第2話「連帯の檻」
※本作は、
まだ古い学校の空気が色濃く残っていた頃の、
学校空間の記録です。
過去に起きた出来事を、
映像記録のような感覚で綴っています。
当時実際に使われていた方言表現や、
当時の言い回しをそのまま残している箇所があります。
また、
重苦しい描写や精神的圧迫を含む表現がありますので、
苦手な方はご注意下さい。
※当時の空気をそのまま体感してもらうため、
感情表現は極力削り、
事実の断片を中心に並べています。
後日。
あの罰則は、
単位に関わるものだったのか、
それとも単なる罰だったのか。
母は、
それを確認してきなさいと言った。
そして、
もし単なる罰だと言うのなら、
『家へ来て、
土下座して謝れ』
と伝えてきなさいとも言った。
私は、
担任へ聞いた。
すると担任は、
苛立ったように怒鳴った。
『罰に決まっているだろうが!』
私が、
「土下座して謝れ」と伝えると、
担任は、
小さく鼻で笑った。
『みんな、
決められた工程を、
最後までやり遂げたんだぞ』
家へ戻り、
そのことを両親へ話した。
両親は、
強く怒っていた。
だが、
担任の言葉だけが、
耳へ残った。
◇
あの頃の学校には、
常に見えない圧力が漂っていた。
廊下を歩くだけで、
どこか息苦しい。
教師の機嫌一つで、
教室の空気は簡単に凍りつく。
誰も、
教師へ逆らえるとは思っていなかった。
当時の私たちにとって、
教師は絶対だった。
竹刀を持ち歩く教師もいた。
それだけで、
廊下の空気は、
静まり返っていた。
◇
ある日の授業中。
教室は自習状態で、
担当教員は席を外していた。
少しざわついた教室。
笑い声。
机を引く音。
誰もが、
いつもの時間だと思っていた。
その時だった。
前の扉が、
ガラガラと音を立てて開いた。
だが、
入ってきたのは一人の生徒だった。
安心したように、
再び教室へざわめきが戻った。
うつむいたまま、
ふらつくように歩いている。
顔は真っ青だった。
今にも泣き崩れそうな顔で、
おぼつかない足取りのまま、
ふらふらと教壇へ向かっていく。
ざわついていた教室が、
少しずつ静まっていった。
誰も、
笑わなくなっていた。
やがてその子は、
震える声で言った。
『みんな聞いて……』
その一言で、
教室は一瞬にして静寂に包まれた。
全員の視線が、
その子へ集まる。
その子は、
絞り出すような声で続けた。
『さっき……
体育教師に呼び止められて……』
そこから先は、
か細い涙声になり、
うまく聞き取れなかった。
途切れ途切れの言葉だけが、
静まり返った教室へ落ちていく。
『連帯責任で……
このクラス全員、
留年させるって……』
空気が止まった。
誰も、
動こうとしなかった。
『すみませんでした……』
その子は深々と頭を下げた。
勢いよく扉を開け、
教室を飛び出していった。
数人の生徒が、
慌ててその子を追いかけた。
誰も、
すぐには口を開けなかった。
◇
しばらくして、
後ろの扉が開く。
戻ってきたその子は、
自分の席へ座るなり、
ハンカチで目を押さえた。
涙が、
机へぽたぽたと落ち続けていく。
そんな背中を、
複数の生徒が、
声をかけながら、
さすり続けていた。
『なんで、
うちのクラスだけ
こんな目に遭わなきゃいけないの!』
一人の生徒が叫んだ。
『担任がちゃんとしてれば、
こんなことにならなかったはず!』
別の生徒が言う。
さらに別の生徒が、
涙声で叫んだ。
『ベテランの先生たちは、
教師同士の繋がりも強いけれど……
うちの担任は新人だから、
その皺寄せが全部、
私たちへ来るんだ!』
泣き声。
怒鳴り声。
『どうしよう……』
その言葉だけが、
何度も繰り返される。
誰も、
未来の話をしなくなっていた。
体育教師は、
常日頃から言っていた。
『親に言っても無駄だぞ』
『俺は保護者相手でも負けない』
教室には、
クラス全員の泣き声だけが、
いつまでも響いていた。
異世界は
過去にあり。




