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第二十一話 <きなくさい気配>

新年あけましておめでとうございます。

読者の皆様に、サンカーネン枢機卿より祝福を。

『HAHAHA、サンカーネンでございます。

 今年も皆様に健康と幸あらんことを祈らせていただきまあああああっす!』

紙作りも軌道に乗ってきたので、セイジはゴーレムたちと奮闘しているキアナの方を手伝っている。


基本的な構造図は、セイジが調べて渡しているので、その動きや働きを全力で研究していた。


「じっちゃんこんにちは。」

「おう、今日もお邪魔してるぜぃ。」


ツナギ姿のでっかい老人キーロッカー氏は、最近ちょくちょく屋敷のキアナ専用の工房に来ている。


「工房大丈夫なんですか?。」

「ああ、そろそろいい具合に弟子どもも成長してきた。何かありゃあ言ってくるさ。それよりコイツらは、俺たちにとっちゃあ宝の山さ。」

「だけど、表面の自然回復する装甲とか、強化魔法の持続とか、地の魔力を効果的に吸い上げて増幅拡大する機構とか、手の付けられんところも多いんよね~。」


キアナが嘆くのももっともで、それらの技術は、この世界では10世代以上飛んだ代物だ。

理解以前の問題だし、下手にいじると大惨事を招きかねないと左手(ヴェルムンガルドから警告も受けている。

何より、この連中は謎解きを先にされたら激怒するタイプ、下手に言わない方が良いだろう。


「まずは、今の力で届く基礎研究だろうな。」

「無限軌道、とかいうこの機構はいろいろ応用が利きそうだな。」

「短い距離なら、コロの両端を回るように固定して、その上を転がして動かすような道筋とかどない?。」

「弟子どもをしごく手段が、一つ減りそうだな。困ったもんでぃ。」


ガハハと笑いながらも、その目は真剣である。


「婿どのよ、ちときな臭い匂いがしてるんだ。俺ら工房衆も、いざとなったら国に尽くさにゃならん。そんとき急いで武器や資材を調達できねえとよ。」


キーロッカーは、長年の経験から戦争の気配を感じ取っているらしい。

それに、工房衆と彼が言う工房組合・鍛冶師同盟は、意外に情報網がでかい。

最大の情報網である教会に比べれば規模では劣るが、深い情報を感じ取るのは工房衆の方がアンテナが鋭い。

セイジたちが巻き込まれた、公王暗殺計画を含めた騒動についても、かなり知っているようだった。


そして、この世界で、いや地球の歴史上でも、戦争に一番必要で調達が難しいのが鉄だ。

専門家にしか作れず、製造には大変な労力と材料が必要になる。

古代から中世までは、鉄の入手が戦力そのものの絶対的な差になった。

銃や大砲の出現からは、弾薬の量に変わったが、それでも鉄は最重要な資材である。


鉄とその製品にかかわる工房衆は、国の庇護さえ受けている。その重要性を知らないわけが無かった。


「色々、失敗して焦ってるでしょうからね。」

「ああ、聞いてるぜ。あとな、鉄の値段が上がってきてんだ。」

「値段が?。」


これはただ事ではない。

先に述べたように、鉄の生産力がそのまま戦力となる世界だ。

鉄の値段が上がるとすれば、国が買い占めるか、他所から影響があるかがほとんどだろう。


「鉄鉱石を積んだ船が入らないんよ。」


キアナの一言で、地球での他国の嫌がらせの手段を思い出した。

資源高騰に目をつけて、鉄の鉱山を買い漁ったり、レアアースの独占で値段を吊り上げるために輸出停止を強行したり、せこく、みみっちい国が日本のそばにあったので、日本は嫌というほどそれらのイジメを体験している。ただ、日本は日本で他国に協力して鉱山開発を進めたり、レアアースのいらない技術を開発したりと、ごく普通に努力して当たり前にやっていたので、その国は、鉄鉱石もレアアースも値段が逆に急落し、自分の首を自分で絞める形になった。


「とすると、輸出をしている国か、中継の国が抑えてますね。」

「あれか・・・」

「あれやね・・・」


キーロッカーとキアナが同時に嫌な顔をした。これまたどうやら心当たりがあるらしい。





その頃、王宮でも騒動の種がやってきていた。


「いいでゲスか、再度通告いたすでゲスよ。我が国に、全ての貿易利益の2割をよこすでゲス。我ら慈悲深ーいセンジル王国は、たった2割で赦してやるでゲス。これをしないなら、ダレルブレアン公国は潰れるでゲスよ。」


細い酷薄そうな目と、小賢しい犬のような顔つきの、派手で下品な赤と黄色の服を着た使者は、レマノフサンダー公王の前で、偉そうに反り返って『申し渡した』。

とてもじゃないが、国家の使者の態度ではない。

顔は白塗り、ほっぺたは赤く塗り染め、顔つきも細くいやらしい顔を少しでも整形しようとしたのか、あちこち何かを張り付けて引っ張ったようである。

自分たちの地の顔がよほど気に入らないらしい。


「何を根拠にいっておるのじゃ。センジルは毎度毎度、頭が変なのではないか。」


ラドルビンは、話すのもバカバカしいという顔で、無礼極まりない使者アキンに、怒鳴りつけた。


「へっへっへっへっ、そのように威張って後で泣くでゲスよ。わしは公王に言い聞かせてやってるでゲス。宮廷魔術師風情が口を出すでないでゲス。」

「つまみ出せ・・・」

「こら、貴様ら、偉大な使者アキンに何するでゲスか。鉄も入らない国に、何もできないでゲスよーーーっ!」


実際、毎度毎度、なんやかやと金を差し出せ、でないと国が亡びるぞと、頭のおかしい事を言ってくるセンジルだが、どんなバカでも一応国の使者、合わないわけにはいかずうんざりさせられる。


「しかし、鉄か・・・」


使者がバカなので、さっそく相手の手段が知れた。


「チーヤイが手をまわしましたなこれは。」


公王のつぶやきに、ラドルビンが推察する。


センジルは、〝チーヤイのイボ″とか〝チーヤイの駄犬″とまで言われている国で、比較的狭いダレル海を挟んでいるせいか、文化レベルは低いのにやたらダレルブレアンに張り合い、貿易やその他で無理難題を押し付けてくる国である。


以前、公王が凡庸であったころまでは脅しで結構儲けた事もあったが、この10年、公王の変身と国力の急上昇が合わさり、センジルは脅しで利益は一文も得られず、国力は今や10倍では聞かないほど差が付いてしまった。これは誰のせいでもない、ただ何の努力もしなかったセンジルが悪いだけである。

センジルは激高し、狂乱し、周りの国に悪口と出鱈目を言いふらし、自国の評判が落ちれば落ちるほど、ダレルブレアン公国を恨み、呪い、自国の無能な国政と暴力的な搾取を全部ダレルブレアンのせいにして、国民を激高させ続けてなんとか国の状態を保っている。


もはや国としての信頼は最低レベルで、チーヤイしか相手にしてくれないような国だが、それだけに何をするかわからない狂人と同じだ。


「おそらく、鉄鉱石を輸出する国の港で、高値の買い付けと船への優遇で、全部センジルに来るようにしたのでしょう。」


レベルが低い国なだけに、袖の下と酒と女はバンバン使い、とにかく約束など『取ってしまえば自分の物』と思っている。

それに図体だけはデカいチーヤイの脅しと手回しがあれば、船を壊されたり燃やされたりしたくない船長たちは、言う事を聞くしかあるまい。


「対策と、鍛冶同盟などに連絡を取り、値段の鎮静化をはかるように。」


公王の命を受け、ラドルビンは急ぎ会議を招集した。



連絡はすぐに、工房や鍛冶の総代表であるキーロッカーの所にも届けられた。


「案の定だぜ、鉄の値段の安定化について、会議したいとよ。」


工房を任されている弟子が、厳重に封をされた手紙を届け、それを見たキーロッカーはため息をついた。


「センジルが輸入を止めるよう手をまわしやがったんだろな。」

「センジルはレベル低いんで、あそこだけじゃ無理、チーヤイが後ろにおるにきまっとるわ。」

「まったく、関わり合いなど成りたくも無いのに、迷惑な連中だぜ。」

「どうする、鉄の生産を少し抑えるん?」


ぶうぶういう二人に、セイジはかわいそうになってきた。

セイジがいた頃の日本も、こうして何度も何度もいじめられ、ひどい目に合い続けている。

国が小さいから、急に豊かになったから、日本がどれほどの努力と苦労と血と涙を積み重ねても、自分に出来ない事を、妬ましく見えて憎み、呪う国がある。

そして、鉄を抑えられたら、戦争を押し込まれるのは目に見えている。セイジとて他人事ではないのだ。


「鉄ね・・・どうにかできると言ったらどうする?。」


キーロッカーもキアナも、けげんな顔をした。


「鉄っていってもよお、半端な量じゃねえぞ。ダルブレアンで、月に200ギトン。輸出加工分も含めりゃ300ギトンを超えるぜ。」


この世界の単位では、ほぼ1kgが1ギン、1トンで1ギトンになる。さすがはまとめ役、国内での鉄の生産量を良く知っている。


「とりあえず1年分、3600ギトンあれば当分問題ないでしょう。」

「ちょっとまて、本当にどうにか出来るってのかあああっ?。」


キーロッカーの顔は驚愕では済まない。

口はあんぐりと開き、目の玉をひん剥き、眼鏡の向こうで目玉が飛び出しそうだ。

プロの鍛冶だからこそわかるが、その量は個人でどうこうなどという話には絶対にならない。

地球の感覚でも、個人でタンカーを造るとか言い出したレベルだ。


「セイジちとまちぃ。それいきなり出したら、市場がめちゃめちゃ荒れるで。」


キアラは、セイジのとんでもなさを知っているので、本気で心配した。

もはや理屈ではない、本能的に危機を感じているのだ。

確かに、生産にかかわっている職業の人たちが大ダメージだろう。


「ああ、それは気を付けよう。どうせ戦費も必要になるんだ。ディリエル(を通じて公王)に手伝ってもらうさ。」


歴史小説も大好きだったセイジは、ある程度この先の展開が読めている。


これほどの無茶をやる以上、経費の問題は国家予算レベルに跳ね上がる。

相手はそれ以上の利益と利権を奪わねば、何のためにやったか分からない。

おそらく最悪戦争にまで押し込まないと、相手は経費倒れで国が潰れかねない。


しかも、


ここまでの様相を見て分かるが、計画性が皆無ときている。

こういう相手は、ぎりぎりまで賭けを積み上げて、ブラフ(ごまかし)で脅し取ろうとする。

それで負けたら、いきなり殴りかかって相手を潰そうとする。

国家と名乗っても、チンピラと何も変わらない。



ディリエルとセイジの要請もあって、キーロッカーとキアラ、公王とラドルビン筆頭王宮魔導師にして副宰相と軍トップのグシャーネン将軍とライザー財務卿を交えて、秘密会議が開かれた。


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