第99話 いつも通り
市の日。
焼き見世。
茶。
椅子。
そして。
黒田職隆。
と。
黒田万吉。
黒田二代。
並んで座っていた。
その光景に。
市。
完全にざわついている。
商人達。
動けない。
近付きたい。
だが。
城代本人。
さすがに。
空気が重い。
さらに。
女衆も。
緊張している。
すると。
万吉。
周囲を見た。
そして。
立ち上がる。
皆。
静かになる。
万吉。
そのまま。
声を張った。
「わが父」
「黒田職隆は」
「いつも通りでいいと、
仰せだ」
周囲。
少しざわつく。
万吉。
さらに続ける。
「持って来たい物は、
持って来い」
「話したい者は、
話せ」
「いつも通りだ」
周囲。
少し止まる。
そして。
職隆を見る。
職隆。
茶を飲みながら。
小さく頷いた。
それを見て。
空気が変わる。
まず。
一人。
餅屋。
恐る恐る近付く。
「……若様」
「こちら、
新しい物で」
万吉。
受け取る。
「父も食うか?」
職隆。
少し呆れた顔。
「何故わしまで、
試食役になっておる」
周囲。
少し笑う。
空気。
緩む。
すると。
また一人。
漬物屋。
茶売り。
炭売り。
少しずつ。
人が寄って来る。
そして。
気付けば。
「市の端」
に。
一番人が集まっていた。
その後。
しばらくして。
職隆。
立ち上がる。
周囲。
静かになる。
職隆。
周囲を見ながら。
ぽつり。
「うむ」
「今日は楽しかった」
商人達。
少し驚く。
さらに。
職隆。
続ける。
「たまには、
顔を見せる」
「だが」
周囲。
見回す。
「人だかりが多すぎて、
詰まるな」
「わしは、
役人小屋に出よう」
そう言って。
立ち去って行く。
そして最後。
少しだけ振り返り。
「あと」
「今日はうまかった」
そう残した。
その瞬間。
市。
少し湧いた。
焼き見世の女衆。
顔を見合わせる。
商人達も。
少し嬉しそうだった。
そして。
万吉。
普通に。
「また来るな」
と言っていた。




