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第95話 一言



 市の日。


 焼き見世。


 最近。


 かなり妙な場所になっていた。


 理由。


 黒田万吉。


 が。


 座っているから。


 しかも。


 ただ座るだけではない。


 食う。


 そして。


 感想を言う。


「甘いな」


「これは茶に合う」


「しょっぱいのもいい」


 たった。


 それだけ。


 だが。


 商人達は気付いた。


「感想を貰える」


 しかも。


 黒田の若。


 これは。


 かなり大きい。


 そのため。


 次の市。


 別の見世。


 また別の見世。


 皆。


 何かしら。


 食える物を用意し始めた。


 餅。


 焼き物。


 漬物。


 干した物。


 そして。


 若の所へ持って行く。


 すると。


 万吉。


 普通に食う。


「これは甘いな」


「こっちは、

 腹に溜まる」


「茶欲しくなる」


「塩効いてるな」


 商人達。


 真面目に聞く。


 そして。


 もっと重要なのは。


 その感想を。


 周囲の客も聞いていること。


「若がうまいって言った」


「茶に合うらしい」


「甘いの控えめだと」


 すると。


 客。


 流れる。


 その見世へ。


 寄る。


 つまり。


「若の感想」


 が。


 そのまま。


 客を動かし始めていた。


 さらに。


 商人達。


 少し離れた場所で。


 話し始める。


「しかし」


「黒田の若、

 変わってるな」


「普通、

 あんな座らんぞ」


 別の商人。


 頷く。


「それに」


「結構、

 物持ち良さそうだ」


「食って終わりじゃない」


「ちゃんと人にも回してる」


 実際。


 その日も。


 商人。


 餅を少し多めに持って来た。


 万吉。


 数本食う。


 そして。


 止まる。


「お前らも食うか」


 焼き見世の女へ。


 一本。


 護衛へも。


 渡す。


 護衛。


 少し困る。


「……我らもですか」


 万吉。


 普通。


「多いだろ」


 さらに。


 井上之正にも投げる。


「井上も食うか」


 井上。


 苦笑。


「最近、

 私も試食役ですな」


 周囲。


 笑う。


 だが。


 商人達。


 そこも見ていた。


「ああいう若か」


 つまり:


・独り占めしない

・その場へ回す

・一緒に食わせる


 そんな空気。


 そして。


 気付けば。


 焼き見世は。


「ただ物を売る場所」


ではなく。


「人が集まる場所」


になり始めていた。


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