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幕間その5 <魔剣のイーラ>

セイジたちの新居も、そろそろ完成が近い。

忙しい合間を縫って、内装にかかっている建物を見ては、どこに何を置くかなどを、妻たちに決めさせていく。かなり長くてうんざりするが、こういうこまめな事が女性は喜ぶのだから、妻たちを愛しているセイジは辛抱強く付き合っている。


「おい坊や」

「そこのガキ」


大きな家具屋から、馬車を泊めている駐車場(と言っても単なる広場)に向かうと、前と後ろから声をかけられた。


ただ、どっちも声をかけた相手の顔を見て、困惑している。


「お前たちはなんだ?」

「おめえさんたちこそなんだ?」


どっちも似たような、ならず者っぽいが、前の方のは少しだけ上等そうな武装をしている。後ろの方のは、かなりぼろい。


「俺のことか?」


セイジが言うと、


「ほんっとうに、こんな坊やが、」

「ほんとうにこんなガキが」

「「ドラゴンスレイヤーってのか?」」


最後だけ見事にハモった。


『同類だな、それも本気で雑魚っぽい。』


セイジは呆れながらも、人数が前が8人、後ろが10人いて、道をふさいでいる。


「セイジは出ない方が良いよ。どうせこいつらは、あんたの評判を落とすための雑魚だし。」


イーラが前に出た。


「雑魚だとぉ!」


チンピラが切れるが、イーラは気にも止めない。


「セイジじゃあ、この連中を皆殺しにしかねないし、そうなったら悪い評判を流すつもりだろうね。」

「よくわかるな。」

「あたしも、何度かやられた事があるのよ。」


「おうねえちゃん、ひん剥いて吊るすぞコラァ。」

「舐めたこといってっと、犯して女郎屋に売っぞコラァ。」

「やっぱり同類だな・・・」


20人近い相手に、イーラは平然と背中の大剣を抜いた。毎日のように剣を合わせて訓練をしているセイジだが、この人数に大丈夫なのだろうかと、いざとなったら左手ヴェルムンガルドを起動するようにしておく。


「セイジ、何で私が〝魔剣の”って呼ばれてるか、知ってる?。」

「今持っているそれが、魔剣なのか?」

「うふ。」


イーラは片頬だけ上げるように笑い、すっと前に出た。相変わらず早い。


「なめるなゴラァ!」


イーラに対して、前の3人がほとんど同時に剣を振った。


 ガシャアッ


イーラの大剣が猛烈なスイング。2本が砕け、1本もへし曲がっている。

だが、持っていた人間たちが、柄にはじけた衝撃で両手を血まみれにして転がった。後ろの数名も巻き込む。日本刀のような二重構造の柄なら、砕けて衝撃を分散できるだろうが、単なる鉄や皮を巻いただけの柄では、へし折られるほどの反動は持ち手の腕に直撃する。手の骨ぐらいは砕けただろう。


後ろから迫った4人が、剣を振りかぶろうとして、イーラを見失う。


 ベベベベベベベベシィッ


地を這うように低くした姿勢から、巨大な剣の横腹で足のスネをひっぱたかれ、全員悶絶して転がった。


「あれは痛い・・・」


弁慶の泣き所を、へし折れるぐらい殴られたのだから、失神できたやつは運がいい。

だが、セイジは同時におかしなことに気付いた。

イーラが並みの女性よりはるかにたくましいとはいえ、あの大剣はかなりの重量で、片手で振り回せるような代物ではないのに、左手を地について、右手一本で4人を薙ぎ払っている。

イーラの体も一回り大きくなっているような気がして、よく見ると大剣にも体にも白いモヤのようなものが取り巻いていた。


イーラが立ち上がって剣を振り上げると、残りは全員怯えて逃げ出した。それも突然何かの恐怖が、体を痺れさせたようだ。


「ちっ、役にたたねえな。」


前の8人が逃げ散ると同時に、吐き捨てるような声がして別の8人が出てきた。すきの無さそうな歩き方や、目の動きで、さっきのチンピラよりは上のようだが、セイジに言わせると『ほとんど変わらん』。

ただ、持っている装備が段違いに上のようで、全員青い文様を描かれた丸盾と、かすかに燐光を放つ剣を持っている。


「真打とうじょーう。さて、ドラゴンスレイヤーとかの化けの皮をはがそうかぃ。」


そこそこ腕っぷしだけはありそうな、身長190を超える茶色の髪の長い男が、黒い剣を抜いた。これも光をかすかに放っている。

イーラは、盾の文様に見覚えがあった。打撃の一部を反射する魔法を刻み込んだもので、傭兵時代に見知った相手だ。


「その盾、ブェイゴの所のか。」

「おろー、知ってんのかい。〝鮮血の狂犬"こと魔剣使いの傭兵団ブェイゴ・ブラザースだよぉ。」

「じゃあ、あたしの二つ名は知ってるかい?。」

「雌犬のくせして、魔剣のイーラだと?、笑わすぜぇ。」

「クッククク、オムツ外れたばかりの駄犬が笑わすよ。ブェイゴだったら土下座して謝ってるわ。」


ブチッと、チンピラどもの切れた音がしたような気がした。それでなくとも魔剣の名前が気に食わないらしい。


「このくそビッチがあああああっ!」


黒い剣が、黒い煙を上げてイーラに襲い掛かった。


「それなり、だな~」


普段イーラの練習相手をしているセイジから見ると、それなりの剣で、それなりのスピードと、そこそこ程度の威力である。


 メキッ


イーラの大剣が、軋みを上げ、白く発光する。


「むだむだむだむだああああっ!」


黒い剣が素早く振られ、黒煙が視界を淡く奪う。

黒い煙が、黒い剣を隠し、フェイントを交えて剣筋を隠して襲う奇襲は、セコイように見えて効果は抜群、男の黒剣の攻撃は、まだ防がれたことが無い。


男の足が踏み込みを変えた。


殺意の剣が変化し、必殺を狙った。




 ベキッ




嫌な音がして、男の腕がへし曲がった。


「え・・・・・・・・・・・?、な、なんで・・・・・・???」


腕の感覚が無くなり、両腕がよじれ、右腕の半ばから骨が付き出している。

斬撃から突きにチェンジし、相手の肋骨を突き折っているはずの剣が、あさってに飛んでいった。


「剣が見えないからって、足の配りで構えが変わるぐらいお見通しよ。鍛え方も足んないわね。体格に恵まれてっから、手ぇぬいてたろ。」


白い光は、剣だけでなく、イーラの全身を淡く覆い、兜のような形から背後にたてがみのような物がなびいている。

相手をブッ刺し、断末魔にのたうち回る光景を楽しみに全力で突っ込んだ男は、突き3分引き7分の鉄則を忘れ、イーラの剣さばきに巻き込まれて、両腕ごとねじり折られたのだ。


大剣がうなりをあげ、その横っ腹で男をひっぱたいた。


 ベシイイイイッ

「あべしいいいいいいいいぃぃぃっ!」


思いっきり痛そうな音がして、10メートル以上吹っ飛ばされ、男は白目をむいて動かなくなった。

他の連中も、前後の見境なく切りかかったが、大剣の横っ面でひっぱたきまくられ、鋼鉄のビンタに鼻が陥没したり、顔が半壊したり、尻の肉がつぶれて悶絶したりと、むしろ切られていた方がましのような状況だ。


「うっひゃあぁぁぁ、えげつない・・・あいつらもう表を歩けへんで。」


キアナのつぶやきは、セイジもイーラに聞いた事がある。真剣勝負に、剣の横腹でひっぱたかれたら、『剣で切る価値も無いヒヨッコ』という烙印を押されるのだ。だいたい、剣の横腹は、一番の弱点であり、刃やハンマーをぶつけられたら簡単に折れる事がある。そんなところで殴られるのは、剣を扱う者としては『ど素人』と罵られても文句が言えない。それほどイーラと連中には技量差があるということだ。見抜けないで剣を抜いた奴らが悪い。


「それにしても、イーラの剣はどういう魔剣なんだ?。えらく丈夫だが。」


 ベシィッ、  ベシイッ、  ベシッ、  ベシイイッ、

「うわらばっ」「あわびゅっ」「どげしっ」「でべへっ」


それなりに鍛えている連中なので、人体とはいえあれだけ容赦なくひっぱたきまくったら、剣にもガタぐらい来そうなものだ。魔力のありそうな盾まで卵のように粉砕されているし。見てるこっちが痛くなる。


「え?、あれ魔剣とちゃうで。うちがときどきメンテをするんやけど、ごくふつーの剣やで。よく鍛えられてはいるねんけど。」


キアナの工房はゴーレムの研究はしていたが武器工房としても有名で、彼女が鍛えた武器の価値は極めて高かった。そのキアナが言うのだから、間違いはあるまい。それでは、イーラを包んでいる光は何なのか?。


戦乙女憑ヴァルヴェリアルブかしら・・・?。」


ディリエルのつぶやきがセイジに聞こえた。


「なんだそりゃ?」

「神霊の高位精霊で、勝利の精霊と呼ばれる戦乙女ヴァルヴァリエが、古代の伝承にはあるのです。なんでも、それを召喚憑依させて、圧倒的な力をふるった者がいたらしいのですけど・・・あくまで伝承なんです。実際に見た人はいません。」


見ると、男どもは全員白目をむいて泡を吹きながら転がっていて、これから男として生きていけ無さそうな状況に、セイジはほんの少し同情したくなる。要するに、あの光のせいで、イーラの使う剣は魔剣と思われていたわけか。


「それに伝承では、戦乙女ヴァルヴァリエは、全ての勝利した相手の武器を奪い、背中に4本の神・魔・精・冥の大剣を背負い、魔剣、聖剣、神剣、鬼剣、名剣、奇剣、魔法剣、槍にパイクにメイスにアックス、フレイル、棒、棍、ヌンチャク、トンファーなどなど、999本の武器を身につけていると言われています。どう見てもそうは思えません・・・」


『それって、どー見ても武蔵坊弁慶だろ!!』


金髪碧眼で、僅少な布地と最低限の金属で、美貌と女体を本末転倒の美しさで描き出される戦乙女バルキリーのイメージが、白い頭巾をかぶり、黒くてごつい法衣と鎧を身に付け、背中に武器がハリネズミのように飛び出したどでかいおっさんのイメージで塗りつぶされる。夢が壊れるというのは、切ないものである。セイジは、俺の純情を返してくれと言いたくなった。


全員のして、振りかえったイーラが、ニコッと・・・・笑わなかった。


淡かった体の光が、全身を真っ白に覆い、白銀の全身鎧と化している。

フルフェイスの顔面に、二つ空洞のような目の部分が空き、強い光があふれ出ている。

見る者に恐怖を与える魔力の光。


1歩で3メートルを飛び、2歩目で、セイジを必殺の圏内に入れた。3歩目で、剣筋がセイジの正中線を割った。


『ああ、懐かしいな。』


全てがスローモーションのように見える。いや、先に見ている、1秒先の世界を。超能力ちからの予知視力で感じ取っているのだ。以前はその直後に、ぶちっと神経が焼き切れ、卒倒した。中学一年の夏だった。


それでも、当時は左目が見えない分、0.0001秒先を見るように、超能力をぎりぎりまで絞り込むことで、現実世界をほぼ見ていた。


セイジはゆらりと体をずらし、大剣を持つ手をさばき、力のベクトルを変え、踏み込む力を空回りさせて回転させる。その力は地面に転がるはずだった。だが、白銀の鎧は大剣から手を離すと、自らさらにつま先に力を加えて、回転を加速させ、完全に宙で一回転して音も無く地面に降り立った。


ドスウッ


大剣が地面に深々と刺さり、鈍い音を立てた。


::おみごとです::


いつものイーラの明るい声ではない。感情を全て削り落したような、くぐもった無機質な声。


::さすがわが主::


「おい、俺の妻はイーラだ。お前じゃない。」


カッと怒りが沸いた。愛した女を騙られた気分だ。


::いいえ、貴方様は、私の主です。神之左手ヴェルムンガルドを所有する御方。::


シャッとフルフェイスの顔面が左右に割れた。

黄金の瞳と高い鼻筋を持つ、華やかだが残酷で高慢な美貌の顔。

セイジに本気で惨殺する攻撃を仕掛けても、それを躱されて当然としている恐ろしい高慢が優雅に笑った。


::神威第一階梯、オシリスの戦乙女ヴァルヴァリエでございます。以後お見知りおきを::


高慢な美女は、それだけ言うと光と化して消えうせた。そこには、あれ?という顔をするイーラがいた。


「今なんか、意識が飛んでたかな?」

「イーラが戦乙女憑ヴァルヴェリアルブだってことが、分かったよ。」


そんな中で、ディリエルが何とも言いようのない顔で、口をへの字にしていた。


「ディリエルは何かしってるのか・・・・?」


だが、何も言わず馬車に乗り込む。

セイジたちも仕方なく馬車に乗り込んだ。





「ばけものかよ・・・・」

「んだな・・・・」


たまたま狭い路地に逃げ込んだ、前のならず者と後ろから来たならず者が、思わず声を漏らす。

命拾いしたと心底思っていて、どちらも腰が抜けている。

まだあの鉄のビンタの音が、耳から離れない。


「お前んところは、どこだい?」

「ああ、紙商人のブデビットの雇われだよ。」

「そっかあ、おれぁベンダン公爵ん所の下っぱよ。」

「ジャリ銭ぐれえじゃ、合わねえよなあ・・・」

「おーそうだ、上の方は上の方でやらせようぜ、やってらんねえよ。」


こうして、思わぬ成り行きから、ベンダン公爵と紙商人ブデビットの伝手が生まれたのだった。





ピシッ、ガラガラガラッ


いつものように、一鞭あててセイジたちの馬車が走りだした。


あまり読みやすい文章はかけていないように思うのですが、

データ解析を見てみて、意外に携帯で見ていただいている方が多いのに驚きました。

PC、スマホの方も、ありがとうございます。

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