4.渡辺優斗
やっと今日の授業が全部終了し、放課後がきた。
授業の半分くらいは寝落ちてしまい、その度に灯里が助けてくれた。
灯里が隣の席で良かった。このまま家に帰ろうと思ったが、この高校は部活動への参加が強制されているため、部活動への見学へ行かなければならなかった。
しかし、まだどの部活に入ろうかを決めていない。
青春を謳歌したいなら吹奏楽部とか何かしらの運動部・・・。
しかし、俺は楽器も何一つ弾けないし運動神経もいい方ではないためこの選択肢は除外される。
そうなると、何かしらの文化部に所属するのが一番ベストなのだろうが、どの文化部に行こうか迷っている。
部活動のリストを眺めていると、パソコン部という文字を発見した。
しかし、これは入りたい部活が無かった時の最後の手段にしておきたかった。
パソコン部というと、どうしてもオタク系の人たちが集まっているというイメージが拭えない。
しかし、他に入りたい部活もなかったのでパソコン部の見学に行くことにした。
活動日は月、水、金。よし、今日は活動している。
活動場所は第二コンピューター室。さっき授業があった教室だ。
教室の入ると、先輩が笑顔で歓迎してくれた。
「君一年生だよね?自由に見学していいから」
優しそうな先輩だ。姿を見る限りオタクっぽさはないし、この学校のパソコン部はあまりその辺は心配しなくてもいいみたいだ。
空いている席に座り、パソコンのスイッチを押す。
ログイン画面が出てきたので、IDとパスワードを入力・・・。
数秒待つと、デスクトップが表示された。
とりあえずブラウザを開き、美琴が熱中しているオンラインゲームの攻略情報をチェックする。
すると、教室のドアが開く音が聞こえた。その音の後にさっきの先輩の声が聞こえる。
「君も一年生?自由に見学していってね」
どんな奴が来たのか気になり、ドアの方を見るとメガネをかけた男子生徒が立っていた。
どこかで見たことがある奴だと思ったら、同じクラスの出席番号が一番後ろの奴だった。
さっきプリント回収してたやつか・・・と思っていたら、そいつが俺の隣の席へ座った。
他にも空いている席があるんだからわざわざ隣に来なくてもいいのに。
そうすると、突然そいつが俺に話しかけてきた。
「お前って誕生日七月十六日なの!?俺と同じ!!!」
はい???なぜこいつがその数字を知っている?まさか、あの紙を見られたか?
「え・・・?俺の誕生日ではないけど・・・なぜそれを知っている?」
「さっきのパスワードの紙さ、あれ裏返しにしても結構見えるんだよね。本当は全員分覚えておきたかったけどそれはキツいから君のパスワードだけ覚えておくことにした。俺は渡辺優斗。よろしくな」
いやいやいや。ありえない。なんでそれを本人に話しちゃう?せめて心の中に隠しておけよ・・・。
しかし、同じクラスで親しい人は灯里しかいなかったので、話しかけてくれてなんだか嬉しい気持ちが心のどこかにあった。
「俺は・・・浜岡涼太。パスワード悪用するなよ」
「俺がそんな人間に見える?」
「めっちゃ見える」
俺が正直な事を言うと、渡辺は首をかしげ、納得がいかないようなしかめっ面を見せた。
いや、そりゃそうだろ。
「あ、浜岡くん。そういえばさあ、さっき廊下でこんなもの拾っちゃったんだ」
渡辺はそう言い、ニヤニヤしながらポケットから紙切れを取り出した。
それは、IDとパスワードが記載されたメモ帳の切れ端だった。
「これ誰の・・・?」
「分からん。だから、これから試してみようぜ」
渡辺はそう言うと、隣のパソコンの電源を付けた。
「おいおいやめとけよ、入学早々謹慎処分とかなりたくないわ」
「平気平気、ログ削除すれば大丈夫」
本当に大丈夫か・・・?不安で仕方ならない
しかしそうは言ったものの、俺は少し興味があったのでこのまま見守ることにした。
こいつ、パソコン詳しそうだな。
しばらくすると、デスクトップ画面が表示された。どうやらログインに成功したらしい。
渡辺はしばらくパソコンを操作すると、驚くような顔をこちらに向けた。
「こいつは驚いた。教員しかアクセスできない場所にアクセスできる」
俺は最初言っている意味が分からなかった。
「というと・・・?」
「このアカウントの持ち主は教師ってことだ」
そうなるとこのメモは、誰かは分からないが先生が廊下で落としてそれに気付かないでそのまま拾わずに行ってしまったと推測できる。
しかし、情報処理専門の人がこんな紙を持ち歩いているというのは少し考えづらい。
四桁なら覚えておくことは容易なのでメモする必要もない。
「おいおい、変なファイルがいっぱいあるぜ」
俺がそんなことを考えている間に、渡辺は教員専用のストレージを漁り始めている。
「やめとけって。この紙処分してもうログアウトした方がいい」
そんな俺の忠告を無視し、渡辺は漁り続ける。困ったやつだ。
横目で見ていると、たくさんの興味深そうなファイルが出てくる。
「全校生徒の名簿とIDもある。あと、こんなものを見つけた」
渡辺に言われてモニターを見ると「謹慎指導者教育スケジュール.txt」というファイルがあった。
「これに俺たちの名前が載らないようにしないとな・・・」
渡辺が小さな声で言った。本当にそう思っている奴がこんなことするとは思えないのだが。
その後も渡辺の暴走は止まらない。
「さっきうちの担任がさ、個人のストレージには本人しかアクセスできないっていってたじゃん?あれ実は、教員は生徒のストレージに自由にアクセスできるみたい」
渡辺はモニターの画面を見せてきた。そこには、生徒のIDが上から下までびっしり並んでいる。
試しに適当なIDをクリックしてみると、その人の個人用ストレージの中身が表示された。
一年生のIDだったので中身はまだ空だが、確かに教員からはアクセスできるみたいだ。
「困ったなあ~エッチな画像とかしまえないじゃん」
「そんなもん学校に持ってくるな」
俺が突っ込むと渡辺は笑った。そして、パソコンの電源を消すと席を立ちあがった。
「俺これからバイトだからもう帰るわ。その紙、浜岡がしっかり処分しておけよ」
そう言って、俺の前に紙を置くと先に帰ってしまった。
それから数分、俺は渡辺がログを削除して帰らなかったことに気付いた。
しばらく考えていたが、当然俺はそのやり方が分からない。
よし、俺が自宅謹慎になったらあいつに焼肉でも奢ってもらおう。
もちろん、値段の上限なしで。
一番いいのはあのことがバレないことなのだが・・・。
それを心の中で強く願い、俺は教室を後にした。
廊下の窓から西日が強く入ってきて眩しい。
しかし、その光景を見ると青春っていう感じがする。
しばらくボーッと眺めていたが、ふと我に返り、俺は家へ帰ることにした。




