第79話 焼いてみた
梅雨。
雨。
続く。
外仕事もしづらく。
小屋の中で作業する時間が増えていた。
その日。
女衆の一人が。
困った顔をしていた。
「酒粕、
余っちゃいましたね」
飴を作った残り。
捨てるのも。
勿体ない。
すると。
別の女。
ぽつり。
「麦粉混ぜて、
焼いてみます?」
なんとなく。
試す。
最近。
この小屋では。
そういう事が増えた。
麦粉。
酒粕。
少し甘味。
混ぜる。
そして。
銅板で焼く。
じゅう。
匂い。
広がる。
子供達。
すぐ寄って来た。
「なんかいい匂い!」
焼き上がり。
少し固い。
だが。
香ばしい。
まず。
子供が食う。
「うまい!」
次。
井上之正。
「また私ですか……」
と言いながら食う。
止まる。
「……妙に、
腹に溜まりますな」
さらに。
「酒の香りも悪くない」
万吉。
見る。
「売れるか?」
即座にそこへ行く。
女衆。
少し笑う。
「どうでしょうねぇ」
だが。
その後。
小屋へ来ていた村人へ出すと。
「なんだこれ」
「うまいな」
「腹減らん」
意外と反応が良い。
万吉。
少し考える。
そして。
次の市の日。
父:
黒田職隆
の所へ行った。
「父上」
「市の見世、
もう一軒頼む」
職隆。
止まる。
「今度は何だ」
万吉。
普通。
「焼いたやつ」
「酒粕と麦粉の」
職隆。
少し黙る。
最近。
もう驚くのも疲れてきた。
万吉。
続ける。
「隣でいいから」
「匂いで人寄ると思う」
職隆。
額を押さえる。
だが。
少しだけ思う。
この若。
「人の流れ」
を作る感覚だけは。
本当に鋭かった。




