第73話 山裾
数日後。
万吉は。
子供達と。
通いの女を連れて。
山裾を歩いていた。
目的。
「紫蘇探し」
だったはず。
だが。
途中から。
完全に:
「山裾観察」
になっていた。
女。
草を指差す。
「若、
これ紫蘇ですよ」
万吉。
止まる。
葉を見る。
匂いを嗅ぐ。
「ほー」
少し進む。
「こっちは、
食える草ですね」
「これは、
干して使ったり」
次々説明される。
万吉。
普通に聞いている。
そして。
いつものように:
「どう使う」
へ行く。
「保存は?」
「干します」
「増えるのか?」
「種落ちれば」
「売れるかな」
女。
少し困る。
「売れるかは、
知りません」
周囲。
少し笑う。
その時。
少し先。
大きな木。
女。
指差す。
「あの木は、
栗ですね」
万吉。
止まる。
「珍しい」
近付く。
見上げる。
さらに。
別の木。
「こっちは、
秋に木の実なります」
万吉。
即座に聞く。
「食えるのか?」
「食べられますよ」
「干したりもします」
万吉。
止まる。
食える。
干せる。
保存。
全部。
好きな言葉。
そして。
栗の木を見ながら。
ぽつり。
「栗の木、
増えたらいいな」
周囲。
少し止まる。
万吉。
さらに続ける。
「結構、
栗好きだ」
子供達。
少し笑う。
女衆も。
笑う。
最近。
万吉は:
「流れ」
「保存」
「増やす」
ばかり言っていた。
だが。
今のは。
少しだけ。
年相応だった。
もっとも。
次の瞬間には。
「これ、
植えたら増えるのか?」
と聞いていたのだが。




