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#第60話 春の嵐



 春。


 雪も消え。


 少し暖かくなっていた。


 だが。


 その直後。


 空が荒れた。


 春の嵐。


 雨。


 風。


 そして。


 山から流れる水。


 去年までなら。


 この時期。


 川は溢れる。


 道はぬかるみ。


 荷車は止まり。


 村人達も。


 顔をしかめる頃だった。


 その日も。


 村人達は。


 少し構えていた。


「また来るか……」


「今年も溢れるかな」


 そんな声。


 だが。


「あれ?」


 水が。


 流れている。


 溢れない。


 去年なら。


 泥になっていた場所。


 そこも。


 まだ通れる。


 道も。


 完全には沈んでいない。


 荷車。


 止まらない。


 村人達。


 少しずつ気付き始める。


「去年、

 ここ溢れてたよな……」


「道、

 残ってる」


「水引くの、

 早くないか?」


 山裾。


 井上之正も。


 川を見ていた。


 去年。


 覚えている。


 泥。


 怒号。


 詰まる荷。


 人足を集め。


 何度も掘った。


 そして。


 今年。


「……流れてますな」


 ぽつり。


 隣。


 万吉。


 普通に川を見ている。


 だが。


 その目。


 もう別の場所を見ていた。


「今年は」


「あそこ」


「あの辺りかな」


 井上。


 止まる。


 万吉。


 少し先を見る。


 まだ。


 少し水が滞留している場所。


 流れが鈍い所。


 そして。


 ぽつり。


「あと」


「ため池ほしいな」


 井上。


 思わず万吉を見る。


 村人達は。


 今年。


 被害が減った事に驚いている。


 だがこの若は。


「次」


を見ていた。


 流す。


 だけではない。


「溜める」


事まで。


 考え始めていた。


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