祖父の葬儀の日
まだ古い学校の空気が、
色濃く残っていた頃の、
学校空間の記録です。
これは、
当時実際に体験した出来事を基にした、
空気の記録です。
過去に起きた出来事を、
映像記録のような感覚で綴っています。
当時の学校空間に存在していた、
沈黙や閉塞感を、
できる限りそのまま残しています。
重苦しい描写や、
精神的圧迫を含む表現がありますので、
苦手な方はご注意下さい。
まだ、
古い時代の空気が
色濃く残っていた頃。
私にとって、
誰よりも大きな存在だった。
祖父の葬儀が行われた。
祖父は、
自分にも人にも厳しい人だった。
国から賞されるほどの重い功績を残し、
その生き方に強い誇りを持っていた。
そんな祖父との、
別れの日。
親族の中には、
一般的な会場での葬儀を望まない者もいた。
昔ながらの考えが、
まだ強く残っていた時代だった。
親族それぞれの想いが交錯する中、
葬儀は静かに執り行われた。
線香の匂い。
ゆっくりと昇っていく煙。
あの厳しかった祖父が、
もう動かない。
家族として、
最期を見送る。
そこに迷いはなかった。
だが、その日。
私の通う高校では、
毎年恒例の定例行事が行われていた。
試験でもなければ、
進路に直結するような重要行事でもない。
ただの定例行事だった。
翌日。
学校側から告げられた言葉は、
短かった。
『いかなる理由があったとしても、
罰則は受けてもらいます』
私は微熱を出していた。
葬儀の疲労も重なり、
足元はふらついていた。
それでも教師は、
校内の大階段を指差した。
『往復十周』
体調が悪いことを伝え、
拒もうとした。
すると教師は、
無表情のまま言った。
『拒否するなら、
一日ごとに十周追加する』
見下ろすほど長い階段だった。
灰色のコンクリートが、
下へ向かって続いている。
下りきれば、
今度はその階段を、
上らなければならない。
私は走った。
重い身体を引きずりながら。
息が切れる。
喉が焼ける。
足が震える。
下るたびに、
次の上りが待っていた。
階段を上るたび、
左側には担任が立っていた。
無機質に、
回数だけを数えていた。
私は、
その横を、
何度も通り過ぎた。
それでも止まれなかった。
当時、
教師の言葉に逆らうという空気は、
学校の中にはなかった。
冷たい階段に、
自分の呼吸だけが響いていた。
祖父を見送った翌日。
私は、
ただ階段を往復し続けていた。
この出来事は、
まだ携帯電話もインターネットも、
一般的ではなかった時代の話です。
学校の中で起きたことを、
子どもが外へ伝える手段は、
今より遥かに限られていました。
教師という存在が、
今よりずっと絶対的だった時代。
今の感覚では、
信じられない空気かもしれません。
ですが、あの頃
確かに、
そういう時代が存在していました。
異世界は、
過去にあり。




