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第106話 家格を理に変える



 御着。


 評定後。


 静かな部屋。


 そこに。


 小寺政職。


 そして。


 櫛橋伊定。


 伊定。


 姫路と御着の市について。


 報告をしていた。


 政職。


 興味深そうに聞く。


「で」


「何をしておった」


「黒田は」


 伊定。


 少し考える。


 そして。


 正直に言った。


「ただ」


「椅子を置いて」


「茶をすすり」


「商人から物を貰い」


「一言、

 感想を言っていただけでした」


 政職。


 少し止まる。


「……それだけか?」


 伊定。


 頷く。


「ですが」


「その感想が、

 市の中で良い噂になります」


「良い噂になれば、

 その店が繁盛する」


「それを見て、

 別の商人も集まる」


「そうして、

 市の流れが出来ておりました」


 政職。


 静か。


 伊定。


 さらに続ける。


「あと」


「屋号を、

 与えたりもしておりました」


 政職。


 少し眉が動く。


「屋号を?」


 伊定。


 頷く。


「塩屋が」


「二件目の見世を出せた礼に、

 塩を持って来まして」


「見世の名を、

 頂きたいと願い出ました」


「そこで黒田は」


「“姫塩”と」


 政職。


 少し黙る。


 武家が。


 商人へ。


「名」


を与える。


 それは。


 ただの遊びではない。


「認める」


意味を持つ。


 伊定。


 さらに続ける。


「故に」


「他の地でも、

 出来る事だとは思います」


 少し止まり。


「しかし」


「家格を、

 理に変えておりますので」


「普通の武門では、

 なかなか思い付かぬ事です」


 政職。


 静か。


 武家。


 本来。


「格を保つ」


もの。


 普通なら。


 市で長居などしない。


 少し見回り。


 声を掛け。


 終わる。


 だが黒田。


「椅子を置き、

 滞在する」


 茶を飲み。


 商人と話し。


 感想を言う。


 そして。


 その場へ。


 人を集める。


 しかも。


 恐怖でも。


 命令でもない。


「良い噂」


で。


 人を動かしていた。


 伊定。


 さらに。


 静かに言う。


「自らの家格を、

 理に変えております」


「ですが」


「普通の武門ほど、

 家格を崩したがりませぬ」


「故に、

 思い付いてもやらぬでしょう」


 政職。


 少し考える。


 だが。


 黒田。


 元々。


 商人との距離が近い。


 だからこそ。


「格を崩す」


ではなく。


「格を流れへ変える」


事が出来ていた。


 政職。


 しばらく黙る。


 そして。


 ぽつり。


「……面白い事を、

 考える」


 その言葉は。


 笑いでも。


 賞賛でもない。


「得体は知れぬが、

 確かに益を生んでいる」


 そんな感心と警戒が。


 少し混じった声だった。


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