はそれを飲まざる得ないのではないのか?。」


将軍は心配そうに疑問を述べた。


「鉄があるのに鉄鉱石を買う必要はありませんよ。」


セイジの理解しがたい言葉に、公王たちは目の前でちゃぶ台を返されたような呆然とした顔をする。

さっきから、鉄が無いと言う事を問題として話していたのでは無かったのか?。

ただ、キーロッカーとキアナ、爺孫二人で頭を抱えているのだが。


「鉄は俺がどうにかします。キーロッカー氏にも聞きましたが、とりあえず我が国一年分、3600ギトン用意します。ただこれが相手を追い詰めますので、当然追い詰められた相手方がどう出るか、結論は一つでしょう。」


いや、ちょっとまてという顔を公王らがするのも無理はない。

3600ギトンという量を、まるで塩を1ギン買ってくるかのように用意すると言われて、はいそうですかと言えるほど非常識では無いつもりだ。

ただ、一番現実的立場というか、結論は一つという言葉に、グシャーネンがはっと気づく。


「そうか、戦争になるしかないか・・・。」


沈痛な声に、公王もラドルビンも我に返った。

確かに、一番の問題はこれが戦争になると言う事だった。

相手が他国ならまだしも、センジルの狂人相手では、止まるはずが無い。後ろにチーヤイがいるのならば、なおさらだ。


本当に戦争を仕掛けようとしているのは、チーヤイであろう。

あの国は、常に犠牲者を欲している。

どこかを責めて略奪し、服従させ、その凱歌をもって国を名乗っているようなチーヤイなのである。


「両国とも、相当内情が悪いようで、あちこちで内乱が起こっていると聞いています。何としてでも国民をごまかすには、他国に戦争を仕掛け、略奪と征服で国民を満足させるより他に無いのでしょう。かといってチーヤイの南の国ベンナムは、日の出の勢いで人口も多く、隣国のガオスやダーイーとも婚姻と共闘体制で敵対出来ません。ゼンジルは論外として、海を挟んでいるとはいえ、一番近くで小国の我が国に、目を付けたのでしょうな。」


情報通でもある財務卿が、商人たちとの会合で聞いた話だがと前置きして述べた。


「まったく、他国にそんなものを押し付けないで欲しいものだ。」


憤懣やるかたないといった顔のグシャーネンに、セイジがふと聞いた。


「将軍も戦争はお嫌いですか。」

「もちろんだとも。」


即答である。


「我々軍人は、民の血と汗の血税によって購あがなわれておる。戦争で失われるのは兵器や財貨だけではない、その民もどれほど失われるかを思えば、戦争など無い方が良いに決まっておる。何より、相手の不都合と身勝手な理由で、こちらに押し付けてくる戦争だ。こんな迷惑な話など名誉にも何にもならんわ!。」


その点では、全員がうなづいた。


「ただ、本当に鉄はどうにかなるのか・・・・・?。」


誰もが、公王の疑問に答えるすべがない。ただセイジだけがニコニコしていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

お正月はいかがでしたか?。

今年は例年になく参拝が多かったようで、毎年静かなはずの地元神社もずらりと並んでました。それではまた、次の話で。

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